Constellation #22 / 2018 / 紙にシルバーインクと墨汁、アルミニウムマウント / 1395 x 1395 mm
ドローイングの持つたたずまいは、ペインティングほど場所を選ばず家に掛けやすい
鈴木ヒラク君は「ドローイングの可能性を拡張しつづけている」アーティストであると紹介されることが多い。しかし、彼が「ドローイング」にこだわり続けていることの意味は最初なかなかわからなかった。
ドローイングというとペインティングの余技、あるいは下絵的な感覚でどうしても見てしまうことが多い。例えば同じ作家であればマーケットバリューはドローイングよりペインティングの方が高いことが多い。コレクターにとっては著名な作家の作品を持ちたい場合、ドローイングは大きさもお値段お手ごろで求めやすいともいえる。作品の持つたたずまいもペインティングほど場所を選ばず家に掛けやすい。私自身、ドローイングは素晴らしい作品もあるがどうしてもペインティングの代替というか、「ペインティングが持てるならドローイングはなくてもいい」という思い込みがあった。
Constellation #21 / 2018 / 紙にシルバーインクと墨汁、アルミニウムマウント / 695 x 695 mm
ヒラク君との出会い、ドローイングはアクション
初めてヒラク君の作品を見たのは2013年の日産アートアワードだったと思う。小泉明郎、宮永愛子、西野達といった既知の作家とともに展示されていたのは象形文字が書かれたような巨大な壁紙!? そのインパクト十分なインスタレーションは何か気になる作品として心に残った。次の機会は2015年9月、キュレーターの遠藤水城君が個展のオープニングに行きませんかと誘ってくれたのだ。のこのこついていった私はそこで彼の作品の虜になった。そこで見たGENZOのシリーズは、2014年の国東半島芸術祭の時に、真っ黒なトンネル内部に黒い紙とシルバースプレーを持ち込んで何も見えないところで瞬発的に描いたことが始まりだという。また、海辺に落ちていた木材を紙に乗せてスプレーを吹き付けた痕跡のような作品もあった。そのシンプルな形は人が何かを描く原点というか、ラスコーの洞窟さながら、大自然の中での人の存在というものを、時空を超えて語りかけているような気がした。それらの作品からドローイングがアクションであること、写真のように時間と場所を記憶できること、そして、自然や宇宙とつながっていることを実感した。
「タグチ・アートコレクション展 アンディ・ウォーホルから奈良美智まで」展示風景 @平塚美術館
トンネルの暗闇で描いたno.1 を含む、GENZOシリーズ を購入
また、線というものの面白さに気づいたのもこの展覧会だと思う。彼の描く一つ一つのモチーフは、まるで細胞のようで今にも動き出しそうだった。有機的な形が面白いなと思っていたら2000年代には土の中に埋め込んだ枯葉の葉脈を「発掘」する作品を大量に制作していたらしい。というわけで、ドローイングというものの可能性をあっという間に広げて見せてくれたヒラク君の作品にそれ以来目を離せなくなってしまった。結局、GENZOのシリーズはトンネルで描いたというNo.1を含めた7作品を購入させていただいた。数少ない当コレクションのドローイング作品である。(現在平塚市美術館で展示中)
bacteria sign #49 / 2018 / 土、枯葉、アクリル、木製パネル / 550 x 550 mm
近年は吉増剛造さんなど書家の方々や内外のアーティストとのコラボレーションも多く、いろいろな刺激を取り込んでいる。「ドローイング」の概念をもはや飛び出しているヒラク君が次は何をやるのか見逃したくないという思いで展覧会に足を運んでいる。
田口美和(タグチ・アートコレクション)
■タグチ・アートコレクション展 アンディ・ウォーホルから奈良美智まで
会場:平塚美術館
期間:4月21日~6月17日まで (月曜定休)
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