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元田久治:CARS展 作家に訊く

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元田久治:CARS展 作家に訊く

2022年6月24日(金)ー7月17日(日)

現在アートフロントギャラリーで開催中の《元田久治:CARS展》は、これまで廃墟画シリーズを手掛けてきた作家にとっての新たなチャレンジとなっています。モチーフをミニカーにしたきっかけは何だったのか、版画の境界を拡げていく原動力となったのはどのような興味であるのか、制作背景とともに作家に語っていただきました。

日程 2022年6月24日(金)ー7月17日(日)
営業時間 Wed. - Fri. 12:00 - 19:00 / Sat. Sun. 11:00 - 17:00
closed Mondays and Tuesdays
在廊日 7月13日(水)12-17h
ギャラリー(G):アートフロントギャラリーでは5年ぶりの開催となる、元田久治さんの個展開催にあたり、今回のコンセプトや制作背景について元田さんに語っていただきます。元田さんは廃墟画で知られていますが、今回はミニカーという新たなモチーフを中心に据えています。まずはミニカーに着目されたきっかけからお話いただけますか?
元田:ミニカーの前の廃墟のシリーズは2004年ごろから描いていたのですが、一昨年ごろに目をつけたミニカーがありまして、コロナで家にいることが多くなり、うちの5歳の息子と一緒に遊んでいる間に着想を得たのがきっかけです。
廃墟シリーズのコンセプトが、実際にある風景を風化させる、フィクション化させるというテーマであったんですが、オモチャでも何かできないかと考えていたんです。オモチャそのものをどうしてよいかわからずにいる中で、オモチャ自体がある意味、何かに「見立てられている」ものだと気づき、例えばぬいぐるみは動物に、ミニカーは車に見立てられている。それらはある意味フィクションです。それを逆に現実のものにシフトしたらどうなるんだろう、それが最初にミニカーをとりあげることになったきっかけでした。

CARS: Pedestrian Crossing 2022 panel, linen, mixed media

廃墟は現実のものをフィクション化する、オモチャはフィクションを現実化する、方向は違うんですけれどもやっていることはそんなに変わらない、ということで制作を始めました。最初につくったのがGの部屋にある版画作品です。そのときはオモチャを現実の乗用車に見立ててつくっていたんですけれども、一方でタブロー、ペインティングにしてみたいという意識はありまして、それを現実に置きかえようとするときに、これ(ダイヤモンドの周りの車を指さし)を現実に落とし込むのは無理があると思いまして、「オモチャはオモチャとして見せたらどうだ」という(笑)気持ちになり、ということで思いついたのが、現実の道路上の白線、これはダイヤモンド型で横断歩道の前にあるものですが、これも実寸で入れて、現実は現実のミニカーで入れて、横断歩道も実際のサイズで入れているんです。この横断歩道がない(ミニカーだけの)状態では、何が何だかよくわからない、という状況がありましたが、見る人にとっては現実のものがあった方がわかりやすいのではと思ったのです。

Foresight : Hakozaki JCT 20109 lithograph 8/10 image size: 690 x 930 frame size: 910 x 1145 x 38mm

G:元田さんはよく、「フィクションを表現するために写実を描く」ということがあるわけですが、廃墟画シリーズが俯瞰というか「神の視点」で描かれているのに対し、このシーン(横断歩道)においては大量のミニカーを道路上にぶちまけたような構図で、横断歩道もミニカーもリアルなスケール感になっている。しかもドローンで撮ったような視点であることも、そこに1つ縛りを加えたのではないかと思うのですが、どうでしょうか。今回、廃墟画とは違うスケールや視点で統一するということに至った経緯をお聞かせいただけますか。

M:確かに、今までは真上から撮るような構図というのはそんなになくて、ペインティングの構図というのはやはり少し角度をつけていました。今回描いているミニカーでも、実際にはちょっとだけ斜めになっていたりもするのですが、一貫して俯瞰している。廃墟シリーズでのパースの付け方とは違って、実際にミニカーを床において上から撮ったものを何枚も何枚も組み合わせて構成しています。最近はドローンで撮影された映像をTV、ニュースでよく目にします。俯瞰の構図は一般の人々にとって特別なものではないのかもしれません。

