プロジェクトProject
dialogue: 椛田ちひろインタビュー 2011/8/19
アートフロントギャラリーでは、6月17日より約1カ月間にわたって椛田ちひろの個展「目をあけたまま閉じる」を開催しました。この展覧会は、東京都現代美術館での「MOT アニュアル」、そしてギャラリーαMやシンガポールでの個展という今年前半に続いた一連の展覧会を締めくくる内容となりました。この半年間で、作風の変化も見られるようになってきましたが、ARTiTの当ギャラリースペースではそうした点について作家へのインタビューを行ってきました。以下は、3回にわたり行われたインタビューをまとめたものです。作家の今後の展開などについても伺っていますので、ぜひお読みください。
(聞き手:近藤俊郎 / アートフロントギャラリー)
近藤(以下、K):始めに、なぜ絵具とかパステルといったいわゆる画材を使わず、ボールペンを選択したのでしょうか?
椛田ちひろ(以下、椛田):まず、筆記用具としてもともとボールペンが好きだったというのがあります。私は筆圧が非常に強く、シャープペンとかだとすぐ壊してしまうということもあり、画材としてということを抜きにしてボールペンに愛着がありました。
描画材としては、ボールペンのほかに油彩や樹脂なども使いますが、これらに共通して言えるのは単色であること、特にその色に夜空や闇を思わせるブルーグレイが多いことや、反射性もしくは透過性があるということです。油性ボールペンもそのインクの色が好きです。黒のもつ吸い込まれそうな青みがかった色、見るものを反射する金属的な光沢に強く惹かれるんです。
K:ボールペンの特徴の一つに、太い線は引けないという構造がありますよね。
椛田:それもよかったのだと思います。私は油彩は手で描くので太い線は指で引けばいいですが、細い線は爪でひっかく以外には引くことができません。極細の単調な線しか引くことができないボールペンの硬質な感じが今まで出せなかったのでいいな、と思いました。また、手で描くときには5メートルもの大きな画面を必要とする作業も、ボールペンならたった50センチで済むんです。「絵を取り出す」という作業がよりコンパクトに行えるという実感がありました。
K:「絵を取り出す」とはどういうことですか?
椛田:私にとっての絵というのは、「見えないもの」と言うことができます。「見えない」ということをどう観客に伝えるか、が私のテーマである「絵を取り出す」ということです。
K:油彩はなぜ筆ではなく手を使って描くのですか?
椛田:私の場合、「絵を取り出す」という作業は身体的な感覚をもとに行われます。そして筆ではその感覚が不十分なのです。画面に触れて、その向こう側に手を伸ばしていくような感覚が、筆では掴めません。手で絵具を握り、画面に叩きつけ、時には肘や膝なんかも使って画面に触る必要があるのです。私は手で描くということによって、絵に触れるための準備ができるのかもしれないと考えています。
だから、もしボールペンのインクが取り出せるなら手で描いちゃっていたかもしれない。それがたまたまインクが取り出せない構造になっていたので、そのままボールペンを使っています。
K:油彩の手で描く作品も、ボールペンの作品と同じ時期に作り始めたのですか?ボールペンや油彩はどれくらい使っているのでしょうか?
椛田:油彩は高校生の頃からですね。これまで線を描くということをずっとやってきていますが、油彩で線を引き始めた方が先でした。作品を発表し始めるよりだいぶ前の頃には、クレヨンやパステルを使ってカラーで線を引いていましたし、鉛筆も使っていました。油彩をメインにいろんなものを使ってデッサン的に描いていて、2007年に本格的にボールペンを使うようになりました。
でも、それ以前から今のスタイルになる兆候はあったのかもしれません。
小さい頃から絵が好きで、小学生のときに両親が油彩のセットを買ってくれて。筆ももちろんセットに入っていたのですが、筆を使うと描きにくくて、途中から手で書いていました。パレットも途中で放棄して、油はどう混ぜていたか記憶がないです。
K:やはり黒とかグレーだったのですか?
