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川俣正 作品紹介~知られざるベルギーのベギンホフ

川俣正 作品紹介~知られざるベルギーのベギンホフ

2017/09/29

初期のマケットシリーズの中でもひと際美しく、また重要な作品が今回紹介するBegijnhof St.Elisabeth, Kortrijk plan14です。ヨーロッパでの川俣の仕事の重要なステップとなったベルギーのベギンホフプロジェクトは、1989年に現地の財団からインスタレーション作品を作らないかと誘われた縁で始まりました。現場を視察した川俣は即座に、中世の修道院であった建物、聖エリザベス修道院を選びました。行政の許可が下りると143立方メートルの木材が運び込まれ、冬のフランドル地方の天候の中で数名のアシスタントとともに作業が始まりました。この地区は戦争で男性が不在のときには女性たちの共同生活の拠点ともなっていましたが、古い石造りの街並みはいわゆる伝統的なヨーロッパの連綿と続く街並みの継承を象徴しているといえます。川俣は、サイクルの早い変化を好む日本との対比について、テンポラリーであるからこそやれることもある、と述べていますが、一つのチャレンジとして数百年動かないヨーロッパの石と対峙して作品をつくった例がこのベギンホフといえるかもしれません。実際、修道院だけでなく、旧市街の小さな小道にも木材を設置した結果、全体が大きなインスタレーションとなりました。それはまるで大聖堂の控えの支柱(バットレス)がはりめぐらされたようなイメージでしたが、冬場の強風が作品を襲ったときに、年配の住民は川俣の作品を含めて修道院を嵐から守ろうと誓いあったのに対し、他の人々は単に改築工事をしているだけだから嵐から守る必要はないと考え、家に帰ってしまったといいます。ただ、こうした両方のリアクションを引き出すことこそ、この歴史的建造物を選んだ理由でもあり、そうした反応をも受けいれるのが川俣の姿勢でもありました。

チューリッヒのリマート川を舞台にしたフラウエンバッドプロジェクトも、やはり歴史と現在を意識した作品です。既存のプールが川に浮かんでいるのをみて、散歩していた川俣が興味を持ったことが始まりだそうです。男性用女性用と分かれているプールの女性用と同じ構造をもった木製のプールを制作し、美術館にも展示しました。このとき市の要請でアルコール依存などの理由で失業していた人々と一緒に作業をし、リハビリプログラムの一環であったことが後にわかりました。このような協働について、「僕の中で一番興味があることは、いっしょに仕事をして、作業をして、気持ちが繋がるということですし、出来上がった作品はその付属物としてあるということでいいのではないかと思います。結果として出来上がった物があるというだけで、それを作るために作業をしたというよりも、コミュニケーションとか繋がりを作りたいが為にアートを利用して、作品を作っていくというようなところがあるかもしれないですね。だから、作品が解体されても別に何も悲しくないですし、また作ればいいと思っています。自分がどんどん転がっていくということに興味があります。」と語っています。(以上参考文献:Kawamata Begijnhof Kortrijk, edited by Kanaal Art Foundation, 1991, Art-it interview by Andrew Maerkle, November 2011)


フラウエンバッドの模型は長さ4メートルになる大がかりなものがプランドローイング、写真パネルとともに残っており、現在清津倉庫美術館に展示されています。

清津倉庫美術館の開館時間:10月28日・29日、11月3~5日、11日・12日
新潟県十日町角間美1528-2 お問合せtel 025-761-7767

また、アートフロントギャラリーでの川俣展は終了しました。インスタレーションの屋上観覧を含む建築アートツアーを10月8日9日の猿楽祭イベントで行います。
ご予約希望の方はこちらをご覧ください。

猿楽祭ー「工事中」再開+代官山建築アートツアー

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