<1984年の展示風景>
今回、新作インスタレーションをヒルサイドの屋上に構想した川俣さんから、ぜひ33年前の「工事中」のマケット、ドローイング、フォトドキュメントを会期中、一緒に展示してほしいという要望がありました。作家の指示のもと、前回の展示とほぼ同じ壁の高さにマケットを張り出させ、向かい側の道路から撮った写真パネルを路上レベルに、ドキュメント写真一式を前回同様に並置しました。写真に写っている当時のスタッフが若くて血気盛んなだけでなく、同潤会アパートの銭湯からかき集めたという材木は旧山手通りからほぼ完全に店構えを覆い隠し、よく見ると屋上にも既に何本かの材が東西に走っています。今回のインスタレーションを凌ぐ過激さ。木材で覆われたフランス料理店は70年代にフランス人シェフを招聘して文化人知識人に本場のフランス料理を振る舞い、手土産にはジャン・ティンゲリーのリト、といわばハイソの象徴ともいえる洒脱な店で、川俣さんの挑戦はこうした“文化”そのものへのアンチテーゼだったのかもしれないことが伺えます。
今回の展示を見にきた人のうち、たった2週間足らずの展示に終わった1984年のインスタレーションを目撃した人々もいました。そのときのようすを思いだして、「雑誌に載ったので見に来た」「格好いい足場かと思ったらアートと聞いて驚いた」という80年代。当時に比べれば、今日では面白いモノ、話題の情報はその何百倍の速さで拡散しています。また街も変わって作品を囲む環境もますます複雑なものになっています。しかしアートに対する反応はやはり様々で、時代を経たから容認の方向へと向かっている、というようなことはどの国にあってもいえないでしょう。
2017年の展示風景
「工事中」マケットのマニフェストから引用すれば、「すでにできあがっている空間に、その空間を成り立たせているつくり(景観)に同調しながら、なおかつはみ出していくようなつくりを生み出していく、そんな思いもよらぬ景観をそこから期待しているのです」。
まさに屋上から公海ならぬ公空に「はみ出していく」ことこそが今回の川俣作品の真髄なのではないでしょうか。