エコ・ヌグロホ《Nowhere is My Destination (1)》2019、キャンバスにアクリル、2335x3398mm
エコ・ヌグロホは、1977年、インドネシア・ジョグジャカルタに生まれ、Indonesian Art Institute 在学中の90年代末からキャリアを重ね、インドネシアを代表する現代美術アーティストとして国際的に活躍し続けています。1997年のアジア金融危機に続くスハルト政権の崩壊とインドネシアの民主主義への移行を経験した「レフォルマシ(Reformasi、改革)」世代の一人であるヌグロホは、突然現実的なものとなった表現の自由を享受し多様な作品を発表しつつも、作品には自身の政治社会的な意識が投影されています。
ジャワ島におけるアートの中心地ジョグジャカルタで制作されるヌグロホの作品からは、インドネシアの伝統と現代的なポップカルチャーの引用という二つの要素に基づいていることが分かります。伝統的なバティックと刺繍のスタイルを作品に取り入れる一方で、現代のストリートアート、グラフィティ、コミックからも強力なインスピレーションを受けています。彼はドローイングやペインティングのみならず、壁画、彫刻、アニメーション、タペストリーなど、さまざまなメディアで作品を制作しています。
川俣正《Tsumari No.30》2023、合板、割りばし、アクリル絵の具、730x780x137mm
こちらの作品は、昨年川俣が越後妻有で公開滞在制作を行った際に制作した作品の一つです。
2022年の大地の芸術祭を機に、川俣の日本での拠点の一つとして、妻有アーカイブセンター内に作られた川俣のアトリエでは、国内最大級のマケット作品が制作されています。俗にSite Plan と呼ぶ川俣のシリーズは、実存するスペースのために作られたプランではなく、想像上の建物や場所のために設計されるプランです。絵描きが新しいことを試すためにドローイングをするように、川俣は、この想像上のサイトの為のプランをプラクティスとして日ごろから作っているのです。これらの作品は、実在するサイトのプランと異なり作家のその時の気持ちや、世の中の動きなど、自分の周りの状況の変化などが形として現れているかのようです。特に、Tsumariと名付けられたこのシリーズは緑や茶色の絵の具が使われ、こころなしかこの地域の風景のように見えるものもあります。
ムニール・ファトゥミ《Maximum Sensation》2023、スケートボード、祈祷用ラグ、各140x810x210mm
欧米でコレクションされている「Maximum Sensation」 は、スケートボードにイスラム教の祈祷用ラグを貼った眼にも鮮やかな作品です。作家によれば、アフガニスタンを旅したときに、少女がスケートボードに乗って遊んでいる情景に出会って驚いたとのこと。聞いてみると、自転車などの乗り物に女の子が載ることは禁止されているが、スケボーは大丈夫というのでイスラムの民族衣装を着て乗り回していて、ファトゥミはその女の子の勇気ある行動へのオマージュとして、この作品を制作しました。祈祷による精神の高揚と、スポーツによって身体の緊張感が最高潮に達することを掛けあわせたタイトルが「最大の感覚」になります。この作品は、2016年の瀬戸内国際芸術祭にファトゥミが参加した際、東京の商業施設のウィンドウを飾ったという経緯もあります。ヨーロッパから見れば、日本もアフガニスタンも辺境地域であることは確かで、別の角度やほかの文化からみた「もう一つの視点」が常に我々の思考を豊かにしてきたといえるでしょう。アートの力を通じて国と国、文化と文化、宗教と日常との距離を縮めようとするファトゥミの作品は様々な場において記憶に留められることと思います。
大巻伸嗣《Gravity and Grace - moment 19/10/2023 (15)》2023、フォトグラム、RCペーパー、アルミマウント、1310x1062x24mm
本作は、2023年末に国立新美術館にて開催された大巻伸嗣個展「Interface of Being 真空のゆらぎ」の会場で制作されたフォトグラム作品です。個展にて、まず最初に目に飛び込んでくるアイコニックな役割も果たした高さ7mの大きなつぼ型のインスタレーション作品《Gravity and Grace》。その作品が生み出す光と影、そしてその作品と印画紙の間に延ばされた人の腕の「存在」が、フォトグラムとして印画紙に焼き付けられています。(詳しい解説はこちら)
大岩オスカール《Hell's Kitchen 1》2023、キャンバスに油彩、1780x1374mm
大岩オスカールは、物語性と社会風刺に満ちた世界観を、力強くキャンバスに表現するアーティストです。独特のユーモアと想像力で、サンパウロ、東京、ニューヨークと居を移しながら制作を続けています。
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ヘルズキッチン・シリーズ(Hell's Kitchen series) 「ヘルズキッチン」は私が現在住んでいるニューヨークの地域の名前です。タイムズスクエアからも近く、レストランが集中しているところですが、昔はとても危険な所でした。日常的なよくあるキッチンの中で、生存をかけた戦争が起こっているような二面性を持つ作品シリーズです。(大岩オスカール)