展覧会Exhibition

釘町彰 :  From the Land of Men
《Air (Reynisfjara)》2023 雲肌麻紙、墨、胡粉、天然岩絵具 727 x 727mm

  • 釘町彰 :  From the Land of Men

サムネイルをクリックすると、拡大表示します。

釘町彰 : From the Land of Men

2024 年2月2日(金)- 2月25日(日)/Room1は3月10日まで延長

アートフロントギャラリーでは、パリ在住の釘町彰(1968年 横浜生まれ)の初個展を開催いたします。本展は恵比寿映像祭と連動し、映像と絵画で構成されるインスタレーションを中心とした展示となります。
釘町は、幼少期をベルギーで過ごし、多摩美術大学院を修了、パリ第8大学でメディアアートや作品の基盤となる哲学を学んだ後、制作活動に専念しています。和紙と天然岩絵具を使い、「光、時間、距離」をコンセプトに風景画を描く釘町の現在地を、精選された平面作品と映像でお見せいたします。どうぞご覧ください。


<トークイベントの様子>
山下裕二(美術史家)x釘町彰 トークイベント、2024年2月2日(金)


《From the Land of Men》©Akira Kugimachi, Collaboration With HANNA
日程 2024 年2月2日(金)- 2月25日(日)/Room1は3月10日まで延長
営業時間 水~金 12:00 - 19:00 / 土日 及び2/23 11:00 - 17:00
休廊日 月曜日、火曜日
レセプション 2024年2月2日(金)18:30 - 20:30  / スペシャルトークイベント 19:00-20:00 山下裕二(美術史家・明治学院大学教授)x 釘町彰 ※定員に達した為、受付を終了させて頂きました。ウェイティングリストにご希望の方は、tsuboi@artfront.co.jpまでご連絡お願いいたします。
同時開催 恵比寿映像祭2024 2024年2月2日(金)- 2月18日(日)東京都写真美術館ほか
作家在廊予定 2/2(金), 3(土)14-17h, 4(日)15-17h, 11(日・祝)14-17h
これまで一貫してランドスケープに対峙し、作品化してきた釘町。10年程前の冬、作家はスイスとイタリア国境周辺である風景と出会いました。それはいわゆる単なる雪山の風景ではなく、人類以前あるいは人類以後ともいうべき混沌の世界であり、また世界に光が現れて闇が出現し天と地といった二元論が生まれる以前の原初的混沌風景として作家の魂を揺さぶりました。釘町にとって、風景は人間の立ち位置を再認識する「場」であり、「世界と人間の関係を問う装置」だといいます。確かに近作のAirシリーズは、それまでのように一瞬の光と影を画面に定着させるというよりも、何千年何万年という人間的尺度を超えた太古の時代を経てきた岩肌や氷河、そしてそこに浸透する大気に封じ込められたこの惑星の記憶をあぶりだす、という作家の意欲が感じられます。彼の絵画に使われているのは、まさに作家が「地球の素材」と呼ぶ精製され尽くしていないブリュットな天然の岩絵具であり貝殻や松から採取られる墨であり、また意図的に不純物の混ざる膠や和紙なのです。自身が媒介者となり、描く手段、そして描くプロセス、そして素材とが同一であるというコンセプチュアルな絵画手法は、写真や映像という現代の機器を駆使しながらも、まさに本居宣長の言う「表現と技法の一致」にも通じ、あるいは古くは藤原定家や世阿弥の幽玄論にもその源泉を見出すことができます。

《Air (Gabi)》2022 雲肌麻紙、墨、胡粉、天然岩絵具 1973x2910mm photo by Haruna Maeda

《Air #1-3》(triptyque) 2022-2023 雲肌麻紙、墨、胡粉、天然岩絵具 各652 x 919mm

制作プロセスにおいて、彼は下地づくりに90%の時間をかけると言います。揉んだ和紙にまず墨で、その上に胡粉で何層もの薄い光の層を塗り重ねる。その結果、地の白は単なる白でなく、不透明感を呈しながらも背景としての不思議な奥行を備え、永遠と一瞬の狭間ともいうべき空気感を呈します。そこに岩絵具によってモティーフを上から描きこめば描きこむほど、かえってリアリティが無くなっていくといいます。それを逆手に取り、絵具をシルエットとして捉え、物体が無いこと、不在の絵画を作りたいと考えるようになり、この空虚さが実は映像と親和性のあることに気づきました。そして流れる映像と、いわゆる「引きの美学」である岩絵具による絵画作品とを繋げる試みに着手し、それが今回の映像と平面とのインスタレーションへと繋がっているのです。

《Air #2》(triptyque) 2023 雲肌麻紙、墨、胡粉、天然岩絵具 652 x 919mm

釘町はパリ第8大学でメディアアートを修めており、学生時代はビル・ヴィオラのビデオアートやインタラクティブアートを研究し、またフランスの思想家レヴィ=ストロースやジル・ドゥルーズ、そして鈴木大拙の禅の思想などに影響を受けたと言います。映像であっても絵画であっても、「作品は常にプロセスであり、作る人も観る人も、常にプロセスの状況に居続ける」という点で一貫した作品を作り続けています。今回の展示においては、複数のスクリーンに投影される映像と、大型の最新作絵画とが様々な時間軸に沿って交錯し、その背後にある何か、或いはその「何か」の不在を発信していきます。

