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Gallery's Picks for the Month (CARS/車に魅せられた作家たち)
元田久治《Foresight: Desert area 2》2022 リトグラフ、コラージュ image size: 475 x 345mm, frame size: 675 x 540mm

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Gallery's Picks for the Month (CARS/車に魅せられた作家たち)

現在開催中の《元田久治:CARS》には無数のミニカーが描かれています。軽やかに疾走する車のモチーフは古今東西の作家の創作欲をかきたて、そのダイナミックな姿は多くの作品に表現されてきました。今月のギャラリー・ピックアップでは車を巡る多彩な表現を、アートフロントギャラリーの在庫作品を中心にご紹介いたします。 photo by Hiroshi Noguchi

ご紹介した作品は、東京のアートフロントギャラリーにて取り扱っております。作品のお問い合わせはcontact@artfrontgallery.com もしくは03-3476-4868(担当:庄司・坪井)までご連絡ください。


元田久治:ミニカーはフィクションを現実化する



これまで現実の風景を風化させる廃墟画シリーズで知られてきた元田久治がミニカーと戯れるきっかけをつくってくれたのは5歳の息子さん。コロナ禍で家で一緒に過ごす時間が長くなり、最初はダンボールを使って車を創っていたのがオモチャのミニカーで何かできないかと考えているうちに、車のいわば「見立て」であるミニカーを使ってフィクションを現実化できないかと思いついたそうです。この作品はリトグラフにコラージュです。ベニヤに砂をまいたものに、色をつけて刷ることによって、結構荒い砂、ごつごつした感じが見てとれると思います。

元田久治《Parking Lot2》2021 リトグラフ image size: 330 x 233mm frame size: 513 x 418mm

今回、リトグラフで刷ったミニカーを惜しげもなく裁断してそれをコラージュするという新機軸を打ち出している作家ですが、この《Parking Lot2》は、その前段階で車のモチーフの版画を制作したときに最初につくった作品だそうです。整然と並んでいるミニカーはどこか、満員電車を待つ人の列のように擬人化されているようにもみえます。整列しても、混乱しても、廃車になっても何かそこに存在したであろう人の気配も感じられます。また、これまでの廃墟画シリーズでも象徴的な色は挿し色として使われていましたが、今回色を変えながら同じ版を何度も使ってミニカーを大量生産する中で、様々な表情をもった版画が生まれてきました。

ミニカーシリーズ(リトグラフ)の展示風景 各図柄はedition 10、ミニカーは各図柄につき1点のみ

一見ドローイングかとみまがうミニカーシリーズも版画です。たくさんあるモデルからスカイライン、ベンツ(GL2) , パジェロなどが選ばれていますが、ドアが落ちていたり、ひしゃげた部分があったりどこかしら風化していて、ミニカーの方も塗料等を塗って錆び感などを出している点、廃墟画に通じるものがあります。現在展示している作品のほかにも制作中で、最終的には20作品ほどになる予定です。


菅井汲 愛車を作品化したパリの日本人


菅井汲 《Crossing 1》edition 22/250 1978 シルクスクリーン image size: 180x180mm
Frame size: 250 x 292mm

車好きのアーティストとして真っ先に思い浮かぶのが菅井汲(1919-1996年)。色鮮やかでポップな作品は、美術館などで眼にする機会が多いと思います。兵庫県に生まれ、阪神電鉄に就職してポスターなど商業デザインを担当していた菅井がパリに渡ったのは30代の頃。岡本太郎らと交流する中でスポーツカーに惹かれた菅井は、有名な1973年式ポルシェ911カレラRSを購入しました。しかしその後、重大な交通事故を起こし、一命はとりとめたものの完治するまでに長くかかったといいますが、すぐに同型のポルシェを買いなおしたそうです。
そんな菅井が生み出す絵画や版画の多くは車のボディ、タイヤのみならず信号や交差点、曲がりくねった道路やフラッグなど車の周辺にある事物をモチーフにしています。

これはタイヤの写真と図案的なフォルムを組み合わせた作品です。Crossing は交差点の意味のほか、いろいろな要素が横断的に交わるという意味もあり、パリで活躍する日本のアーティストであった菅井自身の異文化体験も重ね合わせているのでしょうか。


菅井汲《VARIATION 4》edition 14/125 1995 リトグラフ
Image size: 620 x 460mm
この作品は道をモチーフにしたシリーズで、S字状に曲がりくねった道が印象的。「S」とは菅井のSなのか、スピードのSなのか。晩年の作品であり、もはや若いときのように愛車を軽やかに繰れない(といっても死ぬまで愛車を手放さなかったが)無念さを表しているのかもしれません。

(参考)《Porsche》1975 edition 24/55 個人蔵


阪本トクロウ:不在の車




阪本トクロウ《呼吸(道・信号)》2012 雲肌麻紙、アクリル絵具 910 x 910 x 30mm

元田久治や菅井汲が車そのものをモチーフとして扱うのに対し、阪本トクロウは運転者からの視点など、自分が道路やハイウェイから見た風景を描いている作品があります。車は不在でも、車に乗っている自分が向かっている状況を描くことで、風景の静けさや空気感がより一層強調されているようです。信号機、横断歩道などのモチーフは繰り返し描かれ、阪本ワールドにおいて重要な要素の1つですが、いずれも細い筆でタッチを残さないように描いているため、まるで写真であるかの印象を作り出しています。

阪本トクロウ《ハイウェイ》2020 高知麻紙にアクリル 1303 x 1303mm

こちらの作品は、2021年のアートフロントギャラリーの個展の代表作品といってよいでしょう。都市の風景は阪本にとって、当初から繰り返し描いてきた情景ではありますが、そこに描かれているのは人間の営みを連想させるオブジェたちで、人間の不在を感じさせるようです。この作品でも車そのものは登場せず、空を大きくとった構図の下辺に水平方向からみたようなハイウェイが描かれています。山梨県塩山を拠点に制作を続ける作家はよく、アトリエと東京を車で移動し、目にうつるハイウェイや両側に広がる緑、夜景、そして車そのものを描くこともあります。

阪本トクロウ《ジョイライド》2008 雲肌麻紙、アクリル 410 x 410mm

ひと口に車といってもその切り口は様々です。気になる作品がありましたらぜひ、ギャラリーに問い合わせて実作品をご覧いただければ幸いです。

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