展覧会Exhibition

内海聖史 - 方円の器 
写真:「色即是空」、油彩、水彩、キャンバス、4560 × 4680mm、2012年

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内海聖史 - 方円の器 

2012.10.5(金) - 10.21(日)

アートフロントギャラリーでは内海聖史個展「方円の器」を開催致します。
日程 2012.10.5(金) - 10.21(日)
営業時間 11:00~19:00 (月休)
会場 アートフロントギャラリー (すべての展示のオープンは10月10日より)
イベント レセプション:10月12日 (金) 18:00-20:00
作家在廊日  10月12日(金)、午後より
 2004年のMOTアニュアルや2008年の東京都現代美術館の「空中庭園」展など、様々な美術館やギャラリーの展示で内海の絵画から見てとれたのは、四角い画面の中の絵画というより、空間の中にどのようにどのような作品を配置するかという点に作家が強い関心を持ち、平面の作家の中ではある意味特異な姿勢を持って製作を続けている印象であった。今回の個展のタイトルの「方円の器」とは「水は方円の器に従う」という言葉から採ったそうで、場所に従って水のように変わる絵画を制作したい、という思いから来ているそうだ。
 多くの人は絵画は形状や素材という点において制約が多いジャンルだと考えている。これはインスタレーションに比して語られることだと思うが、立体では今でこそ様々な素材が使われているが、石彫や陶芸に比べれば絵画というジャンルの持つ制約はさしたるものではないはずだ。イタリアのルネサンス期のフレスコ画や桃山の障壁画においては既存の建築空間に合わせて画は描かれてきた。その分、作品が空間に密接につながっていた時代もあったのであるが、そこからキャンバスという支持体が生まれることで場に縛られる制約が外れ、近代においては美術を支えるパトロンや社会状況の変化によって風景や静物など画題が大きく広がる。さらにはチューブ絵の具の発明によって描かれる場所が自由になり、製作にかかる時間は短縮された。近年のアクリル絵の具の開発も絵画というジャンルの自由度をより高めたはずである。60年代のラウシェンバーグのコンバイン絵画やフランク・ステラの変形キャンバスは絵画は四角い形状であるという概念にも変化をもたらした。このように、絵画は獲得した自由度によってギャラリーや美術館だけでなく様々な空間にまで他のどの美術ジャンルよりも広範に拠り所を見出してきた。それにも関らず、マチスやシャガールらの事例を見るまでなく多くの作り手にとって、特定の空間に依拠した絵画のありようも常に魅力的であった様である。これはいったい何に起因するのであろうか。
 立体がインスタレーションというジャンルを作ることで空間の中で様々な素材を使い、より広範なテーマをもち、観客を作品の実体験の中に引き込むことで、空間を前提とした芸術へと広がる余地があったのに対し、一方絵画を見ると19世のヨーロッパではパノラマ絵画が流行したが、他に例えばオランジェリーのモネの睡蓮、あるいはより近い時代であればソル・ルウィットのようにシステマティックにシリーズ作品で空間を埋めつくすことをしなければ、絵画で空間を作り、見る側をその中に迎え入れる状況を作り出すことは日常的な状況では困難になっている。1枚毎の絵画の中の綿密にコンポジションにこだわる一方、その絵画を空間にどのように配置するのかにおいては無頓着な作り手も多い。これは絵画がむしろポータブルな壁面の窓のような単体の作品として扱われるようになってしまった結果生じた絵画の空間における所在のなさ、社会との関わりの中で描くよりも、むしろ四角い平面の中身で自足してゆくことに絵画の価値観の力点を置いてしまった絵画の社会性と空間性の欠落という本来絵画が担っていた社会の中での存在の意味を欠落しかねない状況もあるのでなかろうか。つまり、絵画の制約とは長らく子供の頃から美術の基本として紙に絵を描かせてきた美術教育やそれに慣れて絵画を「絵を描いた平面」として受け止める多くの受け手、そしてそのシステムを支える多くの供給者としての画家が制度的に制約を作り出してしまっているに過ぎないのではないか。過去の様々な時代よりも街角や居住空間が刺激に満ちた現代において、広告看板くらい事前の自由度を獲得している平面はあるのだろうか?
 方円の器を満たす作品を作ろうという内海の作品はどうだろうか。これまでの内海の作品を見る限り彼の作品はルネサンスの作家たちのように既存の空間に寄り添うものでもなければ桃山の障壁画のように空間を埋める大きな窓のような装飾でもない。ある時は空間を変え、ある時は見る人に空間の面白さを際立たせる存在である。そういった意味で内海の作品は絵画が既に自由度を確立した平面であることを前提として出発しており、空間の中において時には単なる平面とも言いかねる物体としての作品であることを求め、その場所を制し、寄り添うというよりむしろそのもので空間を作り上げる力を持った存在なのであろう。今回のアートフロントでの展覧会においてもギャラリーの凹凸のある壁面の部屋と大きな窓を持つ2つの空間を使って特異な平面作品を使ったインスタレーションを展開する。寄り添うこともなく、反発することでもなく、この方円の器としての空間はどのような形状の作品で満たされるのであろうか。
   
アートフロントギャラリー 近藤俊郎

「方円の器」展、作品「是空」の展示風景 (撮影:加藤 健)

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