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アデル・アブデスメッド「Play it Again」vol.2:ドローイング
“Study”2015, 紙に木炭, 42 x 59 cm (額装 48 x 65,4 x 3 cm)

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アデル・アブデスメッド「Play it Again」vol.2:ドローイング

ギャラリー

アートフロントの展覧会「アデル・アブデスメッド:Play it Again」は政府による自粛要請を受けて現在閉廊中ですが、展示作品の背景について前回に続いて主にドローイングを中心にご紹介します。

“Tank”2015, 紙に木炭, 42 x 59 cm

前回の記事では現在の社会状況を常に意識して作品に反映させていくアデル・アブデスメッドをご紹介しましたが、今を生きるアデルのアーティストとしての原風景はどこにあるのでしょうか。

アルジェリア生まれのアデルは16歳からバトゥナでアートを学び始めましたがこの小さな街こそアルジェリア独立戦争の中核となった場所でした。ヨーゼフ・ボイスに影響を受けてドローイングを描き出したのがこの頃で、その後首都アルジェの美術学校に入学したものの、テロリストたちの脅威にさらされる毎日で1994年には祖国を捨てなければならなかったのです。

"Exit" 1996, Blue neon, 11 x 26 cm

後年、ヴェネチア・ビエンナーレでベネッセ賞を受ける“EXIT”という作品が生まれた背景には故郷に戻りたくても数年以上戻ることができず、国外にいて自らのアイデンティティを模索する複雑な事情があったようです。フランスではリヨンのボザールに籍を置き、活発に制作を始めました。

"Exit" Yellow neon, 23,5 x 34,9 cm, 52nd Venice Biennale, 2007


著名なキュレーターのハンス・ウルリッヒ・オブリストは1995年リヨン・ビエンナーレで初めてアデルと出会ったときのことをこう記しています。

「アデルの作品にみる詩的な強さは既に初期の作品に現れていて、プライベートとパブリックの境界線を曖昧にし、伝統と現代性の間に横たわる緊張感をより激しいものにしていた。アデルは一つのイデオロギー、一種類のメディウムに拘束されるのを拒絶し、宗教・性別・政治におけるあらゆるタブーを打ち破るべくビデオやドローイング、写真などの作品を次々と発表した。一つのテーマから他のテーマへやすやすと旅しながら。私は幸運にも彼がアーティストとして独り立ちするためにカフカ的変身を遂げ、最初の仕事を紡ぎだす現場を目撃することができた。この時から現在にいたるまで、彼はたった一つ、永遠に泣き続ける赤ん坊のように生きてきて、また進化を遂げてきた。」※1

アデル・アブデスメッド : Play it Again 展示風景、2020

ここで指摘されているように、確かにアデルの作品は多岐にわたっていますが、その中でドローイングの果たした役割は大きいといえるでしょう。アデルは人間のさまざまな姿態や動物・鳥などの生き物だけでなく、連続した幾何学文様や乗り物、そして意味のこめられたテキストなど多数のドローイングを描いています。紙の端っこにメモ書きされた文章からそのときのアーティストの心情が汲み取れる作品もあります。

“From Here to Eternity”2015, 紙に木炭, 42 x 59 cm

今回出品されているドローイングの中でも《From Here to Eternity》には人間の身体性が強く表現されています。有名なルネ・マグリットの《恋人たち》ヒントを得たのでしょうか。

“Trabajo” 59 x 42cm 紙に木炭 2015

また、“Trabajo”(労働)と題されたドローイングには、社会の底辺の人々をみつめるアーティストの鋭いまなざしが現れているようです。アデルによれば、彼らが箒ではいているものは何か、歴史の中で否定されたり忘れられたりして埋没してしまった記憶の断片を拾い集めているのだといいます。白い紙の上にチョークで描かれた人物像は、拡張された作家の手わざを感じさせます。

ドローイングは作品として鑑賞されるだけでなく、一枚のプランから規模の大きいインスタレーション作品が生まれる可能性を秘めています。アデルがこれまでに発表した”Décor”,“Coup de Tete”, “Cri”といった作品にもそれぞれドローイングが残されています。

“Play it again”2019, 紙に木炭, 42 x 29.7cm (表側)

“Play it again”2019, 紙に木炭, 42 x 29.7 cm (裏側)

2021年に開催が延期された いちはらアートxミックス2020。※2 アデルはこの芸術祭の招待作家の中でも最も注目されていて、古いピアノを使ったインスタレーションを発表します。芸術祭の起点となる五井駅の歩道橋にアップライトピアノが吊るされ、映画カサブランカにヒントを得たジャズの新曲が自動演奏で道ゆく人を芸術祭へと誘います。既にピアノは現地に運ばれ、来春の出番まで保管されているそうです。

2018年の妻有トリエンナーレでも竹藪という環境に合わせた尺八の音が流れる作品でしたが、今回は都市を意識した軽やかなジャズをイメージしています。いちはらの晴れた空の下、どのような作品が生まれるか、どうぞご期待ください。

■房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2020

延期後の開催日程:
2021年3月20日(土)~5月16日(日) 58日間

開催エリア:
千葉県市原市
小湊鉄道を軸とした周辺エリア
五井、牛久、高滝、平三、里見、月崎・田淵、月出、白鳥、養老渓谷

※1Adel Abdessemed 2015 Koenig Books p.102

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