テーマ:光と闇 大岩オスカールが以前、作品集ART & istの中で「闇なくして光なし」と語っていたように、世界は常に明るい時代の裏に闇が隠れています。人間は只々和やかに暮らしていけるわけではありません。守るため、生きるため、欲求のため――人はいつも何かのために奮闘しています。しかし、その苦労や闇とのコントラストがある事で、明るい世界はより輝いて感じられるのかもしれません。
今回の台北當代(タイペイダンダイ)では、その「光と闇」をアートで表現する2人のアーティストの作品を展示・販売します。
大岩オスカールは、日本人の両親の元、日系ブラジル人二世としてサンパウロで生まれ、日本→ロンドン→ニューヨークと活動拠点を移しながら制作してきました。一方、藤堂は日本で生まれ、美術を学ぶためにドイツに渡り、今は日本を拠点に活動しています。どちらも様々な国々の影響を肌で感じながら創作しているアーティストと言えます。
彼らは、両者とも光を媒介とし作品制作を行っています。カラヴァッジョからモネに至るまで歴史上、光は常に芸術とともにありました。そして今、この2人の現代美術家は、光を通して自分たちの物語を表現しています。また、その光の表現の中でも、光の背後にある闇を警告するのがオスカールであり、人間界の問題を照らし出すことで闇を発見するのが藤堂であるようにも感じられます。
大岩オスカール
参考作品《Light Rabbit (night and day view)》2023 / 台湾ランタンフェスティバル出品作品、台北、国父紀念館駅 /※ 会期終了 大岩オスカールは、現在ニューヨークを拠点に活動する日系ブラジル人アーティストです。記憶に新しい2019年の金沢21世紀美術館での個展「Journey to the Light」では、光に満ちた鮮やかな色彩とダイナミックな空間構成が多くの来場者の注目を集め、好評を博しました。また、瀬戸内国際芸術祭や妻有トリエンナーレなど、国際的な芸術祭にも参加しており、油彩画だけに留まらないその場所に合った表現で数々の作品を発表してきました。オスカールの絵画は、光と闇、想像と現実、自然と工業化された都市、有機物と無機物など、日常にある物事のコントラストを表現しています。そして、時にその作品は音や匂い、温度など、色以上のものが、キャンバスの平面世界を超えて私たちを絵の世界へ誘う力を持っているようにも感じられます。 今回のアートフェアでは、オスカールの油彩画8点、隔離生活シリーズの版画を4点、最新作の「シャドウキャット」と「ライトラビット」のドローイングを4点出品する予定です。ドローイングのキャットは影、ウサギが光を表していて、光と闇のシンボルとしていつも描いているモチーフです。このウサギのモチーフは、今年の2月に開催された、台湾ランタンフェスティバル(台北)の作品でも発表されました。台湾の今年の干支もウサギである事も影響して、大きなラビットのバルーンの様な立体をメインストリートの地下鉄の駅に設置。月や地球を思わせる抽象的な球体も一緒に浮かんでいるように展示し、メディアでも注目されました。
台北當代 出品作品 ドローイング 2023
台北當代 出品作品《Giant Octopus 2》2016、キャンバスに油彩、227.0x333.0 cm また、今回出品する作品に《Giant Octopus 2》があります。瀬戸内国際芸術祭で男木島に設置されたサイトスペシフィックな作品《部屋の中の部屋》 と対になるように制作されたこの作品は、瀬戸内の穏やかな海を描きながら、その中に巨大なタコを隠しています。巨大なタコは、その下に潜む未知のトラブルの象徴であり、何があるのかわからないまま穏やかな海面を渡る小さな船と大きなコントラストを与えています。この作品は、光の背後にある闇を警告する作品を代表するものともいえるでしょう。
台北當代 出品作品《男木ハウス 1》2016、キャンバスに油彩、51.0 x 61.0 cm
藤堂
《パレス黒倉》展示風景 2022(photo by keizo Kioku / 越後妻有大地の芸術祭2022参加作品) 藤堂は、その「もの」が持つ「時間」に焦点を当てた作品を制作しています。作品となる「もの」の間にガラスを挟み込むことで、その内側を――その物体が持つ歴史を覗かせるように鑑賞者を導くアーティストです。 その作風は「場所の固有性」をテーマに自ら歩いて集めたものを中心に創造され、様々な形態を持ちます。もっとも代表的な作品はドイツ滞在時から現在まで続くシリーズで、世界各国にある史実を刻んだ土地の石を切断しその切断面に積層ガラスを埋め込み磨き上げた作品です。デュッセルドルフに10年以上住み、肌で感じた西欧文化と日本の美意識が融合されている藤堂の作品は、国内外で高い人気を得ています。 2022年には越後妻有大地の芸術祭にも参加し、新潟県十日町市の山奥にある黒倉集落に残された古びた空き家そのものを使って作品化しました。同時期に磯辺行久記念清津倉庫美術館で開催された大地のコレクション展にも作品を出品しその作品の美しさに注目を集めました。台湾ではこちらの大型の作品も出品されます。
台北當代 作品《dtk 268204》2022、伊達冠石、積層ガラス、50.0 x47.0 x45.0cm (photo by Keizo Kioku / 越後妻有大地の芸術祭2022・大地のコレクション展出品作)
台北當代 出品作品《Brick Block》2021、レンガ、積層ガラス、43.3 x12.0 x20.4cm
台北當代 出品作品《Taiwan Brick TR01》2021、レンガ、積層ガラス、5.8 x 23.2 x11.3cm 今回藤堂は約10点の彫刻を出品予定です。その中でも注目すべきは、当アートフェアのために藤堂が制作したレンガを使った作品です。このレンガには中央にTRと刻まれたものとSの文字が刻まれてあるものの2種類があり、現在でも町のレンガ造りの古い町並みの中に見ることができます。Sの文字が刻まれたレンガは、Samuel & Samuel Companyによるもので、1918年以前にイギリスから輸入されていたものです。一方TRは台湾煉瓦株式会社という会社が作っていたものですが、日清戦争後日本が台湾を支配したという過去の歴史の中に生まれた産物でもあるのです。このレンガを用いた建築は台湾中の20世紀初頭のから第2次世界大戦の終戦にかけての歴史的な建造物に多く使われていて、今も見ることができます。この特徴的な素材を使い、この場所の歴史に焦点を当てることで、藤堂はアートという手段によって、その事実を再認識させます。 また藤堂は2020年に代官山で開催した個展 「筑豊ボタ」 においても日本の近代化を支えた九州の筑豊地方から使えない石炭「ボタ」を集め作品化させました。近代化の波にのまれたその場所に住む人々の「光と闇」を伝えたのです。
VIDEO 藤堂 個展「筑豊ボタ」2020 インタビュー映像、会期終了
文化や歴史を背景に急速な発展を遂げる台湾のアートフェアで、藤堂とオスカールの作品を展示することは、この2人のコラボレーションをより意義深いものにすることでしょう。
ぜひ、台北當代のブースC01(アートフロントギャラリー)へお越しください。
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