展覧会Exhibition

エカテリーナ・ムロムツェワ 個展:Breaking History
"Women in black against the war"
水彩 114×70㎝ 2022

  • エカテリーナ・ムロムツェワ 個展:Breaking History

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エカテリーナ・ムロムツェワ 個展:Breaking History

2022年8月5日(金) – 8月28日(日)

この度アートフロントギャラリーでは、エカテリーナ・ムロムツェワ(Ekaterina Muromtseva)の個展を開催致します。
日程 2022年8月5日(金) – 8月28日(日)
営業時間 水~金 12:00 - 19:00 / 土日祝 11:00 - 17:00
休廊日 月曜、火曜日
【関連展示】越後妻有 大地の芸術祭 2022 「Women in black/戦争に反対して黒衣を着る女性たち」 |会期|7/21 (木)- 8/22 (月)火水以外 10:00-18:00 |会場|越後妻有里山現代美術館 MonET  |料金|美術館入館費に含む
https://www.echigo-tsumari.jp/news/20220610_02/
哲学と舞台美術のバックグラウンドを持つロシア出身のビジュアル・アーティスト、エカテリーナ・ムロムツェワ(1990年生まれ|モスクワ)。

彼女の芸術実践は、社会の階層性や文化的システムにおける、歴史的な物語を更新する可能性や実際の連帯の可能性の新しい存在形態を見出そうと試みています。叙情的、そしてコンセプチュアルな方法で個人的・集団的記憶を探る作品を制作しており、大型な絵画をはじめ、ビデオ、インスタレーション、社会参加型アートなど様々なジャンルの作品を展開しています。

Forbes Russia主催の次世代を担う30名の1人としてイノベーション賞を受賞した彼女は、日本では2021年の北アルプス国際芸術祭に参加し、開催地である信濃大町の歴史に繋がる作品や住民たちの姿をモチーフにした作品を出展。瀬戸内国際芸術祭2022の夏会期に男木島で子供たちが参加する「学校の先生」を発表。

アートフロントギャラリーでは、「Breaking History」と題する、今年の水彩画の新作を中心とした展覧会を開催いたします。

2つの独立した絵画シリーズから構成される本展では、ロシアのさまざまな都市で行われた、黒い服を着て、白い花を手にした女性たちによるウクライナ侵攻に反対する抗議活動の波に捧げられた「Women in Black」シリーズ及び、米国バージニア州リッチモンドにある南軍司令官ロバート・E・リー将軍の騎馬像を撤去する過程を描いた「Take Lee Down」シリーズを発表いたします。「今日」という「歴史上の重要な瞬間」のドキュメントであるような一連の新作には、勇気をもって戦争に抗議して行動する人との連帯感や、社会の歴史に起きる変化への関心といったメッセージが込められています。また、本展の作品販売による収益は作家の意向によりウクライナ避難民支援のために寄付される予定です。

またこの夏に、越後妻有里山現代美術館MonETにおいても「Women in Black」シリーズに特化した展覧会を開催する予定となっております。ぜひ併せてご高覧ください。


エカテリーナ・ムロムツェワ  
Ekaterina Muromtseva


■経歴
1990年 モスクワ生まれ
2012年 モスクワ大学哲学科卒業
2017年 The Rodchenko Art School(モスクワ)BFA(美術学学士号)取得
2022年 米バージニアコモンウェルス大学芸術学部MFA(美術学修士号)取得

■受賞歴
2020年  「30 under 30」受賞/Forbes、ロシア
2020年 「Innovation」現代アート賞
2020-2022年  「Fulbright」フェローシップ受賞
2019年 「Present Continuous」プログラム受賞/V-A-C財団&アントワープ現代美術館(M HKA)


■最近の展覧会歴
2022年 瀬戸内国際芸術祭|日本香川県高松市男木島
2021年  北アルプス国際芸術祭|日本大町市
2021年 Time Difference|XL Gallery, モスクワ
2021年 Crevices in myth|Pushkin House, ロンドン
2021年 Diversity United|Flughafen Tempelhof, ベルリン
2020年 Quarter to Twelve|アントワープ現代美術館(M HKA), アントワープ
2020年 How to Become Invisible|GMK Gallery, ザグレブ
2019年 What Happens to Others|モスクワ現代美術館, モスクワ
2019年 A Tough Male Portrait|XL Gallery, モスクワ
2019年 While you Were Sleeping I Planted a Tree|Garage Museum Studios, モスクワ
2019年 Better in Chorus|Peresvetov gallery, モスクワ
2019年 Cosmoscow Art Fair|Gostiny dvor, モスクワ
2018年 Steirischerherbst Festival|グラーツ, オーストリア
2018年 Vasya Was Here|ガレージ現代美術館, モスクワ
2018年 Family Archive|Theatre am Steg, バーデン
2017年 More Than Us|XL Gallery, モスクワ
2015年 On Its Place|Rodchenko Art School, モスクワ

