展覧会Exhibition

田中 望  -場所と徴候-
「死者たちの杜へ」1700x2800mm(5月のアートフロントギャラリーに出品予定)

  • 田中 望  -場所と徴候-

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田中 望 -場所と徴候-

2017. 5. 12(金) - 6. 4(日)

この度アートフロントギャラリーでは、田中望の個展を開催致します。

※同作家の取り扱い作品、略歴、過去のイベント等は下部のサムネイルよりより詳しくご覧いただけます。
日程 2017. 5. 12(金) - 6. 4(日)
営業時間 11:00 - 19:00 (月休)
レセプション 2017. 5. 12 (金) 18:00 - 20:00
田中望は1989年宮城県仙台市生まれ、2014年にVOCA展にて当時、東北芸術工科大に在籍中に大賞を受賞。現代絵画におけるこれまでの都市の現代性や個の発露を中心とした絵画の流れに対し、地方の伝承をもとに描いた巨大な絵画にて一石を投じた。田中は地方の土着的なテーマを、民俗学的なアプローチから、自らフィールドワークやレジデンスを行い、知りえた口伝による歴史や風俗を絵画の中にとりこむ。彼女によって描かれるその土地の幾層にも重なった場所の歴史をタイムレスな絵画として表現しようとしている。これは、西洋におけるキャンバスの発達とともに、希薄になっていった絵画と場所の関係性をラスコーの壁画や西洋の祭壇画のようにその場に描くものとは異なる方法において、再び結び付けようとするアプローチととることもできるかもしれない。そしてこの数年それは、作家による賢明なフィールドワークによる実体験という部分をより意味のあるものとする方向へとシフトしてきている。
田中は2015年の横浜美術館での個展と天王洲における東北画を問うグループ展において、これまでの地方における地域性を中心とした絵画ではない、都市においてその地をテーマとした絵画を描く機会を得た。しかしこれは地方における民話や土着性をテーマとしてきた田中にとって勝手が違い難しいものだったという。
この経験がもとになり、田中は地方、地域という自らの興味に限定された範囲のテーマではなく、より普遍的であり、より多くの人と共有できるテーマとして、描く対象となる場所を中心とした絵画を始めようとしている。その場所の魅力や不可思議さを暴き出し興味の対象とするために、現象学的アプローチを求め、今和次郎が提唱した考現学を取り入れ始めている。これにより田中は自身がこれまで描いてきた対象から、各段にその範囲を拡大したといえるかもしれない。今回の展示では、葛藤の元になった天王洲の作品や新たなアプローチを持って描かれた都市の作品、そしてそれらを経て再び描く彼女の地元仙台と山形を中心とした新しい作品を展示する。新たな進化を始めた若い作家の未来に是非ご注目いただきたい。

「さなぶり」 803x1000mm 






2015妻有作品(インスタレーション)撮影:中村脩

場所とモノの神話学

 田中望の作品に描かれる民俗学的なモチーフを、東北というトポスと切り離して理解することは難しい。東北とは古代日本の辺境として、国家によって征服すべき対象とされた「野生の場所」である。21世紀初頭、この土地は突如として世界的な注目を集めた。太平洋沿岸部を襲った未曾有の地震と津波によって都市機能が崩壊し、多くの建造物やインフラが破壊され、人間も動物も死に直面した。同時に発生した原子力発電所の事故によって、多くの被災者が故郷から遠く離れた土地への移住を余儀なくされた。
 「場所性」の感覚を根本から揺るがす大災害の後、芸術界では多くの作家が被災地に赴き、実践的なアート・プロジェクトに参加するようになった。多くのアーティストは復興の過程に関わり、文明論的な反省や、社会的な課題を扱った作品を制作した。その傍で、都会では滅多に見ることのできないユニークな生業のあり方が見直され、自然の恵みに根ざした信仰や、祭礼や行事の途方もない価値が再認識された。多くの死傷者を出した災害の後にもかかわらず、他の場所では既に失われてしまった古い生活様式、貴重な芸能や信仰の数々が、東北には奇跡的に生き残っていたのだ。
 一連の作品世界が生まれた背景には、以上のような現実の複層性が存在している。丹念なフィールドワークに基づく作品群には、ポスト・モダン的な表象の戯れを超えて、特定の土地や地域に紐づけられた、過去・現在・未来を貫く「場所の記憶」が常に描かれている。そのイメージは日本列島の各地にかろうじて生き残っている豊穣な祭礼はもちろん、国道沿いにショッピングモールや量販店が続く全国の郊外の風景や、喧騒や広告の渦の中で思いがけない生命体と出会う都会の風景とも地続きである。前近代・近代・脱近代という一線的な歴史物語に強く抗いながら、彼女は「場所性」と「没場所性」に引き裂かれたもう一つの次元を発見し、そこに蠢く複数の神話や、歴史の中で潜在する光景を可視化しようとする。 
 私はこれらの光景に、すべてを受け入れて死と再生を繰り返す、あのおおらかな東北の山の思想を想起せずにはいられない。満ち欠けを繰り返す月のように、生は死に浸され、死は次の生に「場所」を譲り渡す。そこに人間と非人間の境界は存在しない。一回性の出来事が、夥しい記号の反復の中から浮かび上がる。ここでは人間、死者、動植物、菌類、建築物、偶像、装置、天体、食物等々が、同等の権利で犇めき合い、それぞれの画面の中で新たな生命を手に入れるのだ。田中望の目指す「場所性の芸術」は、そうしたモノたちのざわめきの中から、新生の神話として産声を上げる。

秋田公立美術大学 石倉敏明

「波間の町(水舟)」 550×1000mm

この作品のモチーフである岩手県大槌町・臼沢地区は、郷土芸能「臼澤鹿子踊り」で知られています。田中さん本人も2015年から、この臼澤鹿子踊り保存会の方々にお世話になり、踊り手の一員として臼澤祭りにも参加しています。大槌祭りは町なかを門打ちしながら練り歩く祭りで、彼女はその祭りに2年間続けて参加することで復興工事による町の変化を目の当たりにしました。海に近い低地ではかさ上げ工事が行われており、かつての生活の記憶が土の下に隠されていくように感じたそうです。
 また、大槌町には至るところに自噴水があり、源水川にはバイカモやイトヨが生息しています。そんな中で暮らす人々にとって生活の仕組み、暮らしの歴史、人と人との交流は、湧水にまつわる記憶として語ることができるのかもしれない。しかしそれらがかさ上げの土によって埋もれていくということを、この土地に暮らす人々はどのように受け止めているのだろうか、という事を考察しながら描いた作品だそうです。

「倶利伽羅龍岩の奇話」 440x1150mm

田中さんは民俗学者の岸本先生の指導のもとで、「とびしまむかしがたり」という山形県酒田市飛鳥にまつわる民話を再収録し、小学生5年生向けに絵と解説を交えて紹介する絵本を制作しました。この作品の「倶利伽羅龍岩の奇話」はその中の一話です。舞台は飛鳥の西側にある小島、御酌島と呼ばれる女性禁制の聖地で、中はむきだしの岩肌が荒々しい洞窟になっています。洞窟の壁面は竜の鱗に例えられ、濡れて金色に光り輝き、その奥に御神体とされる観音様の岩陰があります。作品は、船の乗組員が御酌島の中に入り祈りをささげている場面ですが、その中の一人が美しい岩を盗み出してしまおうとしている場面だそうです。

アーティスト

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