プロジェクトProject
ムニール・ファトゥミ、生と死の対話を開くメッセージ
ギャラリー
モロッコに生まれ(1970)、フランスで制作を続けているムニール・ファトゥミ。ヴェネツィア・ビエンナーレ、シャルジャビエンナーレを初め、日本では瀬戸内国際芸術祭(2016/19)、妻有トリエンナーレ(2018)と数々の芸術祭に招聘され、ルーブル・アブダビにコレクションを入れるなど欧米・中東・アジアなど世界各地で作品を発表してきました。立体・平面・写真・ビデオとそれらを融合したインスタレーションを自在に生み出し、歴史・政情・宗教をスマートに時にユーモアを交えて作品化する彼の作品は、幅広いファンを持っています。
私がThe Blinding Light (2013-2016, video)のプロジェクトを始めたのは2013年で、フラ・アンジェリコが奇跡を描いた「助祭・ユスティニアヌスの癒し」にヒントを得たものだ。この情景では、アラブ人の兄弟が聖ペテロの墓に埋められたばかりのエチオピア人男性の足を、ユスティニアヌスのそれに移植しようとしている。白人の体と黒人の肢体とを繋ぎ合わせ、生きている者と死者とを融合することで人種やハイブリッド、アイデンティティといった問題を問う作品だ。
The Blinding Light の最初のフォトモンタージュ(2013)のシリーズでは、医療機器一式や衛星用具を備えた手術室を様々な角度から撮り、その写真群を「奇跡の絵画」に重ね合わせている。同タイトルのビデオにおいて医師は二人の聖人の傍らに立ち、彼らは全体として一つの作業グループを成している。こうして亡霊と生きた人々とがもう一つの現実、すなわち一時的な空想の世界に共存し得るが、それは宗教上のテキストと同じぐらい奇跡的な現象となっている。The Blinding Light ビデオ2014年版では、現代の手術風景とフラ・アンジェリコの作品がさらなる重層的な展開を見せており、ルネッサンス時代と超現代との連想とが単なる交配以上の効果を生み出している。異なる時代と空間を重ねるという一時的な省略方法は、これまでは聖なる奇跡と思われていたテクノロジーや麻酔の領域にまでその力を及ぼし、画面に描かれた人物は亡霊として提示される。重層的なレイヤーを眼にした観者は、否応なくルネッサンス期と現代を心理的に往来するだろう。宗教上の奇跡は現代においても実現可能であるというコンセプトは、まさにこの異なる時代を重ね合わせることから生まれるのだ。
私が俎上に載せたテーマは、文化の移植、人種・ハイブリッド化・アイデンティティの概念、科学と宗教が出会った結果としての奇跡などであるが、これらの問題はパンデミックが世界を席捲する今日、ますます重要性を増している。パンデミックは人種や社会的階級の区別に関わらず、ウイルスによって深く影響されているからだ。
「The Blinding Light」の作品において医師たちは二人の聖人と肩をこすり合わせるようにして一つのワーキンググループを構成しているが、二つの相入れない信念の領域を横断し、以前に増して一緒に動かす状況になってきた。一方には科学・秩序・理論の信念があり、もう一方には宗教と、忠誠心や奇跡、聖性への信頼が厳然として存在するが、両者は近づきつつあると思う。
2021年4月 ムニール・ファトゥミ
Art Front Selection 2021 spring
2021年4月9日(金)-5月16日(日)
私がThe Blinding Light (2013-2016, video)のプロジェクトを始めたのは2013年で、フラ・アンジェリコが奇跡を描いた「助祭・ユスティニアヌスの癒し」にヒントを得たものだ。この情景では、アラブ人の兄弟が聖ペテロの墓に埋められたばかりのエチオピア人男性の足を、ユスティニアヌスのそれに移植しようとしている。白人の体と黒人の肢体とを繋ぎ合わせ、生きている者と死者とを融合することで人種やハイブリッド、アイデンティティといった問題を問う作品だ。
The Blinding Light の最初のフォトモンタージュ(2013)のシリーズでは、医療機器一式や衛星用具を備えた手術室を様々な角度から撮り、その写真群を「奇跡の絵画」に重ね合わせている。同タイトルのビデオにおいて医師は二人の聖人の傍らに立ち、彼らは全体として一つの作業グループを成している。こうして亡霊と生きた人々とがもう一つの現実、すなわち一時的な空想の世界に共存し得るが、それは宗教上のテキストと同じぐらい奇跡的な現象となっている。The Blinding Light ビデオ2014年版では、現代の手術風景とフラ・アンジェリコの作品がさらなる重層的な展開を見せており、ルネッサンス時代と超現代との連想とが単なる交配以上の効果を生み出している。異なる時代と空間を重ねるという一時的な省略方法は、これまでは聖なる奇跡と思われていたテクノロジーや麻酔の領域にまでその力を及ぼし、画面に描かれた人物は亡霊として提示される。重層的なレイヤーを眼にした観者は、否応なくルネッサンス期と現代を心理的に往来するだろう。宗教上の奇跡は現代においても実現可能であるというコンセプトは、まさにこの異なる時代を重ね合わせることから生まれるのだ。
私が俎上に載せたテーマは、文化の移植、人種・ハイブリッド化・アイデンティティの概念、科学と宗教が出会った結果としての奇跡などであるが、これらの問題はパンデミックが世界を席捲する今日、ますます重要性を増している。パンデミックは人種や社会的階級の区別に関わらず、ウイルスによって深く影響されているからだ。
「The Blinding Light」の作品において医師たちは二人の聖人と肩をこすり合わせるようにして一つのワーキンググループを構成しているが、二つの相入れない信念の領域を横断し、以前に増して一緒に動かす状況になってきた。一方には科学・秩序・理論の信念があり、もう一方には宗教と、忠誠心や奇跡、聖性への信頼が厳然として存在するが、両者は近づきつつあると思う。
2021年4月 ムニール・ファトゥミ
Art Front Selection 2021 spring
2021年4月9日(金)-5月16日(日)