展覧会Exhibition
植葉香澄:ZEPHYR - a gentle wind from west
2021年1月13日(水)– 1月31日(日)
この度アートフロントギャラリーでは、植葉香澄の個展を開催致します。
日程 | 2021年1月13日(水)– 1月31日(日) |
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営業時間 | 水~金 12:00 - 19:00 / 土日 11:00 - 17:00 |
休廊日 | 月曜日、火曜日 |
植葉香澄展によせて
大長智広(京都国立近代美術館研究員)
近年、「装飾的」な陶芸作品を目にする機会が多い。その中にあって、植葉香澄はこのような傾向における第一人者だと目されている。
植葉の作品は、一目見てわかるとおり、多色の色絵で作品全面が彩られている。さらに金彩が作品に豪華さを付与し、同時に、金の持つ神秘性が作品にある種の尊厳をも与えている。ただし、植葉の作品は、いわゆる技巧それ自体を通じて人間と対象物との関係性に迫る「超絶技巧」に属するタイプのものではない。また、素材を触りながら自己の内面を再確認していくような仕事でもない。いうならば、それは装飾という古今東西の文明に不可欠の要素を通じて、世界を彩ってきた人類の存在そのものを見つめていく作業であるということができる。その意味で、植葉は「装飾的」な陶芸作家の中の単なる一人ではなく、植葉の作品を通じて、我々は陶磁史あるいは造形史が有する豊かな文化的風土に気付かされるのである。
さて、近年、植葉は「キメラ」をテーマに創作活動を続けており、本展ではイスラム圏、中国など、シルクロードに思いをはせたキメラの新作が展示されることになっている。キメラとは、ギリシャ神話に登場する諸要素をあわせ持つ想像上の生物のことであり、生物学では、この神話をもとに異なる遺伝子情報を同居させる異質同体のことを指している。残念ながら、コロナ禍の中、植葉が本展に向けて実際に現地を見て回ることは叶わなかった。しかし、遠い地に思いをはせ、日本で見聞きできる様々な物語や文物からイメージを醸成させた造形は、逆に植葉という作家の想像力が純粋に凝縮された形で表象されるのではないかと思われる。
装飾は何かのための装飾として存在するものである。そしてキメラに施された色絵や金銀彩は、植葉の想像力に形を与える役割を担い、その表面的な賑やかさは古今東西の異質な要素が混在する「シルクロード」という異質な文化の邂逅を象徴的に表している。そもそも植葉の祖父は京友禅の絵師であり、家庭には古い図案が残っていたという。こうした図案は、様々に植葉の仕事に影響を与えており、また、乾山や仁清などに代表される京焼の特性を自作において検証したことも植葉の装飾を考えるうえでは重要である。1200年もの間、京都は日本の都であり、ここには各地から様々な情報が集積していた。そして京都の工芸は、これらの様々な情報を集約、編集することで一つの形を作り出してきたのである。この情報の異質同体性によって成立する京都の工芸の特性は植葉の「キメラ」とある意味で相似形をなしている。だからこそ植葉の作品は、京都を通じて世界とつながっていく、そのような資質を秘めているのである。
大長智広(京都国立近代美術館研究員)
近年、「装飾的」な陶芸作品を目にする機会が多い。その中にあって、植葉香澄はこのような傾向における第一人者だと目されている。
植葉の作品は、一目見てわかるとおり、多色の色絵で作品全面が彩られている。さらに金彩が作品に豪華さを付与し、同時に、金の持つ神秘性が作品にある種の尊厳をも与えている。ただし、植葉の作品は、いわゆる技巧それ自体を通じて人間と対象物との関係性に迫る「超絶技巧」に属するタイプのものではない。また、素材を触りながら自己の内面を再確認していくような仕事でもない。いうならば、それは装飾という古今東西の文明に不可欠の要素を通じて、世界を彩ってきた人類の存在そのものを見つめていく作業であるということができる。その意味で、植葉は「装飾的」な陶芸作家の中の単なる一人ではなく、植葉の作品を通じて、我々は陶磁史あるいは造形史が有する豊かな文化的風土に気付かされるのである。
さて、近年、植葉は「キメラ」をテーマに創作活動を続けており、本展ではイスラム圏、中国など、シルクロードに思いをはせたキメラの新作が展示されることになっている。キメラとは、ギリシャ神話に登場する諸要素をあわせ持つ想像上の生物のことであり、生物学では、この神話をもとに異なる遺伝子情報を同居させる異質同体のことを指している。残念ながら、コロナ禍の中、植葉が本展に向けて実際に現地を見て回ることは叶わなかった。しかし、遠い地に思いをはせ、日本で見聞きできる様々な物語や文物からイメージを醸成させた造形は、逆に植葉という作家の想像力が純粋に凝縮された形で表象されるのではないかと思われる。
装飾は何かのための装飾として存在するものである。そしてキメラに施された色絵や金銀彩は、植葉の想像力に形を与える役割を担い、その表面的な賑やかさは古今東西の異質な要素が混在する「シルクロード」という異質な文化の邂逅を象徴的に表している。そもそも植葉の祖父は京友禅の絵師であり、家庭には古い図案が残っていたという。こうした図案は、様々に植葉の仕事に影響を与えており、また、乾山や仁清などに代表される京焼の特性を自作において検証したことも植葉の装飾を考えるうえでは重要である。1200年もの間、京都は日本の都であり、ここには各地から様々な情報が集積していた。そして京都の工芸は、これらの様々な情報を集約、編集することで一つの形を作り出してきたのである。この情報の異質同体性によって成立する京都の工芸の特性は植葉の「キメラ」とある意味で相似形をなしている。だからこそ植葉の作品は、京都を通じて世界とつながっていく、そのような資質を秘めているのである。