プロジェクトProject

春爛漫 - ポップ&モダン:作品解説(漆・ガラス・金属編)
久野彩子「Transform-semicircle」 アルミ青銅、ブロンズ

  • 春爛漫 - ポップ&モダン:作品解説(漆・ガラス・金属編)

サムネイルをクリックすると、拡大表示します。

春爛漫 - ポップ&モダン:作品解説(漆・ガラス・金属編)

現在開催中の「春爛漫 - ポップ&モダン」展。本展は陶磁器、ガラス、漆、竹など、多種多様な素材・コンセプトを用いて表現する13名の作家によるグループ展です。世代も、地域も異なる作家たちの60点余りの作品群より、金保洋、横山翔平、植村宏木、久野彩子、上田剛の作品を作家のコメントと共にご紹介します。

金保洋「積彩の顕出 II」(detail) 40.0 x 102.0 x 45.0cm / 漆、石膏、EPS(発泡プラスチック)

金保洋コメント
漆というのは日本古来からいろいろな用途で使われてきた木の樹液です。これを造形として捉えながら作品をつくっています。素材の物質としての力に着目して形をつくりあげ、形の成り立ちをとらえていくというのが今の工藝の方法としてはポピュラーな方法かと思い、僕もそれに沿って考えています。

漆は液状になるので、土のように直接造形できるものではありません。では何にその漆の力を一番感じるのかと考えてみますと、漆が他の物質に作用してその物質をがらっと変えていくような点が一番ではないかと感じています。今回の作品はすべて、ゴツゴツしたテクスチュアと、それをどんどん磨いていったものを対比的に用いてつくっています。

主に、作品のベースは発泡スチロールのような素材です。そのベースの上に石膏をかけて表面から水をかけ、表面だけ固めていくと、ざらついた粒子の真っ白な段階が最初にみえてきます。そこに薄めた漆をだんだんに染み込ませたり、凸になる部分を削っていったり。次第に漆の下地を粘土質の砥の粉で磨いだ上にさらに漆を染み込ませ、漆を磨いで塗り重ねるということをやっていきます。

金保洋「積彩の顕出Ⅳ」90.0 x 60.0 x 50.0cm / 漆、石膏、EPS(発泡プラスチック)


なぜ綺麗な面を出す為に一度ざらついた部分をつくるかというと、そうすることで自分が石膏でつくった形が漆の積層によってさらに亡羊とした感じになっていくからです。凹凸を流していく中で、微妙な局面が生まれてきます。最初に綺麗につくりきってしまうと、なかなか自然の色が出てきません。漆を綺麗に塗るというのは一つの技術として求められたのですが、僕はそこだけでなく、自然に出てくる感じに着目してあえてゴツゴツした感じやプロセスの中で自然に出てくる色に着目しています。

「積彩の顕出Ⅳ」の磨がれた面は、一番最後に拭き漆をかけて半透明の飴色に重ねています。時間経過とともに透けてきますし、自然光の中では一番下の層に出てくる色がみえてくると思います。そういうことに自然の力を感じていて、色とかたちの現れ方というのが漆造形ならではのもの、漆本来の力によるものという点だと考えています。


横山翔平「Amorphous 18-30」15.0 x 23.0 x 12.0cm / ガラス

横山翔平コメント
僕がガラスに注目したのは、固体とも液体ともいえないアモルファスという非晶質であり、この展示されている状態であっても固体とは言い切れない、常に動いているようなイメージで、その中に生命力があると感じているからです。

横山翔平「Amorphous 18-21」45.0 × 20.0 × 20.0cm / ガラス(宙吹き)

「Amorphous 18-21」は、吹きガラスで作った空気の玉に飴状のガラスを巻きつけて、巻きつけた瞬間に吹いて膨張させ、成形しています。吹くという身体的な動作を重視していて、人間がもつ息というところで何か表現ができないか、ガラスというのは膨らませることで成形していける素材なので、そこを追及していけたらいいなと思います。

