展覧会Exhibition

浅見 貴子 - 彼方 / 此方
《蘇芳》1305×970㎜、パネル、雲肌麻紙、墨、顔料、膠、2016年

  • 浅見 貴子 - 彼方 / 此方

サムネイルをクリックすると、拡大表示します。

浅見 貴子 - 彼方 / 此方

2017. 4. 7 (金) - 4. 30 (日)

この度アートフロントギャラリーでは、浅見貴子の個展を開催致します。
日程 2017. 4. 7 (金) - 4. 30 (日)
営業時間 11:00 - 19:00 (月休)
レセプション 2017. 4. 7 (金) 18:00 - 20:00
浅見貴子は多摩美術大学で日本画を専攻し、埼玉県の秩父を拠点に活動しています。アトリエのある日本家屋は殖産興業の波にのって繊維業・織物業がこの地に栄えた時代を今に伝え、庭には松・梅・柿・山椒の木が形よく並んでいます。浅見は幼少の頃からよく見知っているこれらの木々を繰り返しデッサンし、紙の上にあるべき姿の構想を十分に練った上で、たっぷり墨をふくませた筆を転がすようにして空間をつくっていきます。黒点の連なりは葉叢をなし、枝と枝の間に存在する空気や光をはらみながら力強い樹木を生みだします。主に紙の裏から描いてその滲みの効果を表から確認する独特の手法によって、具象とも抽象ともいえる画面が立ち上がってくるのです。

生命力にあふれた自然の姿は、国内外に限らず多くのファンを集めてきました。2001年12月にはアメリカ同時多発テロの傷痕も生々しいニューヨークで個展を敢行し、東日本大震災はちょうど数日後のアートフロントギャラリーでの展覧会に向け新作を描いている時でした。停電し、交通網も遮断される中で逆に憑かれたように筆を動かしたといいます。日常生活が突如として奪われるような状況にあっても尚、浅見の作品はそこに厳然と存在して観る人を受け止めるだけの強さを持っているような気がします。2006年にはアートモスクワに参加、その後文化庁新進芸術家海外研究員としてNYのISCPでレジデンスを行い、ヴァーモントスタジオセンターでも研鑚を積むなど外界に目を開いた浅見は、そうした刺激をここ数年、制作活動の中で熟成してきました。最近では南仏やスペインの個人コレクションにも作品がはいり、浅見の特徴的な作風のイメージはネット上でも多く検索され様々な国を駆け巡っているといえます。

何が人々を惹きつけるのか。水墨画の伝統に根差した自然への親和性と、現代美術としての尖った表現がそれぞれの作品の中で均衡を保っていることが挙げられるのではないでしょうか。日本画の継承者であると同時に新たな地平の開拓者でもある浅見は、紙と墨、顔料への強いこだわりをもっています。墨の染み込む速度がそのまま作風を決定することもあって、例えば描かれたモチーフによっても白麻紙、雲肌麻紙、大濱紙などの種別を選びとり、蘇芳を描けば蘇芳からとった顔料を挿し色のように使っています。在る素材の性質を最大限引き出そうとする制作態度には多摩美時代に講義を受けたという李禹煥の影響などもあるのかもしれません。何を描くか、何でどう描くかは常に一枚の白い紙から始まる物語であり、生まれ育った家で制作を続ける作家の、地に足のついた展開が今回の展覧会で期待されます。ご高覧、ご取材のほどよろしくお願い申し上げます。

画像 1 : 精III  1998 墨、樹脂膠、雲肌麻紙、パネル 120 x 180cm

■過去作品紹介と作品の変遷について

アートフロントギャラリーでの浅見貴子展は今回で4回目を迎えます。今回の展覧会では新作とともに初期の作品を見せています。こちらの「精III」は1998年に描かれた作品で、全体が樹木のシルエットに見えなくもないですが、点の連続でを方向性やボリュームを出す試みであったそうです。

浅見:
「1998年に千葉市美術館で曽我蕭白展をみたあとに影響を受けて描いた作品です。蕭白の作品は墨の点々が多用してあり、2つか3つぐらいの点が連打してあって空気が振動しているようにみえたので、自分もこの点の連続が使えるんじゃないかと思って点が目立つようなストロークをつくりました。」

しかしこの作風はあまり長くは続きませんでした。自分の手の痕跡を消すような仕事をしていた作家が樹木を描き始めたのには理由がありました。

浅見:
「自分で何か描こうと思っても、自分から能動的に形や線を描くことができないでいました。そんな時に、梅のまっすぐな枝に目がとまり、枝を線にして梅の木をそのまま写しているという意識でその構造を使おうと思いました。樹木のかたちをそのまま描いているだけで、自分で形を決めているわけではない。以来そのスタンスが続いています。」

画像 2 松の木 11/17 203 x 265cm 墨、顔料、樹脂膠、雲肌麻紙、パネル 2017

2011年の展覧会は、東日本大震災の翌週に幕をあけるという過酷なスケジュールだったわけですが、その年に描いていた梅と松のうち、松がまだ仕上がっていなかったとのことです。今回、展覧会のために7年越しで松を仕上げるために写生を再開し、新たに枝や点を描き加えたそうです。時を経て、近年に掛けて培った新たな技法と当時の大きな点とストロークがあいまった複雑な構造になっています。
浅見:
「変わらないと思っていたモチーフ自体も変わっていたんですよ。私の描き方や視点が変わっていたのと同じで松の木自体も7年のときを経て変わっていた。このことが実際に描いてみてわかりました。」

画像 3 Gray net 170301 2017 墨、顔料、樹脂膠、麻紙、パネル

樹木のシリーズからさらなる発展形を作家は模索しています。

浅見:
「病院の待合室で座標軸について考え、方眼の格子を描いていたことがあります。以前から網戸の向こう側にみえる風景がきれいだと感じていたのですが、帰宅して改めて網戸を見て、格子だと思いました。実際網戸を描いてみると、そのあとに描いた白や緑のところどころ、墨が強く出たりという不均一な状態が生まれて面白いと思いました。格子の中に墨がにじんでいたり曖昧な状態が水性で描いたようにみえるのでないか。 ギャラリースタッフの反応がうすいのですが(笑)私としては格子があることで向こう側の風景が気楽に描ける。違う展開できるのではないかとワクワクし、このシリーズだけで個展をしたいぐらいです。」

この網戸の格子はよく見ると一個一個ゆがんでいるのですが、ともすると円のように見えてきます。
実は、この格子も縦横で線を描いているのではなく一個一個のグリッドを丁寧に一つ一つ書いているそうです。
この有機的な線は網戸を見る角度により時折、目の錯覚でゆがんで見えるという体験を基にしており、あちらとこちらの世界を分けるあいまいな空間を描いているのかもしれません。

今回の展覧会タイトルにもなっている「彼方」と「此方」。向こう側とこちら側が織り成す空間のひだを、ぜひ実際の作品の中で発見していただければと思います。
皆さまのご来場をお待ちしています!

トップに戻る