G:確かにミニカーが実際の地面の上に、タイヤで踏ん張って頑張っている感がありますね。
ダイヤモンドマークの作品の方は、一見するとかなり縦に長いプロポーションになっている。こちらの作品についてもご説明をいただけますか?
M:横断歩道とダイヤモンドの2作品では、構成がかなり違っています。ダイヤモンドの方は結構整然と、駐車場のイメージで並ばせています。一部不規則にはなっていますが、これは最初に作った版画作品のときの配置を汲んでいる流れです。なので無理なく配置できているのですが、こちらの横断歩道は渋谷のスクランブル交差点をイメージしているので、大変です(笑)。初めの構想では、上部の帯部分を結構整然と並べようと思っていたのですが、制作を進めるうちにもっと混乱させようとか、中央部分にいくにしたがってもっといろいろと考え、混乱させようとしていきました。

CARS: White Line 2022 Japanese paper, panel, mixed media

G:それは一つのストーリーを意識したのか、それとも何か美的な構造を意識しての判断だったのでしょうか?だんだん崩壊していくような・・・
M:そうですね、版画の制作というものは、そもそも完成したイメージを明確化してから始めるものなんです。それに向かって制作を進めていく感じです。それに比べて、こちらの作品は、そうではなくて完成イメージがない、見切り発車で始めました。たとえば、パネルの構成にしても、現在の完成形では10枚のパネルから構成されているのですが、初めはこの下の方の3つから始めました。でもそれでは考えているイメージが表現しきれない、それで横に長くして、左右に2パネルを足し、それでも足りないのでさらに下にも足したんです。それでやっと全体感が出せるようになった感じです。
画面上部を覆うように影がみえますね。これは画面中央に光が射している箇所との対比の構図になっています。この様な構成になるまで結構時間がかかりました。車自体も何か生き物のような意識で描いています。
《White Line 》の作品においても、白い線を入れることでかえって非現実感が増すところはありますね。

Indication: Tokyo Station 2007 lithograph, ink, framed edition: a.p. image size: 850 x 1713, frame size: 1198 x 2040mm

G: これまでの廃墟画に比べると、挿し色というか、ちょっとポップな色づかいもありますね。色彩に関して特に意識はされたのでしょうか?
M:廃墟シリーズの東京駅の作品などは赤い色が象徴的に入れてあるのですが、今回の作品では、「オモチャ」を意識して人工的な色味を使っています。構成全体の中では挿し色というか、色の幅を持たせています。これも結構、今までにはなかったプロセスですね。

CARS: Manhole 2022 Japanese paper, mixed media 930 x 700 x 35

G:もう一点、丸い作品があるのですが、マンホールといってもいろいろに見立てられますね。
M:(勤務している)大学に、マンホールがいっぱいあるんですよ。これも原寸大のサイズです。これは和紙に描いているのですが、実は厚手の和紙の質感が、道路の質感に近いことがわかったんです。ミニカーはご覧のように貼っているんですけれども、ミニカーを刷る紙にしても、折り紙、油紙、あと包装紙とかいろいろです。普段版画で使わないものを採用しています。描画する上でミニカーの影も描くのですが、版画で刷ったものをコラージュする際に厚みを付けて、実際のモノの影も描画と共に共存させています。
先ほど、コロナ禍でこどもとミニカーで遊んだといったのですが、他にも家にあるダンボールでトラック、バイク、救急車などをつくっていたんです。その流れもあって、何処にでもあるような麻布を支持体にしていたり、素材の制約はとっぱらっていろいろやってみたところはあります。普段、絵画を制作する時はとかく身構えてしまうところがあるんですけども、「版画でできること」を割り切って絵画空間、素材感の強い支持体にうまくのせることが出来た事が今回の収穫だと思います。

G:制作背景を伺うと作品の見え方も違ってきます。ありがとうございました。
7月17日まで開催中、7/13 (水)は作家も在廊しております(12-17h)。皆さまのご来廊をお待ち申し上げています。

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