《From the Land of Men》 2023 (11min11sec) Ver Double screen / HEVC Video 4K UHD on 《Air (Shein)》 2023 2357x3600x45mm 雲肌麻紙に墨、胡粉、天然岩絵具 (平面作品上にビデオ投影)

与格的であること-釘町彰の世界
中島岳志 [政治学者 東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院教授]

美にとって最も邪魔なものは、美への作為である。美しいものを作ろうとすればするほど、美は逃げていく。美を摑えるためには、計らいを捨てなければならない。
 私は、釘町彰と会ったことがない。作品も、実物は数点しか見たことがない。しかし、彼が「意思」や「作為」を超えることに、強い意識を向けていることは、作品を見た瞬間にひしひしと伝わってきた。
 釘町が描こうとしているものは、作為では捉えられない存在である。「私」という自我では、到底太刀打ちできない存在を、釘町は捉えようとしている。そのためには、「私」を超える必要がある。意思を超える必要がある。偶然を受け入れる必要がる。
 私はインドのヒンディー語という言語を勉強してきた。ヒンディー語には、与格構文という文法が存在する。例えば、「私は嬉しい」と言う時には、「私に嬉しさがとどまっている」という言い方をする。「私はあなたを愛している」は「私にあなたへの愛がやって来て留まっている」。「私はヒンディー語ができます」は「私にヒンディー語がやって来て留まっている」。そんな言い方をする。
 この文法構造について、考えたことがある。「嬉しさ」や「愛」や「言葉」は、私にやって来て留まっているのだとすれば、それらは一体どこからやって来るのか。
 インドの人たちは、その源泉を神と見なした。「私」は神からやってきたものが宿る器である。「私」は「私」の能力によって様々なことを成しているのではない。「私」にできることは、「私」にやってくるものを受け止め、その力に促がされて、何かを成すことである。主格は幻想であり、「私」は「私」を統御することなどできない。
 釘町は、与格的な画家である。おそらく彼にとって、絵はやって来るものである。「私」がコントロールできるようなものではない。「私が描く」という次元を超えたところで生成する何ものかが、作品となって顕在化する。
 だからこそ、釘町は、光を掴もうとする。万物は光に照らされなければ、見ることができない。しかし、光は、光を必要としない。ただ、光そのものを見ることはできない。光の存在は、影によってしか知ることができない。
 有限なる人間は、無限なる光を描くことはできない。光は描かれないことによってこそ現れるものである。釘町の絵は、その描き得ない存在に肉薄し、見る者を光源へといざなう。
 釘町の絵の前では、目を使ってはならない。眼を使わなければならない。見てはならない。観なければならない。
 そういう存在が、釘町の作品である。

《Air Gen-bin》2022 雲肌麻紙、天然岩絵具、墨 1940x740mm セルヌスキ美術館蔵(パリ)

釘町彰 Akira Kugimachi
■略歴
1968年 神奈川県生まれ。
1995年 多摩美術大学大学院修士課程絵画科日本画専攻修了
1999年 パリ第8大学大学院メディアアート科修士課程修了

■主な個展
2020年 「Elpis」/Galerie Pierre-Yves Caër / パリ(フランス)
2018年 「Erewhon」/ Gallery Art Composition / 東京
2017年 「Re-Generation」 2013年 「Snowscape」/ 日本橋三越/ 東京

主なグループ展
2023年 「ディストピア:記憶の変遷」 アートフロントギャラリー/ 東京
(恵比寿映像祭連携プログラム)
2023年 「Dialogue of Paintings and Ceramics」 / Musee Cernuschi/ パリ(フランス)
2022年 「マツモト建築芸術祭」 / 長野県 松本市
2022年 「現代日本画の煌めき」/ 新見美術館 / 岡山 新見市
2019年 「ArtParis19」 / Grand Palais/ パリ(フランス)
2018年 「Renaissance Contemporaine」/ Pierre-Yves Caër Gallery/ パリ(フランス)
2017年 「Collect」/ Saatchi Gallery /ロンドン(イギリス)
2017年 「l'Aurore du paysage」/ Villa 88/ ボルドー(フランス)
2016年 「Paysage Subjectifs」/ Ianchervich Muséum/ ラ・ルヴィエール(ベルギー)
2016年 「Encounter」/ Gallery Dutko London/ ロンドン(イギリス)
2015年 「Ombre et Lumière」/ Gallery Dutko Bonaparte/ パリ (フランス)
2015年 「Regards croisé sur le Polochon」 / Institut National des Métiers d'Art/ パリ(フランス)
2015年 「Mode Nippon V & Créateur 80' 」/ Artcurial/ パリ(フランス)
2013年 「現代水墨展」/ 国立新美術館 / 東京
2012年 「A Force de regarder au lieu de voir」 / Galerie des Grands Bains Douches de la Plaine/ マルセイユ(フランス)
2011年 「Tragique du Paysage」/ Galerie Eric Mircher / パリ (フランス)

■主なコレクション
セルヌスキー美術館(パリ)/ 新見美術館(岡山)/ 麻布台ヒルズ AMAN レジデンス / ペニンシュラ東京(東京)/ 立源寺(東京)/ 三菱商事パリ支社(パリ)/ 旧高田賢三氏邸宅(パリ)/西酒造(鹿児島)、その他多数

《Air #3》(triptyque) 2023 雲肌麻紙、墨、胡粉、天然岩絵具 652 x 919 x 30mm

トップに戻る