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田中里奈展、作家が自身を語る
雨の妙心寺、2018 / 1818 x 2273 mm / キャンバスに油彩、牡蠣殻、木炭 / 2018

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田中里奈展、作家が自身を語る

ギャラリー

今回アートフロントギャラリーで初めて個展を開催する田中里奈さんに、これまでの軌跡や制作のプロセス、今追及している事柄などを語っていただきました。

私は2012年に名古屋芸術大学を卒業し、在学中は油彩を使っていましたが卒業後に一度アクリル絵具に切り替えました。今回の展示では油彩とアクリル絵具の両方を使っています。

私は自分の実体験の記憶に基づいた風景画を描いていますが、この景色を描くと決めたらそこからどのくらいの時間を作品に入れこむかを決めてから描きはじめます。例えばこの絵は京都の妙心寺にある大心院の阿吽の庭なのですが、そこに滞在した30-40分間の記憶で、初めは曇りで途中から雨が降ってきたときの景色を描いています。記憶に基づいてはいるのですが、喜怒哀楽の記憶や感情はそこにははいっていなくて、景色に含まれている形をたどり、分解して再構築し、絵画の歴史やルールをふまえて構図や視線の動き、多様な遠近法、物質的な絵具の載せ方、細かく描きこむ部分とあえて描かない余白の部分などいろいろなことを考えながら描いています。また描く対象に応じて描き方をかえて、複数の表現技法を混在させることで互いが互いのよさを引き出すように心がけています。
白い線で描かれている部分は境内の地図を表しており、はいったときにもらう拝観用の地図を頭にいれて、ある場所にたどり着くという行為そのものが表現されています。自分が通った通過点も含まれていて、それと大心院にたどり着いたときの景色が絡み合うことで目的地にたどり着くまでの時間とたどり着いた後にお庭で過ごした時間の経過を表現しています。

画材については油絵からアクリル絵具に切りかえたときに、アクリル絵具だと乾燥後に水分がとんでフラットになりがちで物質的にちょっと物足りないところがあったので、それを補うために牡蛎殻とかセラミック、粉末の水晶など異素材を混ぜることで絵柄にボリューム感を出して近寄って見たときに楽しめる要素を加えています。


イッテコイ窯、2018 / 175 x 215 mm / 陶器 / 2018

陶板について
大学を卒業したあたりから土のざらっとした感じと釉薬のつややかな対比というか、異素材の組み合わせに興味をもっていました。そして一昨年ぐらいにサントリー美術館で宮川香山の没後100年展覧会をみたときに、釉薬を絵具と同じように自在に使っていて、ここまでの表現ができるのだったら釉薬を使って平面を描くこともできるのかもしれないと思いました。それがきっかけとなり、昨年12月から今年の3月まで4か月信楽の滋賀県立「陶芸の森」というアーティストインレジデンスに滞在してつくりました。今回初めて土を触ったんですが、最終的には40種類ぐらい釉薬を集めることができて、それを使って陶板の作品を今回つくることができました。釉薬もいろいろな種類があり、透明なガラス質のものもあればマットな質感やメタリックなもの、釉薬によっては溶け合ってグラデーションになったり、隣同市が全く混ざり合わずキレイに分かれるものなど多種多様ですごく奥が深くて驚きました。


「アーツチャレンジ2015」展示風景

2015年のアーツチャレンジでは普段あまり使われないデッドスペースのようなところに作品を展示する機会に恵まれました。私はそのときに90度の角度のついた壁面と、その前の2本の円柱に布を貼りつけ壁画を描きました。5か所のビューポイントをつくり、視る角度によっては柱の絵と壁の絵が部分的に繋がってみえ、本来1枚の絵画には1つの構図という概念を覆す作品を試みることができました。そのときから場所に合せて作品を創ることに興味が沸いてきて、陶芸を使うことで展示の幅も広がるのではないかと想い、今回はこのような両方の展示をすることになりました。



「アーツチャレンジ2015」展示風景

今後は、四角のキャンバスに絵を描きつつ、陶板も並行してつくっていこうと思っています。
陶板にはいろいろな可能性を感じていて、例えば風景のモチーフを1つずつ陶板でつくり、それを壁面にインスタレーションのように組み合わせて展示したりすることもできるし、雨に濡れても問題ないので屋外での展示も検討しています。









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