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レアンドロ・エルリッヒ最新作「インフィニット・ステアケース」が遂に完成!!
ギャラリー
今年5月、新型コロナウイルスの影響により、緊急事態宣言が発令され途中制作が中断し竣工が遅れましたが7月23日より現代アート美術館KAMU kanazawaにて、レアンドロエルリッヒの最新作が公開されました。美術手帳やCasa Brutusでも紹介されている話題の作品です。

《INFINITE STAIRCASE》 at KAMU kanazawa ©️Leandro Erlich Photo by Yasushi Ichikawa
本作は、螺旋階段を横倒しにしたような造形の作品で、鑑賞者が作品のなかに入って楽しんでもらう体験型のインスタレーション作品である。
レアンドロの作品を目の当たりにすると、私たちはいつも自らの無意識の中にある先入観に気づかされる。そして、その作品の中に入ると、当たり前と思いこんでいる概念に困惑させられる。この最新作《INFINITE STAIRCASE》は、「階段」というその機能性を失っているのだ。
「エルリッヒが得意とする、現実と錯覚の世界を誰もが体験することができる。」
(美術手帖/NEWS / EXHIBITION, 2020.7.21)
「観客が内部に入ることで空間の位相が逆転したような不思議な感覚に陥る作品だ。」
(Casa Burutus/July 21, 2020)

《INFINITE STAIRCASE》レアンドロ・エルリッヒ at KAMU Kanazawa
――数あるレアンドロのステアケースの中でも今回のインフィニット・ステアケースは通常のステアケースと違い、新たに鏡の効果を追加するなど、史上最も素晴らしい作品かもしれない――
階段のシリーズは2005年に始まり、2014年の金沢21世紀美術館での日本初個展の時にも展示された。当時美術館には既に開館記念として収蔵され常設となっていた作品「スイミングプール」があり、「階段(ステアケース)」を含む代表作を加えて個展を開催した。

「Swimming Pool」レアンドロ・エルリッヒ金沢21世紀美術館
2014年にはこの金沢21世紀美術館での個展と同時に東京のアートフロントでも「Fragments of Illusion」という名で個展が開催された。そして、その東京の展示の為にもう一つのステアケース2014が制作されたのだ。それは、金沢のインスタレーションをもとにサイズを縮小し、ギャラリースペースの一角で紹介された。このステアケースは非常口のサインボックスの中に横倒しの階段が配されたもので、2020年にKAMUKanazawaでも新型コロナウイルスの影響で完成が遅れた実作品の代わりに展示された作品だ。

《階段》レアンドロ・エルリッヒ サイン、鉄、タイル、木 2014
個展 Fragments of Illusion(2014)および、Art Front Selection autumn(2020)に展示
レアンドロによるとステアケースのシリーズは東京のデパートで思いついたという。レアンドロはJapantimesで以下のように話している
「ステアケース(階段)は2つの場所を結びつけることの象徴だ。でも、もし階段がその機能を失ったらどう変わるだろうか?」
これが、ステアケースという作品の始まりでした。
では、何がインフィニット・ステアケース(2020)にとって特筆すべき違いだろうか。

「上昇と下降」マウリッツ・エッシャー
今回作品を設置した美術館KAMU kanazawaでは、施設上、過去の他のステアケースと違い、展示スペースに限りがあった。そこでレアンドロは鏡のアイディアを用い、小さな実際の空間に広がりを与えようと試みたのだ。結果この実験的なステアケースは最も完成されたシリーズ作品であり、レオナルド・ダ・ヴィンチやウリポ(制限を利用して想像力を生み出すフランス語を使う小説家の団体)の手法のもう一つの実例といえる。
今作のレアンドロの階段は構造上、両面に階段が配され、鏡を加え増幅された空間を作ったことで、その無限の連続性はまるでM.C.エッシャーの“上昇と下降”(ペンローズの三角形)を想起させる。ペンローズの三角形は立体的に不可能なオブジェクトであるが、エッシャーは絵画を通してループする様子を用いて不思議な迷路空間を成立させている。これに対しレアンドロは鏡を用いて違った意味で空間をループさせている。永遠に続く階段を体験してみてほしい。

《INFINITE STAIRCASE》KAMU kanazawa 制作風景
制作過程では、不可能な螺旋を現実化する工程は非常に困難を極めた。まず、今回はこれまでと違い両面に階段が必要となった。また、螺旋の構造は3次局面が多用され手すりや階段の形状は計算で出しづらい角度を繰り返した。何度も計算と打ち合わせを重ね試行が繰り返されたが、思うように精度があがらず、最後は職人の手による技と勘にゆだねられた。こうして出来上がったステアケースは恐らく、これまでのレアンドロの作品の中でもトップクラスの作品に仕上がっているだろう。

《INFINITE STAIRCASE》レアンドロ・エルリッヒ at KAMU Kanazawa、2020
見る人が床の上に垂直に立って目の前の階段を覗き込むと、まるで自分が吹き抜け空間を真上から覗いて、真っ逆さまに落ちるような気がするだろう。レアンドロの作品によくあることだが、建築構造を使って日常の何気ないシーンを分析し、観ることと体感することの間に錯覚を生じさせる。ただし、これまで述べてきたように「無限の階段」はその次のステップを誘発し、この体験によって我々は「ノーマル」、即ち「普通」とは何かを問いかけ、我々の頭の中で知覚とそれを形作る文化の意味を改めて考えさせられるのである。

この新作を心待ちにしていた人々にとって、KAMU kanazawa を訪ねてみるのは絶好の機会となるだろう。金沢21世紀美術館からわずか3分のところにあり、しかも我々の思考を分解する、新たな体験を提供してくれるからだ。
さらに足を延ばしてアートフロントギャラリーを訪れれば、階段シリーズの歴史を見ることができるし、以前の作品と最新作のインスタレーションとを見比べることもできる。アーティストとその作品がどのように成長していくか、次々と展開していく様子を追っていくのは非常にエキサイティングなことである。
【特別インタビュー】
考え、目を見開き続けよう――コロナ禍の世界でアートの可能性を問う レアンドロ・エルリッヒ インタビュー
【展覧会】
Art Front Selection 2020 autumn
2020/9/11 - 10/11
レアンドロ・エルリッヒ《階段》2014 を展示しています。
アーティスト
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