個展「The garden」 展示風景 アートフロントギャラリー 2021
この展示室は禅寺やお寺の中の空間、お庭など日本のモチーフを現代版にというか自分の中で新しくアレンジするという意味合いのものをつくりました。ウィンドウにも禅寺の丸窓をイメージしたカッティングシート貼り、外から見れば、畳の部屋があって、その向こうに庭が見えるようなイメージです。
ボルダリングホールドとの出会い
ボルダリングホールドは、以前から壁に突起物が付いていて人がそれを登るとか、その行為自体や、壁のあり様とかそういうものがすごく立体として面白いなとずっと思っていました。重力に逆らう行為、壁面をギリギリで登っていくとか重力を感じさせない動きとかそういうものが面白いと感じて作品化したいなとずっと考えていたモチーフです。
その考えが作品になったのは、3年前程前に僕の地元の福井県立美術館で、美術館の所蔵品と現代作家のコラボレーション展に参加した時です。その時収蔵品の中に日本画の屏風作品を見つけました。それはゴツゴツした岩の中を滝が流れる山水画が6つ並んでいる屏風だったのですが、これはボルダリングホールドにできるなと、その滝についている岩を自分のなかでホールドの様に岩の様にすれば現代版の屏風ができるのではないかという発想に至りました。その収蔵品の構図を加工してボルダリングテイストの屏風をつくったのがホールドを題材にした最初の作品になります。
左:角文平《山水図屏風》2018
右:山田介堂ほか《山水図屏風》(右隻のみ)1913~1917 福井県立美術館蔵
「Reborn~未来へのアップデート~II 未来を発明」展 福井県立美術館、2019、photo by 椎野晃史
住空間に壁庭をつくる
屏風の後に制作したのが、今回展示をしている《石庭 #01 》です。
この作品は去年サンワカンパニーというインテリアの会社のアートコンペがありそれをきっかけに制作しました。基本的に僕は立体作家なので床置きの作品が多いのですが、住空間になかなか立体を置くというのは難しいなと思っていたのと、ちょうど壁に付けるオブジェをやりたいと思っていたので、壁に設置する作品を提案しました。
都会の住まいでは、マンションとか一戸建てでもなかなか庭園を持つような人はいないだろうと思い、どうせなら部屋の中に庭園を、空いている壁面に庭を作ろうと。これまで植物などで壁に緑を付けるということは既にやられている事なので、壁に岩を付けて枯山水の庭というものをボルダリングホールドで表現しました。龍安寺石庭という京都の有名なお寺の枯山水の構図を基に制作した「石庭」という作品になります。
《石庭#01》ベニヤ板、鉄、樹脂、キャップボルト 1050x100x4050mm 2020
それを経て、こちらの壁《Floating Island》は、実際にスポーツで登っているボルダリングの壁面を意識した作品です。市販のホールドと自分で作った造形を両方配置して壁面全体を一つの浮島の集まりみたいなもので構成しています。
《Floating Islands #04》ベニヤ板、MDFに塗装、キャップボルト、900x1000x120mm 、2021
家が建ったり、木が立っていたり、人の住居や住まい、自然など、今までもモチーフにしてきたイメージをつかっています。グランドラインに立っていなくて、壁面にかろうじて建っている家のような、そういう人間の住まいや環境というものを今までも作品にしていたので、ボルダリングもちょっとした突起に燕が巣をつくるような家がくっついているというものをやりたくてこういう作品を制作しました。
この画面配置は、建仁寺というお寺に○△□之庭というお庭の配置を意識してつくったインスタレーションになっています。
《Floating Island #04》MDFに塗装、キャップボルト、435x400x60mm、2021
北斎とリンクする 現代版 掛け軸
《下野黒髪山きりふりの滝》 ベニヤ板、MDFに塗装、鉄、キャップボルト、1700x620x100mm、2021
この作品は、現代版の掛け軸というイメージで作りました。モチーフになっている絵は葛飾北斎の「下野黒髪山きりふりの滝」という、浮世絵です。諸国滝めぐりというものの一つなのですが、その構図をボルダリングホールドを使って表現しています。
北斎が描いた、滝があってオレンジっぽい突起の岩がバンバンバンっとあって、滝の水がそこに流れたところに砕けて霧の様に水が広がる地形のイメージが、僕のホールドに対してのイメージとすごくリンクしていたので、これをモチーフにしました。
四角い掘り込みの部分は、浮世絵のタイトルから来たり名前とか落款とかそういうところもディフォルメして表現しています。
善と悪、両方を備えたヒーロー
左:《天燈鬼》ミクストメディア、430x160x160mm、2021
左:《龍燈鬼》ミクストメディア、400x190x80mm、2021
畳を敷いた四畳半の真ん中に、立体作品を設置しています。これは、奈良県興福寺にある天燈鬼・龍燈鬼立像をモチーフにした作品です。興福寺にある作品は肩に燈籠をのせている鬼と、頭の上に燈籠をのせている鬼の木彫です。恐らくその当時はアバンギャルドな作品だったのではないかと思います。
今回クライミングという事もあり、クライマーと言えばスパイダーマンだと思い、現代版のモチーフはスパイダーマンにしました。鬼もきっと善と悪、両方を備えたヒーローだと思うし、スパイダーマンも善と悪、登ってはいけないものを登っているけど人は助けるというような鬼と似た存在ではないかという考えが自分の中にあたので、燈籠の代わりにビルを持っているようなものをつくりました。周りにもホールドを石に見立てて、こちらも枯山水の様に作っています。
左:《石庭#02》ベニヤ板、MDFに塗装、キャップボルト、500x900x60mm、2021
中央:《石庭#03》ベニヤ板、MDFに塗装、キャップボルト、500x900x80mm、2021
右:《野生の記憶-椅子の木》木(椅子)、鉄、鉛、和紙、920x1030x620mm
左:《O2》2016 / 右上:《Tokyo Galaxian》2020
手前左3点:《コロコロなるままに》2012-16 / 手前右:《大阪式重戦車》2005
3つ目の展示室には、小さな石庭の作品やこれまでのシリーズ作品も展示しています。
是非こちらもご覧ください。
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角文平 個展: The garden / Secret room
2021年5月21日(金)- 6月20日(日)