椛田:いえ、水を描いていました。青い絵でした。水面でただ真っ青。指のあとが横に走っていて縦にかけてみると滝のように見える絵でした。
K:ボールペンっていうと、画材ではないようなどこか世俗的なイメージがありますよね。逆に、油彩は画材の王様のようなものだと思います。なぜアクリル絵具などの他の画材ではなく、油彩だったのでしょうか。
椛田:アクリルも使いますが、油彩が王道の画材だから、とかではなく、合っているか合っていないかですね。油彩とアクリルでは乾き方も違います。アクリルと違って油彩はずっと乾かなくて、上にどんどん働きかけることができます。これは油彩の利点でも弱点でもありますが、そうやっていつまでも描いていられるというのが私には合っているんです。アクリルではなく油彩っていうのはそういう理由ですね。アクリルだとすぐ乾いてしまいますから。
椛田ちひろ(以下、椛田):まず、筆記用具としてもともとボールペンが好きだったというのがあります。私は筆圧が非常に強く、シャープペンとかだとすぐ壊してしまうということもあり、画材としてということを抜きにしてボールペンに愛着がありました。
描画材としては、ボールペンのほかに油彩や樹脂なども使いますが、これらに共通して言えるのは単色であること、特にその色に夜空や闇を思わせるブルーグレイが多いことや、反射性もしくは透過性があるということです。油性ボールペンもそのインクの色が好きです。黒のもつ吸い込まれそうな青みがかった色、見るものを反射する金属的な光沢に強く惹かれるんです。
K:ボールペンの特徴の一つに、太い線は引けないという構造がありますよね。
椛田:それもよかったのだと思います。私は油彩は手で描くので太い線は指で引けばいいですが、細い線は爪でひっかく以外には引くことができません。極細の単調な線しか引くことができないボールペンの硬質な感じが今まで出せなかったのでいいな、と思いました。また、手で描くときには5メートルもの大きな画面を必要とする作業も、ボールペンならたった50センチで済むんです。「絵を取り出す」という作業がよりコンパクトに行えるという実感がありました。
K:「絵を取り出す」とはどういうことですか?
椛田:私にとっての絵というのは、「見えないもの」と言うことができます。「見えない」ということをどう観客に伝えるか、が私のテーマである「絵を取り出す」ということです。
K:油彩はなぜ筆ではなく手を使って描くのですか?
椛田:私の場合、「絵を取り出す」という作業は身体的な感覚をもとに行われます。そして筆ではその感覚が不十分なのです。画面に触れて、その向こう側に手を伸ばしていくような感覚が、筆では掴めません。手で絵具を握り、画面に叩きつけ、時には肘や膝なんかも使って画面に触る必要があるのです。私は手で描くということによって、絵に触れるための準備ができるのかもしれないと考えています。
だから、もしボールペンのインクが取り出せるなら手で描いちゃっていたかもしれない。それがたまたまインクが取り出せない構造になっていたので、そのままボールペンを使っています。
K:油彩の手で描く作品も、ボールペンの作品と同じ時期に作り始めたのですか?ボールペンや油彩はどれくらい使っているのでしょうか?
椛田:油彩は高校生の頃からですね。これまで線を描くということをずっとやってきていますが、油彩で線を引き始めた方が先でした。作品を発表し始めるよりだいぶ前の頃には、クレヨンやパステルを使ってカラーで線を引いていましたし、鉛筆も使っていました。油彩をメインにいろんなものを使ってデッサン的に描いていて、2007年に本格的にボールペンを使うようになりました。
でも、それ以前から今のスタイルになる兆候はあったのかもしれません。
小さい頃から絵が好きで、小学生のときに両親が油彩のセットを買ってくれて。筆ももちろんセットに入っていたのですが、筆を使うと描きにくくて、途中から手で書いていました。パレットも途中で放棄して、油はどう混ぜていたか記憶がないです。
K:やはり黒とかグレーだったのですか?
椛田:いえ、水を描いていました。青い絵でした。水面でただ真っ青。指のあとが横に走っていて縦にかけてみると滝のように見える絵でした。
K:ボールペンっていうと、画材ではないようなどこか世俗的なイメージがありますよね。逆に、油彩は画材の王様のようなものだと思います。なぜアクリル絵具などの他の画材ではなく、油彩だったのでしょうか。
椛田:アクリルも使いますが、油彩が王道の画材だから、とかではなく、合っているか合っていないかですね。油彩とアクリルでは乾き方も違います。アクリルと違って油彩はずっと乾かなくて、上にどんどん働きかけることができます。これは油彩の利点でも弱点でもありますが、そうやっていつまでも描いていられるというのが私には合っているんです。アクリルではなく油彩っていうのはそういう理由ですね。アクリルだとすぐ乾いてしまいますから。