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[インタビュー] 鴻崎正武:MUGEN
「MUGEN」展示風景 2020

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[インタビュー] 鴻崎正武:MUGEN

ギャラリー

現在開催中の鴻崎正武個展「MUGEN」より作家へのインタビューの模様をご紹介します。

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"TOUGEN -TOHOKU-" 2017 / 木製パネル、麻紙、箔、岩絵具、アクリル / 1620x4860mm

近作の屏風についてお聞かせいただけますか。
山形の山岳信仰や様々な風土に触れて感じたことは、東北には沢山面白いものが存在しています。自分は福島出身ですが、東北を旅してまわる中でみつけたものなどモチーフに取り込んでいきました。自然を体感する中でみえてくる風景を、桃源郷の世界の中に取り込んできました。TOUGEN-TOHOKUというタイトルの作品では、こけしやダルマのほかに、「御沢仏」といって山形の湯殿山の参道を修行の際に途中の岩など大自然そのものを神仏とみなし偶像化した、と言われる仏を描いています。この絵はその修行のルートをたどっていくようなイメージで描いています。

"TOUGEN -YAMA-" 2018 / 木製パネル、麻紙、箔、岩絵具、アクリル / 1620x4860mm

TOUGEN-YAMA-について
12年前に山形に引っ越して、自分の生まれ育った福島とは違う山や土地の形に驚かされることがありました。山が本当に昔話に出てくるような三角形をしている(笑)昔の宇宙人がつくったんじゃないかという象徴的で神秘的なイメージがあります。山の中に描かれた目は御沢仏の眼の玉(ギョク)の部分をちりばめてみたり、自然と信仰的な部分を掛け合わせていくようなイメージです。現代の信仰といえば、宇宙開発における宇宙船や、ギターに象徴される音楽など、現代的な思想のアイコンを飛躍させ掛け合わせています。

東北地方は、仏教が西に渡来し北に上がり京の文化が北前船から入ってくるなど、ものすごくいろいろな要素がハイブリッドされているように感じます。ある意味で文化の受け皿的な面白さがあって、それが自分の描く掛け合わせのキメラのキッチュさと重なるところがあります。

屏風という形をとられている意味は?

昔から唐獅子図というのがありますが、屏風にすることでモチーフがこっちに迫ってくるような勢いがあります。その伝統様式の中で洛中洛外図を描いてみたい、俯瞰したイメージの中で、ロングショットとクローズアップが堪能できる、こういう形態をしているからこそ自由な表現ができるということで、自然に屏風という形をとっていきました。

立体を初めてつくられたきっかけ、はこのハイブリッドな延長上にあるのでしょうか。

平面作品では、実在する御沢仏を画面上で再構築して描いているのですが、絵画の中で融合していった御沢仏の魅力を立体でつくれないか、三次元的に見せられないかと思いました。人形や張り子のダルマは以前から絵の中に取り込んでいたので、そのイメージは既にできあがっていましたね。今回、立体をつくるのは案外速かったです。イカ・サル・ペンギンの立体は、初期のころから自分の中にイメージがあって、まずこれを形にしてみたいという気持ちがありました。

"MUGEN -Tree of life-" 2020 / 木製パネル、麻紙、箔、岩絵具、アクリル / 2400x1700mm

今回の展覧会の象徴ともいえる作品"MUGEN -Tree of Life-"について教えてください
山形に移り住んで13年目になり、振り返る意味で自分にとってのテーマは何だっただろうかと考えてみました。掛け合わせのイメージの中で最も象徴的だったのが「生命の樹」です。ヒエロニムス・ボスを筆頭にいろいろな画家が描いているのですが、植物をグランドマッピングの中に描き込むモチーフです。今回コロナがあったり、何かシンボリックなものの中で上昇していくような象徴的なものがかけたらな、というイメージで描いています。植物の掛け合わせですが、ランドマークタワーや宇宙船のようにも見えたり、バベルの塔のような権威でありながらも惹きつけられるイメージ、今も昔も時代を超えて描かれているものとして取り組んでみました。この絵では金箔のもりあげも装飾も抑え、中心のモチーフがシンプルで目立つように描いています。

これらは現代の山伏のようですが、宇宙飛行士ですか?
そもそもこの絵は地球ではないという設定かもしれない。宇宙飛行士がこの惑星にたまたま降りてしまったというイメージですね。少し笑わせたい部分です。

そうすると今までのTOUGENとはちょっと異なった世界が広がっていますね。
今まで桃源郷の桃源が東洋の「夢の中の世界」という感じで自分のイメージ作っていたのですが、今回MUGENは「この世の儚さ」の現代的な解釈が絵画化できないかを考えました。ローマ字表記にすることで、無限に広がっていくイメージとの両方の意味もあります。絵空事で空想の世界ですが、今現代の先がみえない時代において、希望、漠然としてはいるのですがその先の希望に導けるイメージを描けたらなと。人間は儚い存在だからこそ、イマジネーションが広がっていくように未来を描けるんじゃないかと思いました。

