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【インタビュー】アルフレド&イザベル・アキリザン:Home / Return 2019_vol.1
アルフレド&イザベル・アキリザン:Home / Return 2019, アートフロントギャラリー

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【インタビュー】アルフレド&イザベル・アキリザン:Home / Return 2019_vol.1

5年ぶりとなるアートフロントギャラリーでのアキリザン夫妻の個展は、彼らを待っていた多くの日本の友達に囲まれたオープニングで幕をあけた。今の心境はと尋ねられて、イザベルは開口一番「コンバンワ。又ここに帰ってくることができて嬉しい。もはや日本は私たちにとって第二の故郷なんです」と挨拶した。

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彼等の作品は、移動・旅・帰郷といった人々の動きをテーマにしたものが多い。ダンボールでつくったパーツを集積して家・船・都市などを形づくるが、今回初めてホームカミングを中心テーマにした展示を行った (image1)。というのも、2015年に東京都現代美術館で地域の子供たちと一緒にワークショップで自分の好きな家を造ってもらい、それらを多数組みあげてタワーを林立させた。その一部が会期終了後タイペイ、フィリピンと旅をし、今回再び東京に戻ってきたという展示構成になっており、そのタイトルが「Home / Return」になっているからだ。

アルフレドによれば、
「これらの眼にみえるものの背後には我々がいつも大切にしているengagement=関与というコンセプトが空間、素材、そして協働して作品をつくる人々の関与があって初めて作品は成り立つし、またより意味深いものとなる。」という。
「空間に立ち現れるのは、語り、或いは過去に描いたヴィジョンの記録といえる。現美での展示のあと、我々がいつもやるように作品の一部を別の国にもっていってまた日本に戻した。それを目撃した人は、きっと過去の記憶を思い出し、何か自分の家族と繋がる何かを感じるのではないかと思う。」

実際、人やモノの移動に注目してきたアキリザンのProject Another Country はこの10年以上にわたって展開している重要なシリーズだ。最初に手がけたのは2006年、7人家族のアキリザンがフィリピンからオーストラリアのブリスベーンに移住した年である。移住にも使われたダンボールのインスタレーションを通して、アキリザンは様々なコミュニティと繋がってその地域にしか成り立ち得ない作品を作り出している。

最近のアキリザンの作品からいくつかセレクトしてみよう。

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アルフレド&イザベル・アキリザン:
「我々がいつも最初にやることは、まず街のリサーチをして、その場所で何ができるかを考える。こういう方法はどの場所でもあてはまるが、今年ニュージーランドのオークランドで発表した作品は、街中にあふれているホームレスの人々をフィーチャーしたものだ。彼等はいろいろなところから移住してくるが、住む家がないのでダンボールの家に住んでいる。そんな姿を表現するため、美術館の一室を開放して人々にダンボールの家をつくってもらい、それを構成して船による「屋根」をとりつけた作品で、約1年のプロセスだった。」

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「昨年中国の成都でやった展覧会。ダンボールを使って大きな都市、コスモポリスを表現。パリのポンピドーセンターが企画に関わった。ダンボールという素材を使うことで、「移動」というメタファーがこめられている。」

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「こちらの作品では、ダンボールになる前のパルプの状態を使ってスクリーンプリントを制作した。これが実現できたのは、シンガポールのSTPIという世界中のアーティストを招待するレジデンスプログラムをもっているスタジオの、技術者たちのおかげだ。中でも、日本の技術者たちがとても有能で協力的だったのを覚えている。素材が本来持っている姿(ダンボール)とそれがどのように形を変えうるか(プリント)に興味をもっていて、ダンボールをプレスしてそれを版として製作した作品がこれだ。」

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「この作品は2016年の瀬戸内国際芸術祭の参加作品で、伊吹島の使われなくなった保育園の園庭につくられた。そもそも伊吹島はいりこにする小さい魚が捕れるのが有名で、技術革新でいらなくなった魚を干すための網が港に捨ててあるのをみて、これらを集めてパラボラアンテナにした。作品が設置された場所にも意味があり、かつての保育園はいまや一人もこどもがいなくなったこの島で廃園になった。またインスタレーションに見える名札は、この場所でよく集まっていた漁師さんたちの屋号だ。」

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「これは2014年の市原湖畔美術館での展示で、アートミックスの参加作品。アートミックスでは2017年にも参加し、湖に浮かぶ船を製作した。展示空間は外へと広がっている。」

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「2013年には金沢21世紀美術館で個展を開いた。金沢でもバジャという人々のくらしをテーマにした作品で、インドネシア、マレーシア、ボルネオ島の人々が国境によって自由に船で行き来できなくなってしまった社会問題をとらえている。そもそも彼等の子供たちが路上でラップをうたってはお金を稼ぐ姿をみてこのシリーズが始まったのだが、海の民族Sea Peopleの都市が浮かぶようなイメージでインスタレーションをつくった。また、美術館のある金沢のこどもたちとのワークショップを中心に展開し、アジアを代表するアーティストとして世界に向けこの作品を発信した。」

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「これはブリスベーンに移り住んで数年たった2010年にアジアパシフィックトリエンナーレに招待されてつくったもの。地域の人々に自分たちのものをもってきてもらうというのが参加型の方法でそれらを一つのものに組み上げられることを実現したかった。お互いに手を動かす協働の中で関係性をつくりあげていくことが示せたと思う。」





移動をテーマにしたアキリザンの一貫した制作姿勢は様々なバリエーションに展開していく。次々と新しいコミュニティに向き合い、その場にしか成り立ち得ない関係性をはぐくむことによって、コミュニティ自身がもっている共同の記憶を引き出すような大型のインスタレーションを発表してきた。それらはしばしばアーティスト自身の経験にも基づいているが、同時に国境を越えたコミュニケーションの場となっている。できあがった作品の姿はあくまで結果に過ぎず、そのプロセスを通じて築かれた関係性、作品への関与が他のダンボールアートとの大きな違いである。


アルフレド&イザベル・アキリザン:Home / Return 2019
2019年6月19日(水) - 8 月 4 日(日)

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