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浅見貴子:未然の決断~モチーフはきっかけに過ぎない

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浅見貴子:未然の決断~モチーフはきっかけに過ぎない

ギャラリー

4年ぶりのアートフロントギャラリーでの展覧会に際し、浅見さんが最近モチーフとして描いている樹木との対話、向き合い方を改めて新作を見ながら語りました。スケッチを描き重ねながら画面に点を打っていく制作態度はこれまでと変わりませんが、gray netや白い点線、時間を表すような挿し色など、少しずつ新たなチャレンジを加えていることに注目が集まりました。

展示風景
左:《変容》2017 墨、胡粉、樹脂膠、白麻紙 2650 x 2060mm
右:《transform 2108》2021 墨、顔料、樹脂膠、白麻紙 2650 x 4000mm


崩壊しそうな木の構造を読み解く

―横須賀美術館でも展示された《transform 2108》は画面中心の密な部分とその周囲に広がる線が特徴的ですね。

―この絵に描かれている宿り木のある梅の木は、最近取り組んでいるモチーフです。全然使っていない畑の脇にあって、庭の木のように枝の手入れしていないので、枝が野放図に生えていてそれにさらに宿り木が絡まっています。伸びっぱなしのところと宿り木が絡まっているところがあって、宿り木のボリュームが梅の木の3分の一ぐらいを占めているぐらいで「崩壊」している感じです。庭の梅なども空間の中に枝が散乱している感じが面白いと思ったんですが、この梅の木は枝も野放図に伸びていたり折れていたり、さらに別の宿り木が旋回する感じで絡まっていて、夏は梅の木の葉に宿り木、冬は宿り木の葉がつけっぱなしと冬と夏にもその様相がかわっていて、こちらの部屋にある2点は夏に描いたものです。

隣の部屋の宿り木のある梅の木はさきほどと同じ樹なんですが、さっぱりしているのは大分視点をひいているので軽やかな感じにみえています。蔦のようなやわらかい部分が宿り木で、その周囲に広がっているのが梅の木です。

《宿り木のある梅の木》2021 墨、顔料、樹脂膠、白麻紙 1900x2650mm

梅の木と宿り木の関係が錯綜しているのが面白いと思って、あまりにその構造が複雑すぎて全部描き切らないんですよね、この正面の作品では込み合っているところが宿り木、その周りのばらばらと円を描いているのが梅の木なんですが、全然違った2種類の木が一緒に描けるのが面白いなと思って描き続けてはいるのですが、まだ全体が描き切れていないので、全部が崩壊する前に描きたいと思っています。

―何年も同じ木を見ていてもその都度力点は違うわけですね。

―見るたびに発見があり、毎回スケッチは書き直しで、その日の前に描く前に木を見に行ったりします。大きい点は樹のエネルギー、勢いを点の連続で表しているのですが、何もないと手が動かなくて、ここだ、という点を決めるため、確信を持つためにスケッチをする感じです。スケッチをして構造が把握できるとやっと描き始められる。前に描いたスケッチなんかも参考にはするんですけれどもあんまり参考にはならない笑。自分の手でとどめるというか、モチーフを前にして受けた感覚を手で記録して、その記録をみながら筆を画面に置いていく。光の状況などをみるために写真も撮りますが、あくまで動きを記録するメモみたいな感じです。


「未然の決断」とは

―今回のタイトルはどのように決められたのですか?

―タイトルの「未然」というのは、どうさ引きを決断するタイミングを指しています。普通、日本画を描く場合にはまず、どうさ引きでにじみ止めをしてから岩絵具をのせるのですが、私は裏側から墨や顔料を沁みこませるため、ふわふわの、いわば「なまの」ままの和紙を使います。裏側に木炭で下書きをしてから、手前に描きたいモチーフを描き、点を打ったり枝を描いたり。ここでどうさを引こうというのを決断するのですが、どうさを引くと、描き重ねた点や線がクリアになります。木工用ボンドの薄いのが乾いて透明感が出るのと同じように、アクリル系の樹脂でどうさ引きをすることで、その重なったふわふわの表面がクリアになり、さらにそれをパネルに水貼りをして平らな平面的な画面として完成するというプロセスです。

