春原 直人
≪Presence≫ 2021 / 1300 x 1620 x 30mm / 和紙、岩絵具、墨
春原直人は東北芸術工科大学で学び、登山をしながら描いたスケッチを基に主に山を描いてきました。本年はVOCA展2021に続き日経日本画大賞展に入選し、その身体的感覚や体験の映し出された作風が注目を集めています。
今回の個展では、登山の過程で得られる断片、自然に内包されるフラグメンツを描くことを主眼に、自らが移動した痕跡を3D立体でも見せながら、日本画の領域を広げつつ、鑑賞されることをめざします。山を登る人には山の姿はみえず、様々な石や土が見えてきます。山を自分で登って描いている春原だからこそ描ける山の破片ではないかと思います。
その中でもPresenceは春原が今回の個展のために描いた作品で、特にギャラリーに入った瞬間、躍動的なストロークから出てくる圧に驚く作品です。一見すると偶然性に重点を置いたアクションペインティングの様に見られがちですが、実際には、山登りの際に書いたスケッチや印象をもとに作られた計画的な構図と若い作家の身体性が生み出す筆の流れの躍動感によるハイブリッドな画面構成となっており山に登りそれを表現するという作家の意図が表れています。ぜひ作家による山とのかかわりの破片たちをみなさまで想像しながら楽しんでください。
鴻崎 正武
≪MUGEN -Tree of life-≫ 2020 / 2400 x 1700mm / 木製パネル、麻紙、箔、岩絵具、アクリル
鴻崎正武は平面上に胡粉で盛り上げた支持体をもとに金銀箔の雲を散らし、雲間に点在するキメラ風の動植物や未来の乗り物、黙示録に出てくるような異界の生物や事物が現れ、画面を埋め尽くすという作品を描きます。"MUGEN -Tree of life-"は去年、鴻崎が個展のために絵描いた作品で縦に3つのパネルで構成されており、真ん中のパネルから過去、現在そして、未来の生命が時代を超えて生まれて共感するような作品です。鴻崎自身にとって掛け合わせ(キメラ)のイメージの中で最も象徴的だった「生命の樹」をモチーフにした作品でもあり今年の日経日本画大賞展に入選した作品です。
阪本 トクロウ
≪呼吸(電線)≫ 2012 / 1400 x 1400 mm / 高知麻紙、アクリル
時には余白を大きくとり、空や山、道路、送電線、信号機、公園の遊具といった風景を切り取り、人間の不在を強く意識させる阪本トクロウ。この作品は今年練馬区立美術館の展覧会「電線絵画展-小林清親から山口晃まで-」に出展された“電線”です。どの作品にも電線や電柱が描かれていたユニークな展覧会の中でもコンテンポラリーアートとして最後の閉めになったこの作品を記憶している人は多いと思います。
この作品を含め、不在を描くことで存在を示す阪本の作品にご興味がある方は是非アートフロントギャラリーまでお問い合わせください。
田中 望
≪日を知る≫ 2017 / 606x455 mm / パネル、麻布、胡粉、水干、岩絵具、墨、箔
2014年にVOCA展で大賞を取った田中望は、フィールドワークなどを数多く行いその成果をもとに絵画的に表現する作家です。その絵には擬人化されたウサギが画面中に配されて、地方での伝統的な暮らしの様子が描かれています。今回紹介する作品のタイトル、“日を知る“というのは、暦と火の技術を知っているという意味だと作家は言います。先祖代々伝わるこれらの技術は、彼女が以前、山形でみた焼畑の風景に重なり、この作品の背景になりました。山形の庄内地域では月山信仰と関係から、ウサギは馴染みぶかい動物です。あの世の世界を象徴する月山の神様の使者であり、かつ、あの世とこの世の媒介者のような存在と考えられています。現代まで、山焼き(焼き畑)をつづけている人々の様子をウサギを通して描くことで、この行動が、先祖(あの世)とつながりであることを表現した作品になります。
浅見 貴子
≪松図1401≫ 2014 / 2000 x 2000 mm / 墨、胡粉、顔料、岩絵具、雲肌麻紙、パネル
日経日本画大賞展の大賞をとった先輩としてアートフロントギャラリーの日本画を先頭で若手に道を開いてくれた浅見貴子の作品です。こちらの作品は松の木で梅や竹、桜、花蘇芳と共に作家が好んで描いている木です。何度も繰り返しスケッチをして木の構造を把握したら画面に描き出すといいます。和紙の裏側に樹木の骨格を描き写した後に、樹木の葉などを墨の点々によって重ねていきます。一度おかれた墨の痕跡は消せず、時折おもての様子を確認しながら点々を重ねていきます。