《Take Lee Down》184 × 113 cm, watercolor, 2022


Breaking History

エカテリーナ・ムロムツェワ


 「Breaking History」は二つの独立した水彩画のシリーズで構成されています。最初のシリーズは、「Women in Black」と題されています。喪に服しているかのように黒い服に身を包み、白い花を手にした女性たちによる静かな抗議活動に捧げられたものです。ウクライナへの侵攻に反対するこれらの抗議活動は、ロシアのさまざまな都市で行われました。参加者のほとんどは女性でした。もともと、女性による反戦活動がとても盛んだからです。デモ参加者は拘束されることもあれば、されないこともありました。この抗議活動の形態は、第一次インティファーダ(訳注)の時、イスラエル兵の暴挙に対するイスラエルの左派の女性活動家たちによる抗議活動に由来します。その後、世界各地のフェミニスト団体によって、自国政府の行動を批判するために取り入れられるようになりました。これらの作品で使用した最近のロシアの抗議活動の写真では、当局が活動家を特定できないように、頭部が切り取られていることが多々あります。ロシアでは今の状況を議論する際に「戦争」という言葉を使うことが禁止されているため、デモ参加者はこの言葉をアスタリスクや他のスローガンで隠すなどして、平和を訴えます。それでも、デモ参加者が当局の迫害を完全に免れることはできません。私はこれらの作品の中で、こうした代わりとなるスローガンを使うこともあります。

 大規模なデモはすべて暴力的に弾圧され、デモ参加者は刑事責任を問われるため、ロシアでの反戦デモはほとんど外国に伝わりません。そのような状況下でも、反対運動は新たな装いをもって行われます。たとえその抗議がお通夜のように見えても、たとえどんな圧力があっても、不正に対して声を上げることは可能だ、という信念を共有するために、私はこれらの作品を制作しました。どんな形であれ、私は戦争に抗議する勇気を持っているすべての人と連帯します。

 二つ目のシリーズは「Take Lee Down」です。米国バージニア州リッチモンドにある南軍の将軍ロバート・E・リーの記念碑が解体される過程を描いています。社会の歴史に大きな変化があるとき、往々にして過去の象徴の破壊がつきものです。記念碑は倒れ、新たな理想を具現化するためのスペースができるのです。それは30年前のロシアや東欧で起こったことであり、現在の北米で起きていることです。アメリカに住んでいる私は、もう一つの歴史の転換を目の当たりにしました。リー将軍は消え去り、変化の可能性が生まれるのを待ち望む大きな空白のスペースが残されています。
 
 私の作品において、人物は常に注目の中心にあります。武力紛争の際、人間の姿はしばしば人格のない記号的な存在となります。人間の身体は、紛争に加担し、立ちすくみ、あるいは足元から崩れることで、純粋に機能となっていきます。私の人物は、あるときは身体的な存在によってあるときは不在または徐々に消えていく存在として定義されます。この二つのシリーズは、人物の二つの状態を例示しています。「Women in Black 」は、その存在によって抗議を示すものであり、リー将軍の記念碑は物理的に不在にされています。

 すべての作品の背後には個人的な物語があり、私の作品は視覚的に物語を伝えるものと言えるでしょう。「物語を伝えることは、何かを解決するわけでも、壊れた人生を再構築するわけでもない。しかし、おそらくそれは、想像を絶するものを理解する方法なのだろう。ある物語が私たちにつきまとうなら、私たちは自分自身にそれを語り続け、シャワーを浴びる時も、通りを一人で歩く時も、眠れない夜も、静かにそれを反芻するのだ。」 (*1) 私は常に脳裏を去ることのない、意味のある声を探し、作品を通してその声を強めたいと思うのです。

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訳注:1987年、イスラエル占領下のパレスチナ人が展開した、投石などを主体とした民衆の抵抗によるパレスチナ解放運動。

(*1) バレリア・ルイセリ(2017), Tell Me How It Ends. ロンドン, フォース・エステイト, P70.

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