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[インタビュー] 春原直人:日本画大賞展と新たなる挑戦
《蒼連》部分

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[インタビュー] 春原直人:日本画大賞展と新たなる挑戦

ギャラリー

6月上旬に上野の森美術館で開催された第8回東山魁夷記念日経日本画大賞展。日本画界隈において大きな影響力のある公募展の一つである本展に推薦され見事に入選された作家・春原直人にインタビューをおこないました。

《蒼連》2018年 2000×6000㎜ 和紙、岩絵具、墨 第8回東山魁夷記念日経日本画大賞展出品作品


ギャラリスト(以降G):入選おめでとうございます。今回推薦された作家の中では最年少での入選もすごいことですね。この展覧会は40代前後の中堅作家を対象にして来た経緯がありますが、近年は若手の発掘にも力を入れているようですね。日本画というとどうしても伝統的とか、ともすれば現代美術に比べて古いという印象を持つ人もいます。

春原さんの作品は、一見すると、オーソドックスな日本画でその雰囲気はどこぞの大物日本画家が描いた作品の様にも見えますが、一方全く違う見え方をするものもありますね。例えば、つい先日のVOCA展2021にて発表された作品《Underneath》は、少し詰まった画面の中に麓から見た山を描いたともとらえられますが、真っ黒の画面の中に走る余白部分は、まるでストリートでよく見る”tagging”のようにも見えました。又、日経の会期中には、入選作家らが同じく入選作家の三瀬夏之助さんの声がけのもとに、普段描いている日本画ではなくパフォーマンスにおいて表現を披露したと伺っています。

今回の入選をきっかけに作品が「日本画」としてある評価を受けましたが、その点についてどのように感じているのでしょうか?また「日本画」という存在を若い作家がどのようにとらえているのか、いくつか気になることを聞いていきたいと思います。


「日本画」という存在

《Underneath》2021年 2500 x 3990 mm 和紙、岩絵具、墨 VOCA展2021現代美術の展望─新しい平面の作家たち─出品作品


Q1. ご自身にとって日本画とはどんなものですか?どのように認識していますか?

春原(以降S):
日本画という言葉自体、明治に油絵が入ってきて生まれた言葉というふうに理解しています。その言葉を作った当時の岡倉天心やフェノロサは何を持って「日本」の絵を残したかったのか、「日本」の絵とはなんなのか、明確な答えは未だに出ていませんし、断言するのもどこか違う気がします。しかし、その問いそのものが、日本画ないしは、日本を捉えることになるのだと思っています。


Q2. 現在の自分の仕事と従来の日本画との関係性はどのようなものですか?

S: 日本画という言葉が生まれたのも「西洋に負けない絵画」というものを目指していたからかもしれません。また同時に日本とは何かという問いもあったはずです。しかしその中で日本画とはなんだったのかという明確な定義は素材の違いの他に語られることが少なかったと理解しています。

しかし「日本画」は今日まで大学教育であったり、アートのジャンルとして残り続けています。そういった現象に少し疑問を感じてしまうのです。和紙に岩絵具で描いたものが日本画なのでしょうか。日本とは何か、日本の絵とはなんなのか。それを問い続けることが必要であると考える一方で、「日本画」というくくりの中での絵画を描いているつもりはないです。そいった意味で僕は「日本画家」ではないのだと思います。


山、世界と自分自身の体験

制作風景 photo by 吉木綾


Q3. 現在の技法を選んだきっかけは何ですか?

S : 現在の技法のきっかけは「山」というものを考えていく中で生まれました。僕の作品は絵画空間や構図も大切ですが、それよりもむしろ鑑賞者が作品と対峙した時に直接的な体験があることを狙っています。つまり画面の中に小さい山を出現させたいという思いがありました。そのために物質感の強い岩絵具を使ってきましたし、雨風に削られて山の形ができるようにお湯で流したりといった技法につながっていきました。


Q4 今後はどのように展開していこうと考えていますか?

S: 自分は「山」を主題にこれまで作品を制作してきましたが、単純に「山を描いている」ということに違和感を覚えるようになりました。一言で片付けられるものでもないし、おそらく言葉と作品が持つ意味の間にズレが生じてきているのだと思います。より色々な角度から山、ひいては世界と自分自身の体験を結びつけるような作品作りを模索する必要があるのだと思っています。

取材風景(北岳登山) photo by 關越河


新しい表現


Q6. 今取り組んでいる新しいことがあれば教えて下さい。

S: 直近だと立体作品です。登山時の自分の歩いた軌跡を記録して、3Dに出力するといったものです。この作品は登山という行為を見直すものでもあります。山に登って絵を描くというのはこれまでも多くの画家たちがやっていたことですが、現代において登山で新しい表現ができないかという試みでもあります。

また絵画表現について、今後違う素材で描くことがあるかもしれません。鑑賞者と作品の直接的な結びつきは、その場に立って初めて成立しますが、コロナ以降そもそもその現場に立つことができなくなり、端末上でイメージと対峙する機会が増えました。どちらにも利点があることは承知していますが、直接的な体験のアプローチを考える上で、素材は考えざるを得ません。今までのやり方をカナグリ捨てるのではなく、シリーズ化して実験的に行いたいと考えています。

G: ありがとうございました。今後の展開がさらに楽しみです。

6月25日よりスタートしたアートフロントギャラリーでの個展「Fragments from Scaling Mountain」では、最新作16点を含む約20点を発表しており、会期中盤では、新しい取り組みとなる立体作品も追加展示されます。是非、作品の前に立って作品と直接対峙してみてください。写真では伝え切れない迫力と輝きを感じて頂けます。
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