アルフレド&イサベル・アキリザンと、《住む:プロジェクトーもう一つの国》のためのワークショップを江東区の公立小学校で行ったのはちょうど4年前。ダンボールを素材に、自分にとっての「理想の家」を手の平サイズに作るというもの。こどもにもダンボールはモノとしての馴染みはあるが、素材としては素朴で、思い描く家を作るのは容易ではない。こどもの年齢によっても感じる制限の性質や度合いが異なる。数日間続いたワークショップで、アルフレドは言葉少なめに彼らと黙々と手を動かし、イザベルは積極的に声をかけてコミュニケーションを引き出すムードメーカーとして動き回っていた。二人の方法は違うが、共に相手を観察し、寄り添い安心させ、後押しする。素材が課す制限を、想像し工夫する力の源と変換してみせる二人と、それに呼応するこどもたちの手の動きを見ているのはすばらしい経験であった。
そうやってできた家々を、今度は二人が展示室いっぱいのインスタレーションにまとめあげてゆく。個々を小さなユニットに、それらをさらに大きなアセンブリーへと組み合わせ、まるで立体的な絵を描くように全体と細部を調整し、空間の中に立ち上がるひとつの街へと仕立ててゆく――。そんな絶妙なバランスがとれた二人の仕事ぶりを見ながら、出会うあらゆるものを媒介してゆく彼らの力について考えさせられた。人、モノ、そして社会的・物理的空間、またそこに内在する不可視的な要素――人々の感情や記憶、モノや空間の背景にあるシステムや関係性など――に強引に介入することなく、またそれらに完全にゆだねることもなく、はざまに介在する過程で結び目を作りながら、あるまとまりと調和を指向してゆく。その力は、彼らがオーストラリアに移住し、長年各国でアーティストとして活動しながら得た経験からだけではなく、文化的差異を内包するフィリピンという国家で生まれ育った中で身につけてきた力ではないだろうか。
さて、4年前にこどもたちの手で作られた家々はその後、アルフレドとイザベルと共に台北やフィリピンへと旅し、このたび東京へと帰還するらしい。旅の途中でさまざまな変化を遂げた家々に、二人はどのような「ホームカミング」をもたらすのだろうか。
崔敬華(東京都現代美術館学芸員)
新作《Habitat》2019(部分)
2014年、2015年の日本での活動や滞在制作の様子は過去の展覧会ページにて、インタビュー形式で紹介しています。こちらもあわせてご覧ください。アルフレド&イサベル・アキリザン インタビュー(2014)
アルフレド&イザベル・アキリザン:Home / Return 20192019年6月19日(水) - 8 月 4 日(日)