プロジェクトProject

Gallery's Picks for the Month (川俣正)
川俣正《Tsunami No.19》 2016 パネル、木、メタル、ペイント 1530 x 2100 x 80mm

  • Gallery's Picks for the Month (川俣正)

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Gallery's Picks for the Month (川俣正)

ギャラリー

7月30日(土)から、また新たに公開作品が追加される「大地の芸術祭」越後妻有2022。ギャラリー関連作家の磯辺行久、椛田ちひろ、川俣正、藤堂、安野太郎等の作品も公開されます。

その中から、今月のギャラリー・ピックアップでは、川俣正に焦点を当てて作品をご紹介いします。芸術祭で良く知られているダイナミックなインスタレーションだけではない、コレクションできるレリーフ作品もご紹介。一部の作品は大地の芸術祭の中の企画展「大地のコレクション展」でもご覧いただけます。

作品のお問い合わせは contact@artfrontgallery.com もしくは03-3476-4868(担当:庄司・坪井)までご連絡下さい。

川俣正(1953-)は1970年代終わりから、主に都市の建造物に木材を用いた仮設の作品を設置する制作活動を始めました。与えられた場所の歴史的意味を掘り下げ、インスタレーションを通じて新たな風景を提示するという新しい手法は国内外で注目を集めました。
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川俣正「工事中」
1984、展示風景、代官山ヒルサイドテラス


川俣正-「 工事中 」 再開 
2017、代官山ヒルサイドテラス

代官山ヒルサイドテラスを舞台に展開された《工事中》(1984) は川俣正と3月に逝去された池田修・元BankART1929代表、北川フラムの共同プロジェクトとして知られていますが、その後川俣は80年代にはNYのP.S.1に招聘され(1985)、カッセルのドクメンタ(1987/1992)など広域な範囲でプロジェクトを展開しています。瓦礫その他、多様な方法で集められた素材を使った制作プロセス全体が作品化され、プランドローイング、マケット、フォトドキュメントなどが残されていきます。川俣の仕事は常に現在進行形であると同時に、実践の記録がアーカイブされていく点でもユニークです。
今回清津倉庫美術館で展示される作品の中から、P.S.1に続いて初期作品である《ライムライト・プロジェクト》をまず紹介します。

Limelight Project installation view 1985 New York Courtesy of the artist

川俣は1984年から85年にかけてP.S.1の国際スタジオ・プログラムのレジデンスに選ばれ、そこでの出会いをきっかけとしてその後ニューヨークでプロジェクトが多く展開することになりました。教会を改築してディスコになっていたライムライトのアートディレクターがある日川俣のスタジオを訪問し、既に日本で作られていた「テトラハウス」の写真を見ながら、ライムライトでも何かやってみないかと持ちかけたそうです。ミーティングを重ね、川俣は教会のファサードなどを覆うプランを出したが、この建物全体が市のランドマークに指定されていたため、なかなか許可が下りず、ようやく許可が下りたものの、展示期間は1985年の1か月あまりで解体されたといいます。

《Limelight Project Plan (13)》1985 バルサ材、アクリル、合板  810x1220x100mm

このプロジェクトのマケットで残っている80年代の貴重な作品が《Limelight Project Plan (13)》です。関係者と重ねられた討議の証左でもあり、またファサードのかなり高い位置に積み上げられた木材が白いペイントで塗られた建物に介入しています。川俣によれば、日中の静けさと夜若者の集まるディスコとして機能する元教会のギャップが面白かったそうで、そうした80年代の熱気が伝わってくるようです。

《Installation for Hara Museum Arc (A-7)》1990 バルサ材、アクリル、合板  810x1220x80mm

こちらの作品は、ハラミュージアムアークでのインスタレーションのマケットです。
これはハワード・フォックスの企画した10人の彫刻家の展覧会、《A Primal Spirit》 (プライマル・スピリット 今日の造形精神)展のために構想され、実際にハラミュージアムアークにて設置されました。日本の戦後美術を理解するときに、自然物との親和性を論じた同展の中で、海老塚耕一・遠藤利克・戸谷茂雄などに比べて、川俣の作品はモニュメンタル物質の塊というよりも、より周囲空間を巻き込んだ軽やかな作品となっています。

《Coal Mine Tagawa Plan 6》1996 バルサ材、アクリル、合板  810x1220x80mm

「コールマイン田川」のマケットは、別の趣を発信しています。筑豊炭鉱の重要な拠点であった福岡県田川は、近代までのエネルギー産業を推進してきた街として川俣の興味を強くひきました。
炭坑の入り口を思わせる櫓を組み、その屹立する黒い立体造形にコミュニティのシンボルとしての機能を託したかのような作品は、1996年に始まり毎年少しずつ進められました。足かけ10年の歳月と、廃線の枕木など近郊から調達した木材を使って作品が完成し、地元の盆踊りなど季節の行事に人々が集まる場となりました。

川俣正 "Under the Water" 展示風景、ポンピドゥー・センター・メス、2016 photo by the artist, Tadashi Kawamata 川俣正撮影

近年の川俣の代表的なプロジェクトに、2016年にポンピドゥー・センター・メスで開催された個展、《Under the water》があります。東日本大震災が起こった後に開催された同展は自然災害を表現した例といえるでしょう。この大型インスタレーションは扉やイス、窓、既に当初の姿をとどめていないような木製の瓦礫によって構成されています。作品全体が見るものに強く訴えてくるのは、2011年3月に日本を襲った巨大な津波の前後に、水の中で人々が何を見たのか、どのようにこの世界が見えたのかという視点と、地震で破壊された建物や崩れた何トンもの瓦礫が水面を覆いかぶさる中で、永遠にその水面には浮き上がってこられないという絶望的で希望が断たれた感覚です。

《Tsunami No.19》 2016 パネル、木、メタル、ペイント 1530 x 2100 x 80mm

Tsunamiプロジェクトは、パリのギャラリーKamel Mennour にて、震災後1年経たないうちに展示されました。もし川俣が日本にいたらこのような悲劇を直截的に表現するのは難しかったかもしれません。日本の外にいるからこそ違った角度からこの事象に対峙することができ、このトピックスをもっと客観的な側面から世界にむけて発信することができたといえるでしょう。地震だけでなく多くの犠牲を生み出した津波について、彼の拠点であるパリで展示することができたのは、日本人アーティストによる創造だったからではないでしょうか。その後もTsunami シリーズは継続して制作され、2016年のポンピドーでの個展のために制作された一連の作品の1つ《Tsunami No.19》が今回、出品されます。

清津倉庫美術館での展示は、川俣の代表的な作品を文字通りピックアップしながら、これまでの足跡を辿れるようなものとなっております。パリから帰国して現地で制作している大地の芸術祭、旧清水小学校での新作と合わせて、ぜひご高覧ください。

川俣正《スノー フェンス》2022 大地の芸術祭2022 旧清水小学校 写真:中川達彦

アーティスト

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