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【インタビュー】中岡真珠美 : アトリエで描く室内画

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【インタビュー】中岡真珠美 : アトリエで描く室内画

ギャラリー

現在開催中の「中岡真珠美:SCALE PUZZLE 」では、展示室の壁一面に広がる室内画のドローイングが100枚、並べて展示されています。これまでは写真をベースにした風景画が制作の中心だった中岡にとって、どのような変化があったのか、制作プロセスはこれまでとどのように違うのか、作品を前に語っていただきました。

Installation view "Interior-Scape" ドローイング100枚、 紙にアクリル絵具



私は15年ぐらいずっと風景画を描いていて、今も描いているんですけれども、今回のイメージは、静物画と室内画で構成をしています。

普段風景画を描いているのにどうして今回はこういう距離の近い、近距離のものを描いたかをお話したいなと思います。

ここ3,4年にわたって、私は実際にある風景、モチーフを絵画にするにあたって、絵画空間の質を変えるのではなくて、風景から絵画にいたるまでの距離、私はそれを距離と呼んでいるのですが、その距離にどのような負荷をかけるかということに興味をもっています。すごく短い距離、遠い距離、大回りした距離を辿った場合、その絵画空間の質はかわらないけれども表現形態が変わるということにすごく面白みを感じて作品制作をしています。

この展示もその取り組みの一つとなっています。
モチーフから絵画への距離が一方通行ではなく、絵からモチーフへの距離、つまり相互方向に関係しているという作品を作りたいと思いました。そのために自分で調整できる室内画、モノを触ったり動かしたり造形ができるような対象の風景として室内画を描きました。

それが主な理由です。それとは別に静物画を描くにあたって最近あった、違和感について説明したいと思います。それは「写真」について。普段は皆さんが見ている写真は、いわば加工されたものを見ているといえるのではないでしょうか。写真を見たときに、それがそのままのものだ、と捉えることは減っているような気がするんですね。私は風景を描くときに、写真をとってそれを簡易スケッチとして使ってきました。今までは何も思わなかったのが、世間の風潮が変わってきて、思うところがあって、自分が写真を使うということに意識的になったほうがいいんじゃないかなと思ったんです。それは徐々に思ってきたことなんですけれども。

例えば何か描きたい風景があるとして、主役の樹がある。その樹を描くときに樹の写真を見て描くか、樹を見て描くか、そこに今までは差を感じていなかったんです。けれども意識すると、樹の写真を見て描くっていうことは、樹があってその樹への反射光がレンズを通って印画紙に焼き付けたものを私は見ているということです。今までは何も思わなかったここの間(レンズから印画紙の間を指して)のフィルターを取ったらどうなるんだろう、と思ったんですね。さっきモチーフから作品へのベクトルについて取り組んでいるとお話しましたが、そのフィルターを取ったらまたこの距離が変わるわけだし、そしたらどうなるかという試みをしたくなりました。

"Still Life Press#2"



徐々に感じていた違和感が今回の制作の二つ目の動機だったのですが、答えはみつからないかもしれないし、直ぐには望んでいません。写真を使うことと使わないことの差はあるだろうかといった思いを抱えながら対象をずっと見て制作ができる身近な環境を模索した結果が、静物画、室内画、自分のアトリエだったんです。こういった訳でこれら二つの要素で展示をしました。

A棟の展示はそういう意図で描いたんですけれども、下のギャラリーの作品は、白地の上に色がはいる作品です。今回、案内状のテキストを、尾池先生という俳句に造詣が深い先生に書いていただいたんです。尾池先生を知ったのは何年か前なんですけれども、私の作品を俳句みたいだね、といわれて、すごくピンと来たんです。

私の周りの友達というのが、絵描きですら、物書きというか村上春樹みたいな人もいるし、サルトルみたいな人もいるし(笑)、私自身はどうしようと思ったんですけれども、この俳句っていう五七五と季語を入れなければいけないという、限られた枠の中でどういう自分の見た世界を相手に伝えるか、そこの中での試行錯誤と、私が絵の中で限られた自分で作ったルールの中で試行錯誤するっていう、それがすごく一致したんです。

それで仮にあちらのギャラリーの作品が五七五で表現する俳句だとしたら、こちらのA棟の作品は《枕草子》みたいな感じです。一ピース一ピースがこれは例えば「春はあけぼの」でこれは「夏は夜」。「すさまじきもの」はないけれども、小さいピースを自分の思考の塊みたいなものを全部で表現する、全体で一つなのですけれども一個一個ちょっと別々のものについて語っているような作品ですね。両方ともすごく限られた短いセンテンスで語っているということがすごく共通していて、あくまで散文であって、大きな物語を紡いでいるのではない。限られたピースを提示しているという点で私としては共通した絵画空間を見せられるのではないかと思っています。

今回は、今までの描き方を辞めたというわけではないのですが、ものを見て描くようになったというのが大きな違いだと思います。

"Hide-and-Seek at the Kyu Asakura House"



こちらは、ヒルサイド50周年というお題にちなんだ作品をもし描けたらということで、お隣の旧朝倉邸の庭を描いたものです。。

「林間」というテーマで、これは朝倉邸、これは京都の銀閣寺、これは私が一年間滞在していたタイのチェンマイ大学の構内で、全然空間が違うところの「林間」を描いています。

共通する構図で、場所は全然違うものを並べたときにどう見えるか、ということをやってみています。写真を使った作品になりますが、光のかたちを描いたんですね。光といっても日本の風土とタイの光は全然違って、とにかく描いているプロセスの間ですごく違ったんです。私は日本国内でもいろんな場所を描いてきたんですけれども、タイにいって(光の)形が全然違うって思ったんです。同じ林間、同じ横長のフォーマットで絵巻物のように横に流れる空間は同じなんですけれど、それぞれ異なる様子で景色が変わっていく、季節がかわっていく、という感じでこれらの作品を見れたらなあと思っています。

さっき俳句って表現したんですけれども、私は撮った写真をトリミングした中で加えるということはしないで、むしろ、いかに「省く」かという、いかにその中にある光のかたちが一番ふくよかに、豊かに見えるかということを試行錯誤した作品に昇華してます。

Installation view "Hide-and-seek in Chiang Mai University " and "Hide-and-seek at Ginkaku-ji"



展覧会期は12月1日(日)までになります。室内画と風景画、制作プロセスの違いなどあっても中岡自身の今を描いた作品群をぜひ、ご高覧ください。
中岡真珠美 個展 : SCALE PUZZLE
2019年11月7日(木) – 12月1日(日)

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