突然生活が変わった。今までのように地下鉄に乗ったり、スタジオに通ったり、街を歩いたり、映画館で映画を見たり、友人と会ったり出来なくなってしまった。隔離生活の中、外に出るのは食料品の買い出しか、ちょっと空気を吸いに出るだけだ。
進行中のプロジェクトや展覧会は全て、延期された。都市はパンデミックの中核になり、住民は誰でも今まで以上に難しい生活を強いられている。多くの人が職を失い、請求書の支払いが絶望的になっている。世界中どこをみても元気の出るニュースなど見当たらない。多くの国が国境封鎖を行っている。アメリカ大統領の施策は最悪だ。
僕が普段通りのクリエイティブマインドでいられるために何ができるか、それもマンハッタンのマンションに籠ったままでできることを考えた。幸い僕は自分が感じたことを作品化できるスキルを神様から授かっている。この力を使ってドローイングのシリーズを始め、隔離生活の真っ只中の、空想の旅を思いついた。その結果がこの日記風の作品で、過去のこと、現在の生活、そして未来について考えたことを綴っている。
≪上海楊浦区≫2020, デジタルドローイング、55 x 76cm
予定では3月半ばに上海を訪れるはずだった。黄浦川沿いの新しい公園に巨大なパブリックアートのインスタレーションをほぼ終えたところだ。※1
武漢で発生したコロナウィルス感染症が爆発的に広がったため、残念ながら僕はこの滞在をキャンセルせざるを得なかった。
≪通天閣、大阪≫2020, デジタルドローイング、55 x 76cm
3月末には大阪で美術館の学芸員と年末に開催する展覧会の打ち合わせをするはずだった。大阪のローカルなテーマに沿った連作を構想していた。そのために必要なリサーチもしてそのエリアの歴史や文化を調べたいと思っていた。でも感染拡大が日本にも及び、これもキャンセルとなった。
≪たこ焼き、大阪≫2020, デジタルドローイング、55 x 76cm
大阪市名物、たこ焼きを作品化したもの。
≪ヘルズキッチンパーク、ニューヨーク≫2020, デジタルドローイング、55 x 76cm
つい数週間前、地域にあるこの公園はバスケなどをする子供たちや自然や静けさを求めて集っていた大人たちでいっぱいだった。今サクラは綺麗に咲いているけれど公園はからっぽ。周りのレストランも閉まっている。街は静まり返り、不穏な空気につつまれている。
≪セーハドマール山脈, サンパウロ≫2020, デジタルドローイング、55 x 76cm
2月に中国とヨーロッパの都市の一部が都市封鎖になったとき、コロナウィルスの感染はまだアメリカには届いていなかった。そのとき僕は故郷のサンパウロにいて、クバタンという街に向かって高速道路を走っていた。途中の景色は原生林に囲まれていて別世界のようだ。トンネルは暗い場所、と思われているけれど、今や世界があまりに怖い場所となってきたので、むしろトンネルの入り口が安全なシェルターの場所に見えてくる。
≪波≫2020, デジタルドローイング、55 x 76cm
都市の状況は切迫している。何万もの人々が死に向かい、国全体を指揮する能力が欠けていることは明らかだ。病院は収容キャパを超えており、医療用防護機器の不足が続いている。海軍の病院船USNS Comfort がハーバーに停泊している。NYの大型コンベンションセンターさえもが見えない敵に対する野戦場と化し、病院の外には遺体を保管するための冷凍車が停まっている。世界を覆う空気が変わり、至る所に「波」があふれているのが見える。
≪タイムズスクエア、ニューヨーク≫2020, デジタルドローイング、55 x 76cm
世界中からやってくる観光客であふれていたタイムズスクエア。今は人っ子一人いないし、全てはクローズ。広告のネオンサインを消してエネルギーを節約した方がいいのではないか。
≪私の机、ニューヨーク≫2020, デジタルドローイング、55 x 76cm
この小さいテーブルが私の生活の中心になった。以前のようにスタジオに行くことすらできないが、今すべきことは嵐が過ぎ去るのをひっそりと待つこと。感染者数はこの一週間でピークだと言われているけれど、まだまだ前途遼遠だ。ただ、3週間の自粛生活が経ってみると、特別な生活が普通の生活になりつつあり、ストレスも少し軽減してきた。
≪9番街、ニューヨーク≫2020, デジタルドローイング、55 x 76cm
黙示録的な状況の後、今までの世界各国の首都が皆ゴーストタウンと化すのではないだろうか。ゆっくりと緑が戻ってきて、動物たちが戻ってくる・・・そんな空想をしてみるが、現実はもっと残酷だ。街を歩くと以前よりたくさんのホームレスの人々が食べ物を漁っている、まるで森の動物たちのように。
≪昭和の日本≫2020, デジタルドローイング、55 x 76cm
自粛生活のおかげでネットで古い映画を見たりしている。私は日本の50年代60年代のモノクロ映画、いわゆる日本映画の黄金時代の作品を見るのが好きだ。当時日本は第二次世界大戦から復興しつつあったがまだテレビは全ての家庭に普及しているわけではなかった。最近のテクノロジーに比べればシンプルなつくりではあるけれど、映画を撮るカメラの向こうにいるチームが、協働して作品を作っていることが感じられる。これらの映画はモノクロのドローイングに似ているかもしれない。メディアがシンプルであればこそよい作品を生み出すのは難しいのだ。
©Oscar Oiwa Studio
※1_《Time Shipper》
2019上海都市空間芸術季 (SUSAS) 出品作品。長さ16m に及ぶガラスの船の中で、この場所の土から白木蓮が育っていく。船の周囲には波の形に整備された芝生が広がる。
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