この度、アートフロントギャラリーにおいて中岡真珠美の新作個展を開催致します。ギャラリースペースをリニューアルしての記念すべき第一回目の企画展となります。
中岡の作品は身の回りの風景を撮った写真を元にしていますが、それを作品の中で再現するのではなく、実際に風景を見て対象をとらえ直す作業を何度も行いながら画面に移し置くことで制作されます。見る行為を繰り返す中では、天候から自身の記憶までを含む条件の差により全く同じ感覚を保つことはできません。この曖昧な感覚を盛り込むことで、実際に見たものと描かれたものには、確実に隔たりが出来ます。これは具象と抽象の区別やマッスを平面に置き換える、西洋美術史にあるような作業ではなく、平面であることからはじまって、空間や物の配置を試みる日本画の表現に近いのでしょう。奥行がなく、描く対象をなぞったような輪郭線と、緩やかに流れる余白のような面が特徴であり、元の風景から乖離した新たな風景とその独特の表現手法が中岡作品の魅力のひとつです。中岡が作品として重要とするものも、描かれた風景がどこなのかを把握させることではなく、現実の風景から切り離され解釈され直したもの自体です。
一方で、描かれた元々の風景が作品成立の基点であることは変わりません。作品から受ける印象を方向づける大きな制約でもあります。この制約があることで、客観的なイメージが入り込む余地が生まれることは作品として重要な点であり、中岡が風景作品を描き続ける理由のひとつかもしれません。
本展の出品作は、初期作品に見られたような樹木などの自然物だけではありません。これまでに描いた匿名性のある自然風景や、金沢・広島など特定のまちの風景でもなく、法枠(のりわく)や採石場など人工物が多く現れています。採石場の砂利山は日々輪郭線が変わり、土砂崩れをとめるコンクリートの法枠は夏になれば雑草に覆われます。その物を「見た」り「知っている」という理解としての風景と実際に観察を重ねた中で見る風景とは全く異なるものです。人為的な変化や時間の変化を一定の距離から受け止めて、瞬間の再現をテーマとすることなく再構築することで風景を描いています。描かれている対象自体の時間軸上のズレと、対象と描き手の主観の二重のズレが新作群の大きな特徴であるといえますが、その二重のズレを前提に制作する場合、平面上の構成力はむろん今まで以上に必要でしょう。本展において、作家の構成力やそれを支えるために新たに使い始めた素材などに注目して頂ければ幸いです。