《梱包されたアレクサンドルIII世橋、1972-1990》
edition 120, リトグラフにハンドコラージュ, 1991, h70 x w75cm
(作品のお問合せ:contact@artfrontgallery.com)
街の要「橋」を包む
凱旋門からも比較的近いアレクサンドルIII世橋は、アンヴァリッド広場とグランパレを結ぶ軸となっており、橋のプロジェクトの中でも早い時期に構想されました。この橋は19世紀の技術の粋によって建てられ、スチール製のアーチはそれぞれ6メートル間隔で構成。アールヌーヴォー様式のランプのシルエットが広い空に映える、印象的な橋です。
パリのアレクサンドルIII世橋
クリストとジャンヌ=クロードはこの橋の美しさに魅入られ、梱包プロジェクトを構想しましたが、実現にはいたらず、何枚かのドローイングやコラージュ作品が残されただけになりました。その後、バルセロナの工房、ポリグラファで手作業でのコラージュが付けられたリトグラフ作品が制作されました。
梱包に使われるキャンバス地やロープは、コラージュとなっても微妙なドレープを呈する手わざで作品化され、まるで実際の梱包プロジェクトそのものの様です。
クリストの手掛けたプロジェクトは皆、準備のために描かれたドローイングやエンジニアの為の資料を展示し、多くの人々の理解を得ることから始まっています。
アーティストとして、どのように梱包する布が周囲の光を集めるか、といった美的な要素はもちろん重要でしたが、それ以上に、行政や地権者を説得して、プロジェクトを受け入れてもらい、梱包作品の支持体に布を取り付ける許可を得るというプロセスに多くの時間が費やされたのです。例えば、実現したプロジェクト・パリのセーヌ川に架かる橋ポン=ヌフの場合には、地域の理解がとても重要でした。そして、2週間のポン=ヌフ・プロジェクトの間、人々は皆その橋を徒歩で渡りながら作品の本質を体感することができ、理解を超えた感動へと繋がっていきました。
また、クリストがドローイング等を制作する目的がもう一つあります。それは、よく知られているように資金集めです。自己資金にてプロジェクトを完遂する、というのがクリストとジャンヌ=クロード流で、ポン=ヌフのプロジェクトの場合もその資金に支えられました。
梱包されたポンヌフ、1985 クリストのサイン入りポスター
日本と、クリストとジャンヌ=クロード
アートフロントギャラリーは、リトグラフ作品《梱包されたアレクサンドルIII世橋》を、クリストとジャンヌ=クロードによる茨城とカリフォルニアの為のプロジェクトに関わった縁で取り扱っています。《アンブレラ、日本、アメリカ合衆国、1984-1991》は日本の茨城とアメリカのカリフォルニアの2地点を拠点に同時開催するもので、傘の設置によってそれぞれの谷の地形的な共通点と差異を浮き彫りにしました。
“アンブレラ、日本とアメリカ合衆国のためのジョイント・プロジェクト1984-1991”
1988, 鉛筆、布、パステル、木炭、クレヨン、エナメルペイント、地図 (作品のお問合せ:contact@artfrontgallery.com)
しっかりと固定されたスチールの台座に垂直に立てられた傘は茨城で1340本、カリフォルニアで1760本。茨城においては459か所の個人主や公的な場所にわたって傘が設置されており、プロジェクトに対する地域の協力と理解が伺えます。
このプロジェクトの実現に必要な資金はすべてクリストがドローイングなどを制作し、実現のためにつくられた臨時会社によって販売されました。
Art Front Selection 2020 autumn 展示風景
クリストによって遺された数々のドローイングや《梱包されたアレクサンドルIII世橋》の様なリトグラフ作品は、彼等の遺産であるだけでなく、撤去されたそれぞれのプロジェクトを記録する貴重な手立てでもあります。作品の中にはアレクサンドルIII世橋のように実現しなかったものもあるが、長年の努力が実ったパリ凱旋門と並んで往時の若きクリストとジャンヌ=クロードの情熱を表したものには相違ありません。
現在、アートフロントギャラリー2Fには、《梱包されたアレクサンドルIII世橋》を展示しています。ギャラリーへお越しの際は、スタッフへお声がけください。ご案内いたします。