飴細工のような「Amorphous 18-30」は、ファイバー状に繊維状のテクスチュアを持たせて、伸ばして、ねじって、という動きでつくった作品です。


植村宏木「あえかに秘めるものへ」86.0 x 35.0 x 35.0cm / ガラス、真鍮、木

植村宏木コメント
僕は、目にみえないものをガラスを素材として使い可視化することをテーマにしています。普段は空気だったり記憶だったり、そういうものをガラスを通じて可視化しています。

「あえかに秘めるものへ」や「あわいのこと」シリーズの2点は、真鍮で継いであり、枝や石を閉じ込めている作品になります。閉じ込めるものは何となく見過ごしてしまうような道端に落ちているもので、それが朽ちて自然の中に戻っていくまでの微妙な瞬間を見せるために空間をつくりたいというのがこの作品で、一時的な居場所を与えているのがコンセプトになります。

故郷である北海道から秋田へ出たときに、日本に対してカルチャーショックのようになりました。自分の中でもっと日本というものを掘り下げたいなという気持ちが生まれ、作品には主に日本語のタイトルをつけています。


久野彩子「transform-cube」48.0 x 70.0 x 30.0cm / 真鍮、ブロンズ

久野彩子コメント
私は金属の鋳造、鋳物の方法を使って作品を制作しています。ロウで原型をつくり、石膏で型をとって、その型を焼くとロウの部分がなくなり、空洞になった部分に溶かした金属を流し込み、石膏を割り、金属を出し、成形していくという方法をとっています。

テーマとしては都市空間の風景を扱っています。都市を俯瞰してみたり、建物の人工的な感じを魅力的に感じています。それらを構築していくと、力強さが出てくるような良いイメージが自分の中にあるので、それが表現できればと思っています。

久野彩子「transform-semicircle」37.0 x 66.7 x 16.0cm / アルミ青銅、ブロンズ

今回の2点はTransform というシリーズで、「transform-cube」は原型のときにキューブというか四角い感じでつくっていて、自由に変形できるロウの状態で変化させ、良いなと思ったところで止めて金属に置き換えました。半円の作品「transform-semicircle」も、より円盤型だったものを半分に折って成形しなおしました。このように初めのかたちを「再構成」して作品をつくっていきたいと思っています。


上田剛コメント
金属を1250度ぐらいの温度まであげて型に流し込みつくる鋳金は、古くから行われている技術です。金属を流して自在に扱えるというところから人類の技術史は大きくかわりました。溶けた金属は光を放っていて、触れるような状態というより、いわゆる神がかった印象のものになります。それを人類がどのように扱ってきたか、敵対ではなくて、手の中に収めるということを鋳造という技術で手に入れていくのがおそらく技術史のはじまりではないかと思います。

その自然に対して怖いけれども触りたい、でも手の中に収めたいという畏怖の念というのは素材と人間の関係において現代でも有効ではないかと思います。今も息づいている感覚であると感じています。そういった感覚が制作の中でどのように出てくるのかを見極めるのは自分としてすごく楽しいです。

上田剛「nature morte」28.0 x 28.0 x 26.0cm / ブロンズ

静物画の静物を意味する「nature morte」というタイトルのこの作品は、僕は死んだ状態と思っているのですが、溶かしたらまた生き返るんですね。それを生ととるか、死ととるか、僕は死ととらえています。




「春爛漫 - ポップ&モダン」展
2019年3月29日(金) – 4月28日(日)
詳細はこちら
是非、この機会にご覧ください。

【参加作家】
・金保洋 Hiroshi Kaneyasu(漆)
・神谷麻穂 Asaho Kamiya(陶)
・久野彩子 Ayako Kuno(真鍮/ブロンズ)
・三浦義広 Yoshihiro Miura(陶)
・中嶌真太 Shinta Nakajima(銅、銀メッキ)
・大槻智子 Satoko Ootsuki(陶磁)
・田村琢郎 Takuro Tamura(樹脂)
・塚田美登里 Midori Tsukada(ガラス)
・植葉香澄 Kasumi Ueba (陶)
・上田剛 Tsuyoshi Ueda(ブロンズ)
・植村宏木 Hiroki Uemura(ガラス)
・上野正夫 Masao Ueno(竹)
・横山翔平 Shohei Yokoyama(ガラス)

















トップに戻る