プロジェクトProject

dialogue: カネコタカナオ 作品解説  2017/3/2
カネコタカナオ「時間の在処 1955」2017年 110 x 155mm 水性ペン、封筒

  • dialogue: カネコタカナオ 作品解説  2017/3/2

サムネイルをクリックすると、拡大表示します。

dialogue: カネコタカナオ 作品解説  2017/3/2

現在、開催中のカネコタカナオの個展では、紙にペンで描くモノクロのイラストレーションをベースとしながら多様な展開を匂わす作品群で構成されています。

特に印象的な「RC X断線」(2016年、h100×w72㎝)は変形のボードにラジコンのコントローラーがはめ込まれており、画面上ではそれを切り裂くように幾何学模様とイラストレーションが交錯します。断片的に描かれているイラストレーションからは漫画、アニメーション、風刺画といった要素を想起させるが、具体的な何かを指し示すものではないようです。どこか懐かしく感じるのは作者自身が田河水泡『のらくろ』に始まり1980年代のくらいまでの漫画に強い愛情と憧れを抱いていることと無関係ではないのでしょう。

しかし一方でモノクロであることに加えてシャープな幾何学模様、メディウムを用いて施された画面の質感、イラストレーションの明快さと対をなすように不明確な要素があることから不穏な空気にあふれている画面ともいうことができます。作家の問題意識として現在の私たちの生活にあふれる情報とそれによってコントロール不能に陥る状況をあぶりだすためのバランスがあります。

カネコの興味深い点に漫画に関心を抱く一方でストーリーには特に注意を払わないという点があります。これまでも自身のイラストで漫画をつくらないか、というような話はあったそうですが、あまり興味を持たないということでした。


『時間の在処』シリーズでは古い使用済みの封筒に文字通り落書きするようにイラストを施した作品ですが、封筒にある要素(国や消印の時期)などから着想しながらイメージを膨らませたものです。例えば『時間の在処1955』はデンマークの切手だったということと、1955年はアインシュタインが亡くなった年でもあったということからノーベル賞といった要素がでてきていることがわかりますが、全体としては何かしらの物語を語るものではありません。作品において文化的な要素を集積させながら自分なりのセンスを示す、という姿勢に世代としてなのか現代的な姿勢があるといえるように思われます。

イラストレーションだけで表現しようとするのでもなく、コントローラーに始まり、封筒やタイプライター、キーボード等、自分たちの世界にあふれる要素から何を抽出し、どう組み合わせるかという点に関心が強いことを思うと、今後、どう展開していくのかが楽しみな作家です。
ぜひこの機会に実作品をご覧ください。

トップに戻る