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大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015 リポート No.1 - シルパ・グプタ
作家名: シルパ・グプタ Shilpa Gupta
作品タイトル:忘れられた道 Forgotten Roads
作品番号: T327
場所: 十日町水沢
制作年: 2015

  • 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015 リポート No.1 - シルパ・グプタ

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大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015 リポート No.1 - シルパ・グプタ

大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレ

今年の大地の芸術祭もいよいよ終盤に入りました。まだこれから、という方も多いはず。300を超える作品の中からギャラリースタッフの厳選したお薦め作品を新旧とりまぜてアートの視点から解説します。完成に至るまでのアーティストや製作スタッフの活動についてもご紹介します。

シルパ・グプタは1976年生まれ、インドのムンバイを基点に活動をしている。近年国際的な注目を集めており、インドを代表する作家です。今年は大地の芸術祭の他にインド代表としてベネチアビエンナーレのインド・パキスタン館に作品を出品しています。

オン・サイト作品 左に国道を見下ろす。

作品はオン・サイト(現場)とオフ・サイト(現場でない所)の展示に分かれています。オン・サイトは国道117を見下ろす、使われていない道に設置されています。使われてない道ですので普段は草が生い茂っていて昔のガードレールの跡を見ることも出来ます。作家は実際に使われなくなったアスファルトを掘り返した塊が大きな物体集まって象徴的に道を通せんぼしているような、どこまでもそれ自体で転がってゆきそうな物体を作っています。

キナーレにあるオフ・サイト展示

一方、キナーレにある展示では何か所もの「忘れられた道」の写真の入ったポストカードがテーブルの上に山のように積まれています。良く見てみるとポストカードには道の写真と緯度経度の情報、集落などの情報が記載されています。作家はそれまでのリサーチの結果得た「忘れられた道」の情報をポストカードにして、来訪者に持ち帰ってもらうことで、忘れられる道の記憶が広がってゆきます。

2014年に作家は視察を行いました。まだ設置場所もテーマも決めず、3日かけて車を走らせていました。山を昇り下りしてトンネルをくぐり、橋を渡り、作家は母国とは全く異なる風景に大きな関心を持ちました。山間に小さな集落を見つけるとどうやってあの集落まで行くのだろう。車がない時代はどうやって奥地の田んぼに行ったり日々暮らしていたのだろうと盛んに質問を受けた記憶があります。

作品制作へ向けてのリサーチ資料
上:十日町から薬師峠の旧道とそれに寄り添う山間の集落。
下:トンネルが出来ることでかつての道は忘れられてゆく。


作品が今の形の物として実現するまで、作家は様々なアートのプランを検討しました。そのために現在の道と人々のかつての足取りをたどり越後妻有の国道に沿った数重もの道をについてリサーチをしています。これがオフ・サイト展示のポストカードの基礎となっています。
かつては川に沿って曲がりくねった道があり、車が通る数百年もの間、人々は山間の道を通っていたはずです。山深い場所であっても多くの集落がこの道に寄り添うようにしてありました。1970年代末から盛んにトンネルや橋の整備が始まり、近年も山が切り開かれ、効率的に場所から場所へ移動するまっすぐな道が盛んに作られています。人々の暮らしも急速に変わってゆきます。

松代の「忘れられた道」。隣にまっすぐな道の新しい橋が出来ることにより古い橋は撤去されている。

現在でもトンネルや橋の横には必ずと言っていいほど旧道が残されています。シルパ・グプタの今回の作品を見た後に、他の作品を見て回りながら、地域の道をよく観察してください。「失われた道」をあちらこちらに発見できるでしょう。人と道の関係の歴史、近代以降の距離感の変化などを通して失われていくものは道だけでないことにも気づかされます。作品をきっかけとして、地域を見る視点が変わってくるかもしれません。

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