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河口龍夫、2021年夏:《関係-黒板の教室》リニューアル

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河口龍夫、2021年夏:《関係-黒板の教室》リニューアル

大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレ

2021年夏の越後妻有は「今年の越後妻有」と題して、越後妻有里山現代美術館MonETと「農舞台」フィールドミュージアムがリニューアルオープン。新作が続々登場する中で、まつだい「農舞台」では2003年の竣工以来長く親しまれてきたインスタレーション作品、河口龍夫《関係-黒板の教室》のリニューアルが施されました。今回のリニューアルでは長年の展示によるダメージの補修に加え、2つの新作シリーズが制作されました。本稿では、改めてこの名作の解説とともに、今回新たに追加された作品についてご紹介いたします。

■「今年の越後妻有」
越後妻有里山現代美術館 MonET・まつだい「農舞台」フィールドミュージアムリニューアルオープン
日時  2021年7月22日(木祝)-10月31日(日)
場所  【越後妻有地域】(MonET、農舞台、絵本と木の美の美術館、上郷クローブ座 ほか)
料金  ※セット券、単館券など施設ごとに異なります
備考  ※企画展や作品の特別開館、イベントなど詳細日時は内容によって異なります。
WEB    新規タブで開きます

■まつだい雪国農耕文化村センター「農舞台」の開館情報
時間  10:00-17:00(最終入館16:30)火水曜休館(祝日の場合は翌日休館)
TEL   025-595-6180
料金  農舞台フィールドミュージアムセット:一般1,000円 小中500円
    農舞台単館券(郷土資料館含む):一般600円 小中300円
住所  新潟県十日町市松代3743-1
WEB    新規タブで開きます

■MonET& まつだい「農舞台」フィールドミュージアム セット券
リニューアルオープンする 2 施設のセット券をご用意いたします。本券 1 枚で他の新作もお楽しみいただける豪華特典付き。
詳細は こちら

河口はキャリアの初期から、作家活動と並行して教育者としても長年活動をしてきました。直接教育そのものに関わっている身として、芸術作品として教育を対象化することを遠ざけてきた河口でしたが、1992年よりその反省を活かして《関係-教育・エディカチオ》シリーズの制作を開始します。その後、まつだい雪国農耕文化村センター「農舞台」が竣工した2003年に制作された《関係-黒板の教室》は、教育に真正面から取り組んだ作品でした。

《関係-教室・エドゥカティオ》1992-1997

《関係-黒板の教室》は、黒板塗料の深緑色一色に覆われています。訪れる人は黒板のみならず、机や椅子、床、天井に至るまで、どこでもチョークで落書きすることができます。また、制作当初は机天板を開けるとタッチパネル式のコンピューターが現れ、地域の生活文化について学べる仕組みが施されていました。その後のアップデートでは、教室の袖引き出しに教材や昆虫など教育的な素材で構成した「引き出しアート」が内蔵されました。

《関係-黒板の教室》installation view, 2012, (photo: Osamu Nakamura)

教室そのものが黒板という、想像力を掻き立てられる本作品は、どこでもチョークで書けるという無限の自由度も相まって公開直後から大きな反響を呼びました。その一方で、チョークの粉による不具合で公開間もなくコンピューターは修復不可能になるまで損傷し、また長年多くの人々の創造力を一身に受けてきた代償として、作品空間のあちこちにダメージが積もっていったのも事実。まつだい「農舞台」リニューアルオープンに際して、本作品も改修を施すことになりました。修復に際しては、長年の展示による色あせなどの経年変化は作品の大事な要素とみなし、極力現状の雰囲気を尊重する方針で進められました。

《関係-黒板の教室》修復後, 2021

今回のリニューアルに際して、河口は大きく二つの作品シリーズを新たに制作しました。机に内蔵される「関係‐教育」シリーズと、「黒板になった教材」シリーズです。

《関係‐教育・校長室と生徒会室》

● 机に内蔵される「関係‐教育」シリーズ
黒板になった机を見ると誰しも夢中でチョークを走らせますが、この天板が「めくれる」ことについては、意外と知らない人が多いのではないでしょうか。ここにはかつてコンピューターが内蔵されていましたが、今回この机の天板下の空間に妻有の閉校した学校から集められた教材を素材に構成されたアートボックスが内蔵されました。アートボックスは音楽や理科など、教材のジャンルに沿ってテーマ付けされています。

(左上から時計回り)《関係‐教育・積木とカマキリ》《関係‐教育・解剖教室》《関係‐教育・チョークとスライド》《関係‐教育・算数の授業》

今年の3月で長く務めた教職を退官し、ようやく作家活動に専念できると嬉しそうに語る河口により、遊び心溢れるアートボックスが作られました。教室内の15台の机に新たに宿った作品は、どれも見逃すことができない個性とエネルギーを湛えており、我々は、まるで教師が一人一人の生徒と向き合うかのように、一つ一つの机を丹念に鑑賞していきます。黒板色に塗られた床や壁、机が想像力のキャンバスとして鑑賞者の参加を促すならば、天板に収められた本作品は、いわば教材を素材にした河口の無限の想像力を覗かせてもらう感覚に近いのかもしれません。

「黒板色に塗られた教材」シリーズ, installation view

●「黒板色に塗られた教材」シリーズ
《関係-黒板の教室》内、黒板の右わきに設置されている古いガラス戸棚の中に、今回のもう一つの新作、「黒板色に塗られた教材」シリーズが展示されました。顕微鏡やタンバリンなど馴染み深い教材から、今では使われることのない謄写版用ヤスリや本たたきまで、アイコニックな学校のモノたちが一様に黒板の深緑色をまとって整列しています。

「黒板色に塗られた教材」シリーズ, installation view

子供のころ両親から贈られた黒板に向かって、想像力の限り描いては消しを繰り返していたという河口にとって、《関係-黒板の教室》を制作したのは、「黒板から想像力を駆り立てられた記憶が想像を喚起し「精神の冒険」として現れ出たのかもしれない」と考察しています。黒板色に塗られることで、何事も描き、消される自由を得た本作品からは、個々人の想像力や多様性を引き出すという、教育の普遍的な側面を取り上げているように思われます。

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