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ムニール・ファトゥミ:映像からインスタレーションまで
Mounir Fatmi 《Maximum Sensation》2023 スケートボード 祈祷用ラグ インスタレーションサイズ可変 photo by Hiroshi Noguchi

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ムニール・ファトゥミ:映像からインスタレーションまで

ギャラリー

2023年2月3日(金)- 3月5日(日)

モロッコ/フランスで活躍するアーティスト、ムニール・ファトゥミがアートフロントギャラリーに帰ってきた。2月3日よりギャラリーで開催する《ディストピア:記憶の変遷》展に映像作品とインスタレーションを発表している。「この世界における自分たちの使命が何であるかを知ることができずにいること」に危機感を抱きながら、精力的にヨーロッパで活動する作家の作品をぜひ、ご高覧ください。

日程 2023年2月3日(金)- 3月5日(日)
営業時間 水~金 12:00―19:00 / 土日 11:00―17:00
休廊日 月・火曜日
ムニール・ファトゥミは、これまでも森美術館でのアフリカ・リミックス(2006)、瀬戸内国際芸術祭 粟島(2016/2019/2022)、アートフロントギャラリーでの個展《ムニール・ファトゥミ:Peripheral Vision(辺境からの視点)》(2017)、大地の芸術祭(2018)と多様な作品を展開してきた。中でも、昨年開催された瀬戸内国際芸術祭ではビデオインスタレーションで注目を集めた。

宇野港の築港エリアの三宅医院という、40年間使われていなかったクリニックが舞台。手術室や薬剤室などの部屋に約20年前にフランスで制作された映像が流れる。これは”Architecture Now!”というビデオ作品で、第一次大戦後に96の国からの難民が住みついたパリ郊外のアパートが壊される様子を、自身モロッコからの移民として作品化したものだ。2000年から2005年までに制作された15編のビデオと2004年の16点の写真作品から構成される。コロナ禍で作家の来日は叶わなかったが、遠くフランスの地から、この世界に「住む」、住み続けることについて廃屋のインスタレーションを通じて問いかけている。

ムニール・ファトゥミ 《実話に基づく》 瀬戸内国際芸術祭2022 (古い病院の中で見る映像と写真のインスタレーション)

さらにアジアフォーラムの場にリモートで参加したファトゥミは、自身の個展を紹介し「私たちはゆっくりと考えるという贅沢を失ったのです。私たちは世界を想像し、理解し、早急に対策を考えなければいけません。『世界をどのように見るか』という問いを考えなくてはならない.。現在のような危機的状況(period of crisis) の時こそ、あらゆることを問題提起するタブーが失われ、様々な質問を投げかけることがむしろ容易になったと思う」と述べている。

ムニール・ファトゥミ《過ぎ去った子供達の歌》瀬戸内国際芸術祭 旧粟島小学校(2022年撮影)

今回アートフロントギャラリーにて上映される映像は、コロナ禍で制作されたもので、「すべてのメディアは、精神的または肉体的な人間の能力の延長である(Marshall McLuhan, The Medium is The Message, 1967) 」ことをテーマとしているという。

ムニール・ファトゥミ"The White Matter" 2020-2021, France, 16 min, color, stereo.
Courtesy of the artist and Conrads Gallery, Berlin

このビデオでムーニル・ファトミは、メディアの陳腐化に疑問を投げかけながら、現代のテクノロジーが記憶に与える影響について研究している。技術科学の進歩により、アナログメディアは急速に代替され、社会がバーチャル化するにつれ、デジタル画像に取って代わられるようになった。そこで作家は、かつて美化されていた本などの時代錯誤な道具を蘇らせ、私たちの世界認識を深く変え、記憶感覚を歪めてきた映像やメディアの変遷を問いかけます。映像のタイトルは、神経系の情報伝達を担う脳内の白質(ホワイトマター)にちなんでいます。この組織は、木の根のように、何百万本もの通信ケーブルで構成されており、それぞれがミエリンという白い物質に包まれた1本の長い糸、軸索を持ち、その役割は信号の伝達を容易にすることである。文字というテクノロジーは、人間を、現実からも本質からも切り離された、強迫観念的で不条理な活動を宿命づけられた、知識を操る者に変えてしまったのだろうかと問いかけている。

Mounir Fatmi 《Maximum Sensation》2023 スケートボード 祈祷用ラグ インスタレーションサイズ可変

この映像とともに、今回ムニール・ファトゥミの新作インスタレーションも発表している。アートフロントギャラリーでは2017年の個展《Peripheral Vision》以来6年ぶりのインスタレーションとなった本作は、イスラム教の祈祷用ラグをスケートボード上に貼り付けたもので、イスラム文化に根差した幾何学模様やモスクのモチーフが精神の高揚を促し、崇高な人知を超えた存在を連想させるような美しい作品となっている。上昇→回転→下降という一連の動きが3次元空間に飛び交っており、空間全体を使ったダイナミズムが感じられるようだ。

《Maximum Sensation》は10年以上前に構想されたものだが、このシリーズは、異文化や異宗教、異世代が「スケートボード」という共通言語で一体化、連帯することを示唆しているようで、一見すると誰にでも訴えかけてくるという点で、現在の我々の心情にぴったりと合っている。作品に対する普遍性、地域性について、どのように今、考えているかを作家に質問したところ、次のような答えが返ってきた。

「《Maximum Sensation》というインスタレーションは、いくつかの解釈のレベルをまとめているのです。宗教的な問題と美的な問題を結びつけているのです。美を信じなければ、神を信じることはできないと思うのです。美は神の断片なのです。そしてもちろん、ローカルとグローバルの問題もあります。このインスタレーションは、この神と美との境界線が徐々になくなってきていることを示すために、それらを一つにまとめようとするものです。モロッコ、イタリア、フランス、オランダ、そして今回のスペインと、私は幸運にもいくつかの国に住みましたが、そのたびに多くのことを学び、まるでいくつもの人生を生きているようでした。作品を前に、このような豊かで広大な世界に属しているという感覚について思いを馳せていただけたら幸いです。」

《ディストピア:記憶の変遷》展は3月5日まで ぜひご高覧ください。

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