"Tree of world -dialogue-" 2020 / 木製パネル、麻紙、箔、岩絵具、アクリル / 600x1200mm

今回新しいチャレンジとして取り組まれた楕円や円の作品について教えてください。
どうしても今、テレビとか映画とか、区切られたビジョンの中で何を見せるかということで固定概念を決めてしまっていた自分もいたなと反省し、何か覗き込むような、角のない広がった世界の中で描けないかと思いこれらの形を選びました。
前後関係など、普段絵画を構築している上で取り組んでいる点とすごくギャップがあったので、新鮮な気持ちでチャレンジができたのかなと思っています。例えば金雲というのは丸いシルエットだったり不定形だったりしますが楕円や円の中でどういうふうに表現できるかを自分の中で感覚的に意識しながらつくっていたと思います。

"Space Ships" 2020 / 木製パネル、麻紙、箔、岩絵具、アクリル / 600x1200mm

制作は今年の4月以降に勧められたのですか?
今回の作品は、2月3月のコロナが始まりだしたところでイメージを描きためていきました。

自粛によって変わっていったところありますか?
世の中が先のみえない不毛な状況になっていくと同時に、この状況を変えないといけないのかと思い始め、自分の中で自問自答している気持ちもあります。世界中が今こういう状況になっている中で、何か広い目線で共通のイメージみたいなものが描ければ、と思ったりしました。

"クチナシブリーディングスイレン" 2020 / 木製パネル、麻紙、箔、岩絵具、アクリル / 357x230mm

それぞれのモチーフにはどのような意味がありますか?
世界中のモチーフを集めていて、今回はあまりエリアを限定せずに描いています。果実もキメラも淫欲、誘惑の象徴というか欲望を感じさせるところがあります。花も魅惑的なモチーフですね。一貫したテーマとしては人間の欲望的なものが未来にどう描かれているのか絵画で表現できればと思っています。タワーや宇宙船の様なシンボリックなもののイメージは、人間が昔から描かれているある特定のパターンみたいなものがあって「誇張された未来」を描きだというか。掛け合わせの面白さは、エギゾチックな組み合わせが組み合わされるほど、逆に意味や機能性が淘汰されていく、無に帰していくのが面白い部分でもあります。

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"Flying Guitar" 2020 / 木製パネル、麻紙、箔、岩絵具、アクリル / 600x1200mm

作品の中に出てくる楽器についてはいかがでしょうか?
中世の絵画の中にも音楽地獄といって、楽器に苦しめられている人が出てくるんですけれども、楽器はすごくシンボリックな造形をしていて、人間が憧れる魅力的な形状につくられていると思います。カブトムシとか生き物的な形状につくられているものもあり、楽器の形をもう一回絵画に再利用できないかなという試みをしています。例えばこけしと西洋の楽器とか、ギター含めて工芸品というか民族楽器が掛け合わされていく。この楽器どういう音がするんだろうと考えながら制作しています。

「MUGEN」展示風景 2020

キメラの掛け合わせはどうやって生まれるのでしょうか?
思いつきですね。考えすぎると逆に固定観念が働いてしまうところがあって、いろんなモチーフを放り込んで、出会いというか突拍子ないもの同士の方が面白かったりする。シュルレアリスムのメンバーがしていた交換日記「甘美な死骸」のように、いろいろなものを掛け併せていったり、そういうものは偶然性が魅力だと思います。幼少期にテレビで観た、いろいろなものが掛け合わされた怪人だったり、妖怪だったり、そういうものが自分の原風景として小さいころからあったのかなと思います。動物と接するより、映像的な物の方がリアル、今でいうポケモンだったり子供の好きなイメージって常に合成されたイメージが多いですね。

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"ハネタヌキダコ" 2020 / 木製パネル、麻紙、箔、岩絵具、アクリル / 250x250mm

これらのキメラの作品は「キメラの肖像画」的なものが描けたら面白いかなと思って制作しました。堂々としているのか頼りないのかわからないですが、なんでこんなものが付いちゃっているんだろう?と偶然性が楽しめるキャラクターに自分としては興味があります。

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"MUGEN - Landmark-" 2020 / 木製パネル、麻紙、箔、岩絵具、アクリル / 700x1600mm

MUGEN-Landmarkについて教えてください
ランドマークは都市の象徴として存在しています。様々なランドマークを配置していきながらコロナで都市が危ぶまれる、ひっくり返るような、現代の大変な状況を表現できないかなと。
いわゆる憧れの象徴的な存在、経済発展の中でタワーの頂上に上り詰めるというか、高層ビルの上の方に住んでいる人はどういう気持ちで住んでいるのかと思いながらもそれが逆転するイメージってどうなんだろう、銀河系、ブラックホール、ビッグバンとひっくり返ったタワーが今の状況、もしこうなっていたら、と考えながら描いていました。
この絵の中のタワーは、雪山の中に立っている。それも青空ではなくて赤い空、災害も多かったりする現代的なイメージとしての空の色として描きたいという気持ちがありました。

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鴻崎正武 個展「MUGEN」
2020年10月23日(金) – 11月22日(日)
「人間は儚い存在だからこそ、イマジネーションが広がっていくように未来を描けるんじゃないか...」そう語る鴻崎正武の最新作を、是非ご高覧ください。

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