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dialogue : 中岡真珠美インタビュー 2012/9/20

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dialogue : 中岡真珠美インタビュー 2012/9/20


中岡真珠美 - 錯誤 : Parapraxis

展覧会初日のオープニングレセプションの際、作家にインタビュー形式のアーティストトークを行ってもらいました。

今回のインタビューでは、以前の作品との違いや、「庭」と「採石場」の2つのテーマの共通点、そして採石場をテーマに描いた作品について語っていただきました。


(聞き手:アートフロントギャラリー 近藤俊郎)
近藤(以下、K): 今までの作品と今回の作品の印象がまた変わりましたね。

中岡 (以下、N): 以前は抽象的で、風景画でなく絵の具の物質の絵として見てもらいたいと思って描いていました。最近は何を描いているか、どこを描いているかを分かる程度の具象的な風景画を描きたいと思っています。以前は絵の具の物質性を主にしたフォルムと風景から借りたフォルムで作る抽象画から、現在は風景画を描くという意識の変化があると思います。

K: モチーフに関してですが、以前と現在を比較してどういう所を選んで描いているのか、お聞かせいただけますか。

N: 以前の抽象的な作品では、ビルの隙間や、壁や建物に映る影といった匿名的なものをモチーフとして扱っていました。今回の個展では、大阪にある山の中の採石場や桂離宮の笑意軒などをモチーフにしています。最近は固有名詞のある場所、今現存している場所を描くようになりました。

(左)「a-round arch」、 1120x1910mm(右)「blessed」、1850 x 1460mm、ともにキャンバスにアクリル絵の具、油彩、樹脂塗料、2008年

K: 今までの作品は、木の枝の間から見える向こうの風景だったり、そのコントラストが見えることが重要に見えましたが、今回、庭と採石場を選んで作品展示をしている理由は何でしょうか。

N: 人工物、中でも人が入ることのできる大きさ、またはそれ以上の大きさの人工物と、その周りにある自然のものが交じり合っている風景を選んでいます。それが、今回の「庭」と「採石場」の共通点です。

「庭のはじまり」、キャンバスにアクリル、油彩、カシュー、1450 x 1400mm、2012年

「Floating Feeling」、キャンバスにアクリル、1000 x 1480mm、2012年

K: 最近は、一枚の絵の中に色々な色が使われ、色んなタッチも混在していますね。また、モノクロの作品も本展では出てきています。モノクロと色との作品はどう描き分けて制作しているのでしょうか。また、それは今回のテーマ「採石場」にも関連していますか。

N: そうですね。まず、採石場においては、そこが抽象性と具象性がちょうど中間的な要素に描ける所になっていました。モチーフとしては綺麗ではないけれども、要素として面白いと思って。ガードレール、崖、石や小屋があったりと要素がとても入り組んでいて、これを私が描きたい絵画空間に落とし込んだら、今までのやり方では表現できないと思っていました。

「Transcription 3」、キャンバスにアクリル、1390 x 1390mm、2012年

N: そんな時に、東京国立博物館のボストン美術館展で見た作品に影響を受けました。そこで見た水墨画の輪郭線と白塗りの使い方が、自分の制作と関係しているように見えたんです。そこで、色を一旦使わずに白黒で制作すると、バルール(明暗と位置関係の対応や位置関係の指示の程度)を気にせず、輪郭線とフォルムに集中して絵を描くことができました。採石場というフォルムに慣れてから、色彩を使った作品に取り掛かる、そうしてモノクロとカラーの作品ができたのです。
その観点からタイトルも「Transcription (転写)」にしました。
この展示室の作品はすべて、一枚の採石場の写真が元になっていて、その写真から何箇所か切り取った場面を描いた作品が展示しています。なので、それぞれの作品に描かれているガードレールやはしご、山などが他の作品でつながっていたり、他の作品で描かれている一部のクローズアップの作品があったりしています。今回の展覧会の1つ目のモチーフである「採石場」は、一つの場面から
色んな絵画空間が見える展示にしました。

N: 手前側に展示している作品のモチーフは、両方桂離宮の庭を描いています。桂離宮は建物だけでなく建物から見える風景、全ての配置、その全てが完成されたもので、そのままで美しいし、その完成された絶対性がモチーフとしてのリスクに思え、あえて描こうと思いました。
奥の「庭のはじまり」でやりたかった事は、畳のパースを入れると、それだけで絵画の平面性っていうものが奥行きを持ってしまう特性(システム)があると思うんです。でも、その特性(システム)を入れて、三次元的にならないような平面性を保った絵を描けないかなっと思って挑戦しました。

「2.8km/hr大阪城城壁 1、2」、キャンバスにアクリル、油彩、カシュー915 x 1010mm、2012年


N:奥の部屋の左側の作品は、大阪城の城壁について描いています。
行ったことがない方もいらっしゃると思いますが、城壁の石はとても大きくて回りの風景と一緒に見た時にものすごい違和感がありました。
移動しながら遠方の山を見ている時の様に、傍で歩いていると徐々に近景と遠景がずれていく、変なスリル感がある。再現ではないけれども、徐々に動いていくものとフォルムの変化がとても面白く感じて、これらの作品を制作しました。

(左) 「左の岩」、キャンバスにアクリル、油彩、カシュー、950 x 350mm、2012年
(右) 「右の島」、キャンバスにアクリル、油彩、カシュー、950 x 350mm、2012年


N:部屋の左側の作品は、竜安寺を描いています。皆さんは写真か何かで一度は見たことがあると思います。
城壁、庭石といった「庭園」という意味性においてリスクの少ないものを描くにあたり、油絵具の流動性アクリル絵具を削る工芸性など絵具の物質感を際立たせた画面で描こうと思いました。
このスペースでは、画材の物質感を際立たせたり、パースを入れたりして、絵画の平面性を保つギリギリの仕事に挑戦したかったんです。

K: 会場からの質問も受け付けます。どなたかいらっしゃいますか?

質問者: 今回展示している作品は色々なサイズや形がありますが、どのようにして決めているのですか?

N: まず、風景を撮影する時にできるだけ引きで撮るようにしています。そしてどのよう
に描きたいかをモチーフの写真をトリミングしながら探ります。
自分が面白いと思うというものに一番近づくための比率を選んでサイズを決めます。

質問者: 今回の展示で気をつけたことは何ですか?

N: 一人の人が描いたのっ?と見えるような展示にしたいと思いました。
例えば「採石場」ばかりの絵を描いていると、ハードなものを描いている人って見られてしまう。でも、それだけでなくいわゆる「綺麗」なものも描いていて、そうした異なるモチーフを同等のモチーフとして扱っている風景画家として見られたいと思っています。

「Swell Direction」キャンバスにアクリル、1000×1480mm、2012年

N: 例えば、沖縄やハワイなどを描いていたら、綺麗なとてもユートピア的なものを描く作家だと思われるけれども、その作家が沖縄以外にもアメリカの風景や、国会議事堂も描いていたら、同じ沖縄の絵を描いていたとしても見え方が変わってくるはずです。同じ絵を描いていても、そのような前後背景を通して、見る人に対して投げかけをしたいなっていうのがあります。背徳感を伴う美しさや、意味のありすぎるものと匿名なもの、そういった描きにくさ、モチーフとしてのリスクがあるものを絵にしたいと思っています。

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