展覧会Exhibition

山本晶 - Dawning in Spring - 春はあけぼの
northern water, 1455×1120mm

  • 山本晶 - Dawning in Spring - 春はあけぼの

サムネイルをクリックすると、拡大表示します。

山本晶 - Dawning in Spring - 春はあけぼの

2018年3月30日(金) – 4月22日(日)

この度アートフロントギャラリーでは、山本晶の個展を開催致します。

【トークセッション  山本晶・堤たか雄(セゾン現代美術館代表理事)】
GW前のひととき、セゾン現代美術館の代表理事、堤たか雄さんをお迎えしてトークを行います。視ることを追求してきた山本さんの仕事、今日のアートシーンとの関わりなどについて、最新の情報を交えお話いただきます。お客様の「声」もうかがいたく存じます。是非お越しください。

■日時:2018年4月19日(木)19:30-
■無料
■懇親会:20:30- @ビストロ・パッション(会費3,000円)
■会場:アートフロントギャラリー
■ご予約:tsuboi@artfront.co.jp 宛に
①お名前 ②懇親会へのご参加の有無 をお知らせください。

日程 2018年3月30日(金) – 4月22日(日)
営業時間 11:00 - 19:00 (月休)
レセプション 2018年3月30日(金)18:00-20;00
作家在廊日 3月31日(土)、4月1日(日)、7日(土)、8日(日)、21日(土)、22日(日)いづれも午後より
イベント 4月19日(木)19:30- 「トークセッション  山本晶・堤たか雄(セゾン現代美術館代表理事)」
山本晶は1969年東京に生まれ、武蔵野美術大学大学院造形研究科を修了以来、絵画の領域で模索を続けてきた。中でも98年ごろから色を意識して作品を展開するようになり、αMでの「切断する線と色彩の発生」展は高く評価され、その後2度のVOCA展入選、さらには文化庁の在外研修員としての渡米経験へとつながってゆく。誰とでも気さくに話す山本は欧米の美術館キュレーターや作家仲間からも様々な刺激を受けたが、一方で日本の古典美術からもヒントを得たという。好きな作家は俵屋宗達、非常に洗練された形を大胆な色面で厚塗りした《舞楽図屏風》や《源氏物語関屋澪標図》は山本自身の作品の中にその端緒が感じられる。

近年の山本の作品には、街なかで出会った建築物や構築物の一部が見え隠れする。「窓」は以前からのモチーフであったが、オリンピック開催に伴う都市の大きな新陳代謝で消えてゆくかたち、歩道橋といった高度成長期の遺物が撤去されるケースが山本の眼には美しいもの、幼少期に遊んだ原風景に連なるものとして映る。それらを写し取って平面上に再構成することで作品がエッジの効いた、目の前の風景と記憶の中の風景とが重なりあうものとなる。今回、アトリエで制作されたばかりの作品を見ると、複数の線によって色面が分割され、画面はさらに多層化しているようにみえる。シルエットを中心に外側に広がっていく(キャンバスの外へと続く)色面は、前回展よりもさらに透明度を増し、透けてみえる部分への興味がみえない物質感を醸し出すかのようだ。これらは、山本が最近公共空間に置かれるコミッションワークを手がけ、スタディ段階で多様な素材でシルエットを切り抜いたり、写真の図柄をトレーシングペーパーで写し取ったり、キャンバスに布を張り付けたりと実験を試みたことと無縁ではないだろう。「宗達の、例えば剥落したやまと絵の表面の物質性みたいものがすごく好きなのです。剥落して変色してしまっているのですが、工程がすごく綺麗で絵の質感がよく出ている。」剥落したり欠落したりしたものを不完全なままに作品として出すことで、かえって手を入れすぎたものよりも風景から直接受けとった形の強度が保たれるのではないか、と山本は言う。キャンバスに油彩といういつもの素材に凝縮された作家の冒険心を、実際に作品を見る事で体験していただければと思う。

「soughing」 803×1300mm

山本晶さんの作品と初めて出会ったのは、私が代表を務めるセゾン現代美術館で行われた「ART TODAY」の時が初めてである。当時はまだ浅薄な知識しかなかった私は、作品を見た時、「色を主題に扱うアンフォルメルの流れを汲む画家」という規範的なイメージを持ったにすぎなかったが、その数年後、とあるきっかけで再び彼女の作品に出会った時、心が震えた。なぜなら、どの作品にも中心と思える点が存在せず、緑、橙、黄緑、白、青・・・と、補色同士はもちろん、対比色同士でさえ、一見せめぎあうように見えながらも、実は心地よく「共生」していたからである。後に彼女と直接話をして、彼女が幼少時、日当りのよい部屋の窓から差し込む木々の影が、時間や天候で違うように見えるのを眺めるのが好きだった事や、色彩を追究し続けている顔料としては油絵の具にこだわりがあること、また2015年のアートフロントギャラリーでの展覧会の際のインタビューで「絵画は2次元の空間で3次元空間を作りうる」と語ったことを知り納得がいった。つまり彼女は、哲学者プラトンの「洞窟の比喩」の言を借りれば、洞窟の壁=人間の網膜、の記憶の脆弱さに対し、「イデア」かもしれない「影」に、最も3次元的な顔料である油絵の具で色を与えることで、鑑賞者と「可視と不可視の関係」について対話しているのである。
 また先述した「作品に中心が存在せず、あらゆる色が心地よく『共生』している」という点は、作品の最も重要なテーマである。それは、「キリスト教を中心とする人間中心・自然征服の思想、西欧世界のイデオロギーの対立」という、戦いの20世紀を終えて、「自然の中で、あらゆる他の存在と共生する」という、21世紀のあるべき姿を映し出しているからである。

今、本稿を書きながら彼女の作品に思いをはせていた私は、白昼夢を見ているような恍惚感にかられ、昔読んだ小説の美しい叙事詩的な一部を思い出した。

「雨上がりの朝は、ことに樹々がいきいきと輝いて、光を浴びながらざわざわと揺れる新緑は、目に痛いほど鮮かな色に冴えていた。(中略)大気は清々しく、路上を吹き抜ける薫風さえ、どうかすると薄緑色に澄んで見えることがあった。」(外岡秀俊「北帰行」河出書房新社、1976年)

自己否定を繰り返しながら色彩を操り常に新しい境地を開拓し続ける「真のアーティスト」山本晶さんを常に敬愛してやまない。


一般財団法人セゾン現代美術館 代表理事 堤たか雄

トップに戻る