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Gallery's Picks for the Month:大地のコレクション展よりカバコフとオスカール
2022.7.30 (土) - 11.13 (日)
現在開催中の《大地のコレクション展2022》は、これまで大地の芸術祭に参加した作家のベストセレクション作品を展観しています。積極的に海外アーティストを招聘した2000年の初回展。そのエネルギーを象徴するイリヤ&エミリア・カバコフの《棚田》は今も文字通り大地に根差した作品として妻有の土地と訪れる人々を結び付けています。アートを通して人々の交流を促し、争いのない世界を創り出そうという作品《手をたずさえる船》がコレクション展に出品されており、その制作背景や作家の思いをお届けします。同じく初回に参加した大岩オスカールの作品《美しき茅の家》も、妻有の生活をモチーフにしており、外からの眼で捉えた鮮やかな緑の風景画となっています。オスカールの最近の活動とあわせて紹介いたします。
日程 | 2022.7.30 (土) - 11.13 (日) |
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営業時間 | 10月・11月は土日祝日のみ開館 10h-16h |
手をたずさえる船:Ship of Tolerance
イリヤ&エミリア・カバコフが《Ship of Tolerance》のプロジェクトに船出したのは2005年のこと。彼らはエジプト西部のリビア砂漠の中に位置する、シワ・オアシスに招かれた時だ。カバコフは、美しく神秘的な湖に魅了され、かつ土地のこどもたちが誰も船というものを見たことがないと知って、「そうだ、こどもたちと一緒に船を造ろう!」と思い立ったという。彼らはこどもたちに「見たことのない船」を描いてもらい、絵を組み合わせて帆を形づくった。
確かにエジプト人らしき船頭が、ちょっと風変わりな帆の舟を漕いでいるようすを作品の一部に見ることができ、こどもたちが描いているありのままを受け入れている、温かいカバコフの視線を感じることができる。

イリヤ&エミリア・カバコフ 《手をたずさえる船》ジークレー版画 657x870mm

《The Ship of Tolerance》(部分)
船そのものの制作については、以前から共に仕事をしていたマンチェスター芸術工科大学の講師であるデビッド・ハロルド氏に依頼した。彼は学生を連れて彼の地エジプトのオアシスに趣き、土地の竹や葦などを使って船をつくりあげた。工程は3〜4週間ほどかかり、その間、毎日数百人の来場者が工事を見学し、このプロジェクトについて学ぶことができた。そして美しくライトアップされた船は、子どもたちやサポーター、友人、地域のリーダー、一般市民などの祝福を受けながら進水したという。
その後、いくつかのスポンサーの交代などを経て、彼らの船は作り直され、ヴェニス、サンモリッツ、マイアミ、ハバナ、モスクワ、ロンドン、シカゴなどを航海してきた。2019年ロンドンではテートモダン近くのミレニアム・ブリッジに係留され、同年のシカゴ建築ビエンナーレでは海軍の埠頭に船が登場し、注目を集めた。

Ship of Tolerance ©photo by Daniel-Hegglin, courtesy of Ilya and Emilia Kabakov Foundation
子供達だけではなく多くの協力者が手をたずさえて成り立っている《ship of tolerance》のプロジェクト。文字通り翻訳すれば、「寛容の船」となるが、そこにこめられている意味は何だろうか。
ご存知のように、イリヤ・カバコフは現ウクライナのドニプロに生まれ、両親がユダヤ系だったために、ナチスの迫害を逃れるべく第二次大戦中に中央アジア、ウズベキスタンのサマルカンドに疎開した。自分の幼少期を思い出しながら、「子どもたちは、この船の制作に参加することで、異なる文化や考え方を尊重し、自分たちとはどのように違うのかを理解することを学びます。つまり、この創造的なプロセスを通じて、子どもたちは寛容さを実証し、生き生きとした教訓を得ることができるのです。」と作家はいう。人種や考え方の違いを超えて、あるがままの多様な在り方を受け入れる「寛容」こそ、カバコフが一貫して私たちに訴えるメッセージではないだろうか。この船を作る前に訪れたエジプトのシワで、エミリア・カバコフはこんな場面に立ち会ったという。小さな贈り物をめぐって子供達が喧嘩を始めたのを見たエミリアは、コーカサスに昔から伝わる諺「争う二人の男性の間に女性がはいったなら、喧嘩はすぐにやむだろう」を思い出し、すぐに仲直りをさせた。
国家間の争いごとも、人間同士の闘いには違いないーーどうしたら間にはいれるのか、彼らの力になれるのか、カバコフは作品やプロジェクトを通じて訴え続けている。
参考:Ship of Tolerance ウェブサイト:https://shipoftolerance.org/ (カバコフ財団による)
大岩オスカール:旅するアーティスト
物語性と社会風刺に満ちた世界観を、力強くキャンバスに表現する大岩オスカール。独特のユーモアと想像力で、サンパウロ、東京、ニューヨークと居を移しながら制作を続けている。サンパウロに生まれ、建築学科を卒業した作家は、東京の建築事務所で働きながらアーティストとしても活動。奨学金を得てニューヨークに移り住み、現在も米国を拠点としている。大岩はよく旅をし、移動しながら複数の文化に根差した自らのアイデンティティを模索しているように思われる。

大岩オスカール《かかしプロジェクト》2000 photo by ANZAÏ
1994年のファーレ立川につづいてディレクター北川フラムに声をかけられ、最初のまったく何もない里山の風景にかかしを設置した。棚田の中に立ち並ぶ真っ赤なかかしは、棚田で働く人やその家族を型どった。

《美しき茅の家》 2009 キャンバスに油彩 1303x1940mm
妻有を舞台として描かれた作品。新潟の民族博物館など地元の調査を行ったときに、昔からの風習や建築空間を知り、囲炉ばたや米俵を木の枝の上に描いた。木は、一見ブラジルのジャングルを思わせるが、桜と松とモミジが左下に描かれている。2017年の北アルプス国際芸術祭にも出品された。
瀬戸内国際芸術祭:男木島パビリオン
建築家・坂茂とのコラボレーションが実現した男木島パビリオンは、瀬戸内国際芸術祭の眼玉の1つだ。被災地を含め世界中どこでも紙管で構造をつくる坂のつくった建物の窓いっぱいにオスカールが海の生物を描いた。窓をスライドさせると図柄が重なり合い、その向こうには瀬戸内の島々が拡がっている。



3点の瀬戸内の写真は全て©Oscar Oiwa Studio
《大地のコレクション展2022》は11月13日(日)まで。
10月・11月の開館日は土日祝の10h-16h 開館時間にご注意ください。
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