描いている間は膠の成分、分量が強かったり弱かったりするから、画面ががたがたで和紙はふわふわしているから、完成したらどのような質感になるかわからない状態で、ここで作業を一旦やめにする決断をします。どの展覧会もそうですが、今回も描き上がる前に決断をするということに思い当たり、まだみぬ完成形への未然の決断そのものをタイトルにしました。どこを描くときも小さな決断の連続ですが、一度描いてしまうと消せないので、その行為を未然の決断と考えました。

ちなみに決断という言葉を辞書でひいてみたら斧という漢字がはいっているのですが、織物を切り離すという意味があるらしく、決断という言葉そのものに初めから織物、つまりは作品を完成させるという意味がはいっているわけです。それでちょうどいいと思ってタイトルにしました。

初めは大きな点を打っていることが多いのですが大きな点は骨格が把握できてないと打てないので、全体の木の形っていうのを木炭でスケッチして、ある程度描いてから表に返しています。この《梅枝》枝から先を描いていて、庭の梅の木なんですが、梅の花が咲いている季節は特に夜になると梅の香がにおってきていい感じになるというか、梅の木は夜の方がいいかと思って青をつかっています。

左:《錦木2111》2021, 墨、顔料、樹脂膠、雲肌麻紙 800 x 800mm  sold
右:《錦木2110》2021, 墨、顔料、樹脂膠、雲肌麻紙 500 x 606mm


錦木の生命力に驚き、スケッチなしに描いてみた

この2点がアトリエの窓をあけるとすぐのところにある錦木っている木なんですけど、久しぶりに窓をあけたら錦木がものすごい元気になっていて驚きました。去年植木屋さんに刈ってもらったら刈り取ったところから短く元気よく葉が出ていたので生命力みたいものを感じて、錦木ご存知の方はわかると思いますが錦木の葉は2本の線がある平べったいもので、真ん中に白い筋があり、今の時期は紅葉しています。

このクリーム色の紙が雲肌麻紙っていうのですが、生命力や重厚感のある松などを描くときは雲肌がいいかなあと思って、錦木も小さい木ですが元気がよかったので厚みのある、雲肌を選びました。錦木はスケッチしないでそのまま描いた。樹を見ながら和紙の裏にそのまま木炭で描きながら、すぐに描いた例です、スケッチした方が計画的、そのまま描いた方がダイレクトというか、野性的といわれたお客様がいましたが描きすぎることありますね。描きすぎているだけに、力強い感じにはなっていると思いますが。錦木は色もかわっていくし、いろいろと展開ができそうです。一つの墨点の真ん中が強くて周りがぼかされているといますが、裏側から染み出させているので、初めのきれいな、フレッシュな色だけがみえているところがあります。重なりの中でも鮮やかな新しい色だけが表側に出ていくという感じです。エネルギッシュで生き生きとした、和紙に濾されて出てきたという感じがあります。

《gray net 211001》 同じ錦木を、網戸越しに描いたグレイネット


gray net シリーズ、そこからさらに生まれた新作


中村屋の展覧会《変容のプロセス》で展示した作品で、隣の部屋の錦木の網戸を閉めた状態で描いたのがこの作品です。まだ葉が緑色で、光の加減でちょっと色味を感じると思ったので、それを黄緑でさして、その反対色である紫色をにじませています。グレイネットのシリーズなんですけれども網戸を閉めた状態で光が差すと網戸に影が落ちているときには影のところが透明で向こう側がよくみえたりするんですよね。その網戸のあるその状態もきれいだなと思い手前の網戸の格子をまず描いて、その向こうの枝とか葉の点を描いてみました。

《gray net 211101》 紅葉した錦木が網戸の向こうにみえる。
日経新聞日曜カット掲載作品(2021年11月28日付け)。2021 墨、顔料、樹脂膠、雲肌麻紙 455 x 530mm

―こちらの縦構図の《松図、朝》は新しい感じがします。

―白い点線の感じは今回の新作なんですが、となりの部屋にあるgray net シリーズというのを最近やってまして、網戸のグリッドを描いてから向こう側の景色をかくというのがあるんですが、網戸を先に描いて真っ白を先に描くというのが面白かったので、今回この木を書くときにそれを援用しました。門の松は、幹があって、上の方に松の葉があるんですが、それを下からみあげて描いていたら、離れているから枝がみえなくてどうしようかと思っていたところ、ちょうど朝早くて朝日がさしているけれどもその松を背景に霧がまだ残っていて、霧の粒子が右上に流れているかと思うと、その向こうでは左上に流れていたり横だったりあちこち動いているのが面白かった。霧は雨と違って気流に乗っていろんな風に動くのでそれを面白いと思って画面に入れてみたらどうなるかやってみた、初めての試みです。

