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dialogue : 中岡真珠美インタビュー前半 2017/3/10
Building Blocks – crossink 1-3 floor (detail)

  • dialogue : 中岡真珠美インタビュー前半 2017/3/10

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dialogue : 中岡真珠美インタビュー前半 2017/3/10

中岡真珠美 - Building Blocks
展覧会初日、作家にインタビュー形式のアーティストトークを行いました。
今回のインタビューでは、2016年に1年間タイ、チェンマイの大学で講師として滞在制作した体験についてや、新しい試みについて語っていただきました。

■タイでの特別講師--日本人画家として、輪郭と支持体の追及

<AFG>今回の展覧会は、中岡さんが2015年の10月から1年間、タイのチェンマイ大学で特別講師としての滞在を経て制作された新作を展示していますが、一見してこれまでの作風からの大きな変化を感じます。タイでの滞在は中岡さんの制作にどのような影響を与えましたか。

<中岡>私は現地で講師として生徒や同僚、現地の作家等と自分の作品について話すとき、まず自分がアジア人、日本人と意識することがすごくたくさんあったんですね。これは今までも何となくは認識してはいたのだけど、実際体感してみるととても強い感覚でした。
アジアだけでも膨大な数のアーティストが存在する中で自分の作品を説明したり主張したり、作家としての存在価値を説明するには、自分のアイデンティティとして、自分はアジア人である・日本人であるということをベースに入れ込まないと成り立たないな、と身に染みて感じたのです。

<AFG>実際にご自身の作品を説明されるときは、どのように言われていたのですか。また、現地で教え、制作するなかで、どのような試みをされましたか。

<中岡>風景画をベースとして描いているときのキーワードとして、日本人の絵画の歴史の中における私のキーポイントを3つあげて、中庸=ニュートラル、輪郭、融合、つまり対極にあるものを混ぜちゃうことがあり、それらをベースにしています、という説明をしていました。その3つの中でもタイでは輪郭ということに重きをおいて制作をしていました。1年間の滞在において、輪郭についての試行錯誤を行い、表現方法をあれこれ追求したのと、支持体をこれまでのキャンバスや紙といったものに描いていたのですが、それ以外にも挑戦してみようと思い、日用品に描いてみても絵画として成り立つのではないかと思い、支持体を広げるという挑戦もしていました。ちょっと主張のある支持体を使ってみたところ、支持体の方が絵画空間に進出してくるなーと感じました。そして支持体を抑え込むのではなく、それを取り出して制作してみるのも楽しいなと感じました。今回の展示をみますと、キャンバスもありますがそれ以外の支持体もあります。

<AFG>今回の新作は様々な描き方、支持体はあれど、すべて共通のモチーフを使用しているのですよね。

<中岡>5階建てぐらいのアパートの解体工事が共通のモチーフになっています。モチーフは同じでも、支持体によって全然違う作品になりうることを今回見せたいと思いました。画面がどう違うかを見せるために、余白の在り方、余白の表現方法を違うようにしてみました。

向こうにあるスケッチ(Sketch – at Siri Rd. 1 - #1-10)は縦長なのですが、このスペースの作品(Building Blocks – crossink 1-3 floor)はそれを横向きにトレースしてそれをコピーしたものをコラージュする、という方法でつくりました。これはコピー紙なんですが、これの元になっているのはトレーシングペーパーです。

【画像:Building Blocks – crossink 1-3 floorの全体】

【画像:Sketch at Siri Rd.1のインスタレーションビュー】

トレーシングペーパーは透けるという特性を持っているので、折って透けるイメージは
黒の向こう側がだんだんグレーになっていったり、場所によってはっきりしていたり曖昧だったりと、トレーシングペーパーを使うことによってこのような表現方法が可能になりました。線が面になっていくというプロセスを見せています。

【画像:Building Blocks – crossink 1-3 floorのディティール】

キャンバスの作品については、これまでの作品にように余白を見せるために構成しているという点で、共通しています。これと反対なのがこの織物の作品(Building Blocks – blue / yellow / intersection -)です。
この作品に関しては、既に地の部分がラグの色がついている。その上にペイントするということは、既に何等か主張のある余白の上に成り立つものですが、こちら左の余白は描かれた図によって影響される余白で、織物の方は描いている方の図が、余白である地の部分に影響される、描くものによって影響されるのか、余白によって描くものが影響されるのか、逆の関係になっています。



【画像:Building Blocks – blue / yellow / intersection -】

【画像:Building Blocks – blue / yellow / intersection -(detail)】


【画像:Building Blocks – stripe】

これ(Building Blocks – stripe)はゾウの糞の再生紙でできた紙を使っています。余白がまわりにあります。解体と再生、というのが現場のモチーフですが、きっかけは余白というよりも、この紙自体の解体と再生が重なっていたことです。それが面白い関係性だと思ったので、この紙を使って作品をつくりたいと思ったわけです。
この作品の余白に関しては、まずフレームへの考え方がありました。作品のフレームというのは絵画の四辺を制圧するというかここまでが絵ですという境界を主張するのがフレームと思っていたし、今も思っているんです。従ってあまりフレームを使いたくない、と思っていました。そこで今回この再生紙という異素材を使うときに、いっそのこと絵画の中にこれはこれ、あれはあれという境界をひいてしまうことにしました。モノに対する境界があってここで終わりとわざわざ終わらせられると、フレームを絵にしてそれぞれがA世界、B世界、C世界と分断させることでかえってそこにつながりがあるんじゃないかと想像させる試みです。かえってこの絵の中の共通項を探ってもらえないか、と思いました。


私は、絵に額をつけることに抵抗があったのですが、チェンマイの個展でどうしても額装にむきあわなきゃいけないことになったのです。チェンマイのそのギャラリーは温度湿度が外と同じで、そんな過酷な環境の中1ヶ月も紙の作品を展示するには額装は必須と言われたんです。当初乗り気ではなかったものの、展示を1ヶ月持続させるには確かに日本と同じようにしていては無理なのはわかりました。
そこで私はどうやったら納得のいく額の使い方が出来るだろうと考えました。



【画像:チェンマイでの額を用いた作品の展示風景】

額装する作品は紙にペンのドローイングでした。それは物質感の問題から描かれている図が強かったのですが、私は白の部分を描きたいことを主張するため紙の縁を残して(象の糞の作品のような縁取り)描いていました。それ(余白が主役)をより強調する為に額を使うのはアリではないかと思い、私は作品の大きさより大分大きいマットを使うことを考えました。そうすることで、より白色が意味を持ってきます。マットの白が画面の白への目線の導入になることを狙ったのです。結果、納得のいく額装の作品となりました。


【Building Blocks展 展示風景の一部】


<中岡>その経験を通して、余白の白への意識を向ける導入としてフレームの要素を取り入れる可能性に着目し、発展させたのが黄色の作品です。(Building Blocks-a white figure / weight of yellow #1, 2, 3)



(インタビュー後半に続く)

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