この作品は2013年の個展の後に制作された作品群のひとつです。
非常に自由な流れるような線が印象的な作品です。
これまでの塗りつぶすようなスタイルからの脱却が感じられます。
川の流れのようであり、どことなく作家自身の動きが想像され
そのうごきはまるで踊りのようでもあります。
2013個展展覧会風景より
このシリーズは2013年発表のDark Ocean シリーズ以降の作品で、それまでの塗りつぶすような作品と異なり、身体の稼動範囲が生む自然な動きを元に流れるような無意識の線が印象的な作品群です。
2013年の個展ではDark Oceanのタイトルの下、部屋中を取り囲む形で作品を展示するようなものでした。
※詳しくは上記リンクより過去展覧会をご覧ください。
また、以前の点が霧散したり集合するかのようなタイプの作品とも異なりより線の動きや筆致を感じる作品となっています。
Dark Ocean 20140731, 900x1800mm 2014
ここで線の表現はより顕著になり、塗りこめた空間よりもその線の動きの変化を追っていく実験のを幾度も試みています。余白のプロポーションが日本的であり次の動きへの予兆が見えます。
この線による北斎の波のような動きは、この作品以降から文様的な円弧の形として現れ始めます。
こちらは伝統的な文様「青海波(せいがいは)」のひとつ
この柄の発祥は古代ペルシャとされています。
シルクロードを経て日本に伝わったのは飛鳥時代、平安時代に書かれた源氏物語の中に『青海波』という雅楽を舞う若き光源氏の姿が描かれています。
この神楽を舞う舞人の衣装の柄が青海波で、青海波の名はこの神楽に由来すると言われています。
Dark River_20141014(舞)_2014_510x1260mm
椛田の実験はこの文様のような形を加えることで面白い変化を見せます。
身体的な流れと対照的なパターン自体を組み合わせた様子は日本の美学を持ちながら世界に通用する美しさを持っています。
これまでも椛田の作品には、どこまでも果てなく塗りつぶすオブセッシブな感じがあり、作家はその制作を通して未知の世界と交信する巫女のような感じがありました。
この作品と文様の歴史を通した新たな側面から、作家は目に見えぬ何かと交信する舞人のような捉え方ができ
その神秘性が作品の魅力となっているようにも感じられます。