この白い点々も裏から描かれており、真っ白だとどこを描いたのかわかりにくいので若干、薄墨にしています。白のところもありますが薄墨のところがあります。初め霧のように見えるか見えないかのものを点線で描くのはどうかと思ったんですけれども、そもそも5センチの点々で糸みたいな松の葉として大きな墨点で表すのと同様で、それも許されるかと思ってやってみたんです。見る人によっては光にみえてもいいかもしれないし、霧とか風とかにみてもらってもいいし、他の木もそうなんですが、木をそのまま描くことで画面の中で面白いことが起こっている。きっかけが樹木にすぎないわけで、今回は霧の動きをきっかけにやってみました。ずっと前ですが雪の軌跡みたいなものを画面に描いたこともありますが、まったく初めてではないがやはり雨、雪、霧はまったく動きが違うと改めて思いました。

―見えるものから出発してそれがどう展開するか、やってみないとわからないのですね。

―そうですね、余り大きくない作品なので、限られた時間の中でもこういう試みをすることはできると思っています。

緑の部分については、白緑は岩絵具のいちばん細かいものなんですけれども、白緑を使って(背景に)色を入れてみることで、初めの白い線が引き立つのでは思いました。いつもは表からどうさを塗った後、裏から胡粉を入れるんですが、小さめの作品なので、最初から裏側に最初から胡粉と白緑を塗って紙の中に染み込ませるようにしました。結果的に紙にムラが出るというか、紙の途中にも胡粉が出てきて、(どうさの前なので)裏から緑や白が出てきて「抵抗感」が生まれて面白いのではないかと思いました。また、胡粉を混ぜた白緑によって緑の色を抑え目にしています。この作品は処女作ですが、一枚目の方がわからないままにやるので大胆なことができるというのはあります(笑。)

画面の裏から胡粉を塗る作業。《松枝》

緑の部分については、白緑は岩絵具のいちばん細かいものなんですけれども、白緑を使って(背景に)色を入れてみることで、初めの白い線が引き立つのでは思いました。いつもは表からどうさを塗った後、裏から胡粉を入れるんですが、小さめの作品なので、最初から裏側に最初から胡粉と白緑を塗って紙の中に染み込ませるようにしました。結果的に紙にムラが出るというか、紙の途中にも胡粉が出てきて、(どうさの前なので)裏から緑や白が出てきて「抵抗感」が生まれて面白いのではないかと思いました。また、胡粉を混ぜた白緑によって緑の色を抑え目にしています。この作品は処女作ですが、一枚目の方がわからないままにやるので大胆なことができるというのはあります(笑。)

《松枝》2021 墨、顔料、樹脂膠、雲肌麻紙、1400 x 2000

―こちらは二作目になりますね。

―大きいので色は使わず、霧を点線で描いてみました。自分としては点線だけでもやれるのではないかと思い、今後はそういう展開もあるかもしれません。いろいろできそうだなと思っているところです。

―(会場からの質問)この松の絵は下からみあげた角度で描いているのですね。

―門の松はイスに座って見上げて描いた感じ。梅の木はきの根元があって、離れたところから50センチぐらい高いところから描いてみました。

―(同じく会場から)裏から描いた紙をひっくり返したときに、左右が逆になっていることには違和感ないのでしょうか。

―表に返して一旦時間をおいて、他のこと、食事したりお風呂にはいったり、をしてから、新しい眼で見直すようにしています。表にかえして大雑把なところだけを判断するようにする。頻繁に表に返さないで、5割から8割描いてから表に返すことが多いですね。その樹木の構造がしっかりしていれば、裏から何をしてもおかしなことにはならないという信頼感があります。表に返して確認するときには画面として見る感じで、ちょっとしたことを絵画として成立させるための作業をします。表側だけを見ていても絵は仕上がらない、また裏から描いて決断をして、どうさをひく、ということの繰り返しです。

―普通にスケッチしたものが裏返しになっているものを見るわけですね。

―そうなんですよね、自分にとっても新鮮です。それを水貼りして、展示されるとまるで自分の作品でなくなるような感覚もあります(笑)。

浅見貴子展は12月5日(日)まで開催中。ぜひご高覧ください。


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