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dialogue : 椛田ちひろインタビュー2012/11/8
展示風景

  • dialogue : 椛田ちひろインタビュー2012/11/8

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dialogue : 椛田ちひろインタビュー2012/11/8

インタビューと技法の変遷                                


現在アートフロントギャラリーでは、椛田ちひろ「世界は鏡を通過する」展を開催しています。



今年の椛田ちひろの個展では、表面をボールペンで黒く塗りつぶした作品とガラスと樹脂を用いた作品の他、反射するテープを壁とスペース全体に取り付けられた大掛かりなインスタレーションなど多様な素材を駆使した展示展開をご覧いただけます。


アートフロントギャラリーでは2010年の姉妹展以降、2011年、2012年と椛田ちひろの個展を開催しています。
今回は、当ギャラリーでの個展を振り返りながら、毎年新たな取り組みを見せる椛田さんの作風を振り返ってみます。
また今回の展覧会については、作家にお話をお聞きしたインタビューと合わせてご覧ください。

姉妹展 「箱庭と黒い森:Simulacra and Blind Illusion」 (アートフロントギャラリー、2010年) 展示風景

2010年の椛田有理との姉妹展「箱庭と黒い森:Simulacra and Blind Illusion」では、キャンバスに油彩、紙にボールペン、それからボールペンを使った作品が主でした。ボールペン作品は、重ねられた線が織りなす黒く深い森のような印象の作品で、線を重ね黒い光沢がある強度を感じさせました。

グループ展 「MOTアニュアル 」 (東京都現代美術館、2011年) 「星がうるさくて眠れない」、テトロンに油性ボールペン、2011年 (photo by Ryota Atarashi)

MOTではボールペンを使った大掛かりなインスタレーションに加え、布や鏡が新素材として登場しました。ボールペンを使い、何か見えないものを模索するように素材を引っかいて製作する手法は一貫しながら、平面作品だけでなく、大きなインスタレーションの展開が見られるようになりました。そこには作品の外にある空間や人に関わり始めている作家の姿勢の変化が感じ取れる展示でした。

個展 「成層圏 Stratophere xol.1 椛田ちひろ「私」のゆくえ」 (ギャラリーαM、2011年)「Anonymous」、鏡に樹脂、2011年

ここでの個展では、初めて鏡に樹脂を垂らした作品を発表しました。
作家の作品集「yearbook」には、掲載されていますが、会期数日で撤去された為ご覧になった方は少ないかも知れません。

個展 「目をあけたまま閉じる」 (アートフロントギャラリー、2011年)
この展覧会では、黒い水を大きなボウルに張った作品が出展されています。
これが今回の黒い樹脂の作品につながっていくことになります。

グループ展 「あざみ野コンテンポラリー vol.2」 (横浜市民ギャラリー、2012年)

「あざみ野コンテンポラリー vol.2」は、黒く塗りつぶしたボールペン作品と天井から吊られた鏡の組み合わせでした。この展示は黒の作品の発展系といえます。

個展 「世界は鏡を通過する」 (アートフロントギャラリー、2012年)「鏡は横にひび割れぬ」、ガラス・樹脂

アートフロントギャラリーでの個展は、今回で2度目となる本展では、鏡の作品からガラスを黒くした鏡としての作品へと展開しています。
黒は見る側や周りのものをよく映しこむ色として、去年の展覧会でも椛田作品に登場していました。


- 何故鏡を黒で表現するのでしょうか?
「黒は有の色です。掴めないけれど、そこに何かがある。そういう色です。絵を見る人の想像力を掻き立てる、最高の色だと思います。」

- 何故鏡など人が映りこむということに着目しているのですか?
「いえ。ボールペンの作品も鏡だったのです。ボールペンで紙を塗りつぶすと、塗りつぶされた部分が光を反射します。16歳で初めて画面をボールペンの線で埋めた時、画面はまるで金属のように鈍く光っていました。ルーツをたどれば、これが鏡作品のきっかけということになるでしょうか。
鏡というのは、光の反射によって対象を映しだします。そして、ボールペンの黒インクは金属を多く含むため鏡と同じ反射の効果が得られます。線の状態ではわかりにくいですが、描画面が過剰になると、描いている自分自身や観客を映しだすようになります。
 人間は光によってものを見ますから、光を全反射する鏡は視覚を広げる便利な道具にもなるのと同時に既知の世界を歪ませる恐ろしい存在でもあります。私は、絵画はそれにとても近いものだと考えます。」

本展では黒いボールペンでぬりつぶすことによって見る側が作品に写りこみ、その表面にアクリルを貼ることによってより人や周りの風景が反射され、鏡のような効果を生み出しています。

体が入り込む位の適度なサイズの作品は、閉じ込められている、のぞきこむような感覚にさせます。
また、空間をうめつくすほどの大きなインスタレーションは、作品に入り込めるような、作品を体験できるような作りになっています。

- 大型インスタレーション作品には今回の新素材として反射するテープが使われていますね?
「はい。ボールペンの線が、絵具を触っていた指が、今回テープというさらに大きな単位で現れました。線を使って描画することではボールペンもテープも変わりはありませんが、テープは空間に張られるという部分で大きく異なります。画面の上を行き来していた線が空間に飛び出し、様々な角度で反射します。今回のインスタレーションで初めてチャレンジしました。この鏡面テープを使った空間への試みは、今後も展開させていく予定です。」


姉妹展ではボールペン作品、去年の個展では鏡、そして今年は黒いガラスと反射するテープへと表現に合わせた素材の変化がみられます。試行錯誤しながら、失敗しながらも新しい表現へと挑む椛田さん。今後のさらなる展開が楽しみです。



ギャラリースペースの他に別室にて、初期のめずらしいボールペン作品もご覧いただけます。ギャラリースタッフにお声をかけていただきますとご案内致します。

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