展覧会Exhibition
田中 望展 - ものおくり
2014.10.10(金) - 10.26 (日)
この度アートフロントギャラリーでは、田中望個展を開催いたします。
東北という地域を出発点に、震災と原発問題以降、その地域の伝統と世界との関わりなどより大きな主題へと移行してゆく作家、田中望。2014年のVOCA展での大賞以来初の個展となります。
田中望の作品、プロフィールについてはこちらをご覧ください
東北という地域を出発点に、震災と原発問題以降、その地域の伝統と世界との関わりなどより大きな主題へと移行してゆく作家、田中望。2014年のVOCA展での大賞以来初の個展となります。
田中望の作品、プロフィールについてはこちらをご覧ください
日程 | 2014.10.10(金) - 10.26 (日) |
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営業時間 | 11:00 - 19:00 (月休) |
会場 | アートフロントギャラリー(代官山) |
レセプション | 10月10日(金) 18:00~20:00 |
作家在廊日 | 10月10(金)、11(土)、12(日)、13(月)、24(金)、25(土)、26(日) いずれも午後から |
-ものおくり-
私達は小さいころから紙切れと筆を与えられて、好きなものを描いて御覧なさいと言われてきた。つまり四角の中に自己表現をするのが美術教育の中では絵画とされている。その中で具象を出発点とする者たちはいかに同時代性を獲得できる主題を選ぶかということで壁にぶつかることであろう。過去の美術上の規範だけでなく現代は無数のイメージがメディア上で氾濫している時代であって、固有な表現と時代を越えた表現をいかに作品に同居させ得るかが重要になる。より多くの人々が共有できる都市のイメージに主題が偏ってゆくのも自然な流れであろうし、見る者の体験を前提としないインスタレーションとは異なり、絵画においては特定の場所と美術の繋がりはますます希薄になってゆくであろう。
田中望はこれまで一貫として描かれる対象の歴史を自身の取材を積み重ねることで絵画に特定の場所を与えようとしてきている。自ら描く対象となる地域でのフィールドワークを重視するなど、自身の生まれた東北という地域が現在置かれている社会問題をはじめ、描かれる対象を研究し、自らがそこに入り込んで生活するまでの情熱をもって特定の場所をその絵画世界に持ち込もうとする。田中がいま、平面の世界で際立っているのは都市と個の発露を中心に回転し続ける絵画というシステムの中において、ローカルなものを主体とすることで、特定の場との関わりをもつことを前提として出発としている点にある。なおかつ、美術が単なる地域主義やナショナリズムに陥らず、エスニックやローカルという、消費されれば終わってしまう「目新しさ」ではなく、場所を越えて様々な鑑賞者からみても面白く、かつ現代性をも主張できる絵画をつくれるかが今後のこの作家の試練だと思う。
田中の絵画は洛中洛外図屏風と同様、細部をみることから出発し、より大きな全体の意味を読み解くべく作品が多い。インターネットを中心とした瞬間的なイメージの印象が作品の印象の成否を決める現代において田中の作品は非常に時代に逆行しているかもしれない。しかしいったん細部に目を転じれば、描かれた表象、それぞれの意味を理解し得なくとも、田中の絵画には絵巻物を少しずつ紐解くようにして、細部から全体へ、驚きと発見を繰り返しながら見る楽しさがある。古典から現代へ、ローカルから世界へ、目の前にある絵画の背後にある、私たちが現代の視点のなかから読み解くべき寓話としての意味の集積がそこにあり、今始まったばかりの田中の絵画における冒険からは計り知れない期待を感じさせる。
アートフロントギャラリー 近藤俊郎
私達は小さいころから紙切れと筆を与えられて、好きなものを描いて御覧なさいと言われてきた。つまり四角の中に自己表現をするのが美術教育の中では絵画とされている。その中で具象を出発点とする者たちはいかに同時代性を獲得できる主題を選ぶかということで壁にぶつかることであろう。過去の美術上の規範だけでなく現代は無数のイメージがメディア上で氾濫している時代であって、固有な表現と時代を越えた表現をいかに作品に同居させ得るかが重要になる。より多くの人々が共有できる都市のイメージに主題が偏ってゆくのも自然な流れであろうし、見る者の体験を前提としないインスタレーションとは異なり、絵画においては特定の場所と美術の繋がりはますます希薄になってゆくであろう。
田中望はこれまで一貫として描かれる対象の歴史を自身の取材を積み重ねることで絵画に特定の場所を与えようとしてきている。自ら描く対象となる地域でのフィールドワークを重視するなど、自身の生まれた東北という地域が現在置かれている社会問題をはじめ、描かれる対象を研究し、自らがそこに入り込んで生活するまでの情熱をもって特定の場所をその絵画世界に持ち込もうとする。田中がいま、平面の世界で際立っているのは都市と個の発露を中心に回転し続ける絵画というシステムの中において、ローカルなものを主体とすることで、特定の場との関わりをもつことを前提として出発としている点にある。なおかつ、美術が単なる地域主義やナショナリズムに陥らず、エスニックやローカルという、消費されれば終わってしまう「目新しさ」ではなく、場所を越えて様々な鑑賞者からみても面白く、かつ現代性をも主張できる絵画をつくれるかが今後のこの作家の試練だと思う。
田中の絵画は洛中洛外図屏風と同様、細部をみることから出発し、より大きな全体の意味を読み解くべく作品が多い。インターネットを中心とした瞬間的なイメージの印象が作品の印象の成否を決める現代において田中の作品は非常に時代に逆行しているかもしれない。しかしいったん細部に目を転じれば、描かれた表象、それぞれの意味を理解し得なくとも、田中の絵画には絵巻物を少しずつ紐解くようにして、細部から全体へ、驚きと発見を繰り返しながら見る楽しさがある。古典から現代へ、ローカルから世界へ、目の前にある絵画の背後にある、私たちが現代の視点のなかから読み解くべき寓話としての意味の集積がそこにあり、今始まったばかりの田中の絵画における冒険からは計り知れない期待を感じさせる。
アートフロントギャラリー 近藤俊郎
田中さんは東北の様々な地域でレジデンスをしながら、その地域の伝承をお年寄りから聞いたり、地誌を調べたり、そこで発見したことを絵のモチーフに組みこんでゆきます。
うさぎは古今東西、象徴的な意味を持って描かれますが、田中さんの作品では月に映るうさぎから、月の象徴でもあり、その満ち欠け、季節の移ろい、生や死という意味を持っているようです。
田中さんは今年、秋田県の上小阿仁村というところでレジデンスをされ、この「阿仁」という作品を描いています。この作品も見聞きした山村の暮らし、芸能を背景とした作品であるといいます。地域の芸能は天候を神に祈る儀式を元にしたものも多いはずで、この作品で描かれているのも、天候と深く関わる「食」が主題となっています。よく見ると、作品の地面にあたる部分には文字や地図を見ながら地面を測っているようなしぐさのウサギも描かれています。江戸時代の検地の様子を描いた画を連想させます。このような上からの力と、地域の実情との狭間でかつての天保の飢饉も起きたのかもしれません。田中さんの絵をよくよく見ると他にもさまざまな象徴的な場面が描かれているに違いありません。
アートフロントギャラリーの今回の展覧会では、定期的に田中さんによる作品解説をホームページでもご紹介できればと思っております。
秋田県北秋田郡上小阿仁村