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中谷ミチコ : 白昼のマスク / 夜を固める
"夜を固める1" 2019 / Photo: Matsubara Yutaka

  • 中谷ミチコ : 白昼のマスク / 夜を固める

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中谷ミチコ : 白昼のマスク / 夜を固める

2019年8月9日(金) – 9月1日(日)

この度アートフロントギャラリーでは、中谷ミチコの個展を開催致します。
日程 2019年8月9日(金) – 9月1日(日)
営業時間 11:00 - 19:00 (月、火、8月14日,15日 休廊)
レセプション 2019年8月9日(金) 18:00-20:00
 中谷ミチコ(1981年東京都生まれ)は、多摩美術大学美術学部彫刻科卒業後、ドイツ・ドレスデンに渡り、2010年にドレスデン造形芸術専門大学彫刻科を卒業。同年、VOCA展奨励賞受賞、2012-14年には文化庁新進芸術家海外研修で再びドレスデンに滞在、作品発表を重ねる。2012年ドレスデン造形芸術大学 Meisterschülerstudium修了。帰国後は三重県を拠点に活動している。

 中谷の代表作には、独自の手法によるレリーフ作品が数多くあり、近年評価を高めている。原型を石膏で型取りし、その原型の部分が取り除かれた後、空になった雌型に透明樹脂を流し込むその手法は、一般的にイメージするモチーフが盛り上がっているレリーフとは異なり、凹凸が反転している。それは、くぼんだ空虚があたかも実在するように見える不思議な作品だ。

 最初のドイツ留学の際に生まれたこの作風は、慣れない異国の地で孤独と向き合い描きためたドローイングからスタートしている。それらのドローイングを前に「絵のようなピュアなイメージを保つ彫刻は作れないか」と、模索するうちに生まれた技法がこれである。従来の彫刻が物質的で強い存在感を放つハッキリとした印象であるのとは異なり、「そこにあるのに、ない」ようなドローイングの中の存在感を忠実に表現している。柔らかく、あいまいで、中立的な気配を漂わせると同時に、中に沈められたモチーフからは強い力が感じられるようだ。

 今回のアートフロントギャラリーでの展示では、等身大のマスクのレリーフと、黒い透明樹脂の立方体の新作シリーズを発表。無色の透明樹脂が流し込まれた等身大マスクのレリーフは、鑑賞者が作品の内部に視線を這わせるうちにイメージの内部に取り込まれる不思議な感覚を覚える。と同時に、透明な樹脂によってそこには手が届かない拒絶を経験する。これは中谷が、ドイツでこの表現に出会ったときに彫刻の雌型を眺めて感じた「心がざわざわする」違和感を疑似体験することにもなるだろう。もう一方の黒い樹脂の立方体の作品では、闇夜から切り出したような立方体の中に、イメージが照らし出される新作シリーズを展開。存在の在りかと不在性をより深く問う新しい試みの作品になる。また、作家の原点ともいえるドローイングも展示。中谷の世界を存分に味わえる展示となるだろう。

 同時期に、中谷は三重県立美術館(2019.7.6-9.29)にて大規模な個展も開催する予定だ。彫刻家、柳原義達の記念館全体を使い同館が所蔵する柳原の作品とあわせて展示する。独自の表現だけでなく、中谷が10代の頃に影響を受けた先人作家、柳原義達と向き合いさらに思考を深める取り組みはとても興味深いものとなっている。

更なる経験を積んだ中谷がアートフロントギャラリーで魅せる最新作の展示に、どうぞご注目ください。

"川の向こう、舟を呼ぶ声" 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ / 2018 / Photo: Hayato Wakabayashi


にもかかわらず彫刻である
村田真 (美術ジャーナリスト、BankART スクール校長)


 絵画と彫刻の違いはなにか? 絵画は平面で、彫刻は立体、というのがわかりやすい答えだが、でも絵画には厚みがあるし、彫刻だって網膜には表面しか映らない。絵画は固定した視点から見、彫刻は周囲をめぐってながめるもの、という言い方もある。しかしそうやって見る人はほとんどいない。絵画は壁掛けで、彫刻は床置きという答えもあるが、ではレリーフは絵画か、屏風は彫刻か……。中谷ミチコの作品は、そんな絵画と彫刻をめぐる本質的な問いを喚起させる。

 中谷は、まず粘土でレリーフ状の彫刻(原型)をつくる。テーマやモチーフはひとまず置いとこう。その原型に石膏をかぶせ、固まったら粘土を掻き出して「雌型」にする。通常はここにブロンズなどを流し込んで「彫刻」にするが、中谷は雌型に透明樹脂を満たして固め、垂直に立てて展示する。したがってその作品は壁掛けで(もしくは壁と一体化し)、表面もフラットなので、形式としては絵画(壁画)に近い。だが彼女の作品は、出自からしても発想からしても、紛れもなく彫刻である。むしろ絵画に擬態することで逆に彫刻性を浮き立たせている、というべきかもしれない。

 中谷が着目するのは「雌型」だ。彫刻は一般に凸型に屹立するものだが、そのとき彫刻を取り巻く空間は凹型になる。中谷はこの凹凸を入れ替えて空間のほうを彫刻化したという見方もできる(それは彼女の女性としての視点かもしれないが、ここではそのことには触れない)。別の言い方をすると、彫刻というものが物質と空間の接する境界の外面(そとづら)であるならば、彼女は彫刻の内面(うちづら)をつくっている、ともいえるだろう。だとすればそれは、彫刻の裏側、あるいは裏返された彫刻といえるのではないか。

 中谷はそれ以降も、雌型に入れる樹脂を半透明にして陰影を強調したり、本体のない舟型の「立体レリーフ」を制作したり、彫刻・レリーフの可能性を広げている。今回は「彫刻」と呼ぶのがためらわれるような、さらに複雑な構造の新作が登場するはずだ。「彫刻」であることを忘れさせる彫刻も悪くないが、中谷のように「にもかかわらず彫刻である」と目を覚めさせるような彫刻にこそ出会いたいと思う。




"川の向こう、舟を呼ぶ声" 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ / 2018 / Photo: keizo KIOKU

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