展示テーマ:都市空間の不安定さと変容
今回、アートフロントギャラリーのブースでは、物語性と社会風刺に満ちた世界観を力強く表現する
大岩オスカール、インドネシアで最も影響力のあるアーティストの一人である
エコ・ヌグロホ、そして日常の見慣れたものを組み合わせることで、新たな意味を持つ作品を作りだす
角文平の3人の作品を展示します。
この3人の作品に共通する点は、都市化や、自然環境の不安定さ、社会的緊張などの問題を独自の目線で表現し、語りかけているところにあります。
近代化に伴う環境問題や、多文化の融合と密接な関係にあるシンガポールの地で開催されるART SG。私たちが出品する3名のアーティストの作品は、そんなART SGに集う人々に共感と対話を生み出していくでしょう。
大岩オスカール Oscar Oiwa
ART SG出品作品 : 《Boat and waves 3》2023 / キャンバスに油彩、金 / 610 × 760mm
大岩は、サンパウロ、東京、ニューヨークと居を移しながら、独特なユーモアと創想像力で社会問題を描くアーティストです。緻密なタッチや上から見下ろしたような構図を使い、入念なリサーチを基に、迫力のある作品を作り上げます。そんな彼の作風のファンは多く、国内外の多くの美術館で作品が収蔵されています。
大岩は、「自分の周りで起きている社会的出来事が作品制作のヒントになっている」と言います。1989年にサンパウロで建築学科を卒業。その後、東京の建築事務所で働きながらアーティストとして活動を始めました。その頃からニューヨークで活動する現在まで、人工増加や環境問題、パンデミック、そして戦争などの様々な社会問題を、目の当たりにしてきた大岩は、それらの問題に対する社会政治的な批評をシュールな表現と融合させた独特な表現で描き続けています。
今回、出品する作品のひとつ「Aquarium 2」(2024)は、汚染された海を活気にみちながらも混沌とした生態系として描くことで、海洋環境の悪化や、それに加担した人間への批評が美しく表されています。
ART SG出品作品 : 《Aquarium 2》2024 / キャンバスに油彩 / 2270 × 2220mm
ART SG出品作品 : 《Hells Kitchen 1》2023 / キャンバスに油彩 / 1780 × 1374mm
また、「Hells Kitchen 1」(2023)の名前の由来は、大岩の住んでいるニューヨークにあるレストランが立ち並ぶ地域の名であり、かつては危険な場所でした。キッチンという日常的な家庭の風景の中で、生存をかけた戦争が起こっているような二面性を持つシリーズ作品のひとつです。このキッチンでは、食事の準備が政治的混乱の比喩として表され、プライベートな空間と世界の情勢の関連性を映し出しています。
このように大岩の作品は、世界で起きている出来事を、社会風刺と独特のユーモアを交えて、表現しています。環境保全と近代化が絶えず対立するシンガポールの都市事情に深く共鳴し、今回の展示の中心的存在の作品となるでしょう。
エコ・ヌグロホ Eko Nugroho
ART SG出品作品: 《You and Me with Perception #2》2024 / キャンバスにアクリル / 400 × 600mm
ヌグロホは、インドネシアのジョグジャカルタで生まれ、現在もジョグジャカルタを拠点に国際的に活躍するアーティストで、絵画、ドローイング、刺繍、壁画、彫刻、映像に至るまで幅広い表現方法を用いています。2013年のヴェネツィア・ビエンナーレ第55回国際美術展に参加し、国の玄関口とも言えるインドネシア・ジャカルタの空港には、ヌグロホの大型作品が展示されています。
ヌグロホの作品は、1990年代後半の学生を中心とした運動の経験から、社会的なトピックを扱うものも多くあります。地域の伝統と都市環境に強い影響を受けながら、政治的主張に、ストリートアートやグラフィティ、漫画の要素の織り交ぜた新たな視覚言語を作り上げています。特に2024年に制作された「More Love Above the Peace」のシリーズは、現在、そして未来への平和のメッセージが表現されています。何よりも愛を大事にすることで、戦争の引き金となる憎しみや差別、自己中心的な権力などから、人々を救いたいという願いが込められた作品です。また、この作品はジョグジャカルタの昔ながらの刺繍技術が用いられていて、テクノロジーの発展により失われつつある技術を守ろうとする職人たちによって施されたものです。刺繍職人たちの刺繍や作品のプロセスへの思いもまた、ひとつの愛と言えます。ヌグロホは、愛こそがこの世の全てであり、地球を救う鍵になると考えています。
ART SG出品作品 : 《More Love Above the Peace #8》(2024) / 刺繍絵画 / 1850 × 1500mm
ART SG出品作品 : 《Becoming Universal #2》(2023) / 刺繍絵画 / 1540 × 710mm
「Becoming Universal」シリーズでは、普遍的な存在になることの不可能さを表現しています。この作品は、人にはそれぞれの問題や目標、希望を持っており、人生は簡単なものではないことを教えてくれます。人は、縮こまったり、孤立したり、閉鎖的になることで自分を制限され、常に開放的でいることはできません。それによって、自分自身の人生さえも閉じ込めてしまいます。しかし、だからこそ、人生に矛盾するとしても、普遍的な存在になるということは、潜在的な理想の人生だと言えるのではないでしょうか。
遊び心がありながらも鋭い視覚言語によって、アクティビズム、アイデンティティ、コミュニティの交わりを深堀りしています。異文化交流と現代の社会問題が中心にあるART SGにおいて、ヌグロホの作品は、幅広い対話を生み出すでしょう。
角文平 Bunpei Kado
ART SG出品作品 : 《Floating Islands #07》(2024) / 合板、MDFに塗装 / 900 × 900 × 90mm
角の作品は、身近なものに手を加えることで、その存在を力強いシンボルへと変貌させる斬新な手法によって、現代の都市環境における不安定さや矛盾を浮き彫りにしています。ありふれた日常品が作品に用いられ、その「物」または「概念」がパズルのように組合わされたり、組み替えられたり、本来の「物」の意味とは異なる、新たな意味が生まれてきます。見慣れた物の組み合わせによって、実際にはあり得ないことを見せるのが、角の作品の面白さです。
ART SGで主軸となる作品は、クライミングのホールドから着想を得た「Floating Isalnad」シリーズです。この作品は、ミニチュアの木や家、地形などの要素を組み合わせ、ひとつの作品としてまとめ、自然環境を消費可能なものに分類している現状を批判しています。これまでも、家や木、住居、自然をモチーフとして扱っており、「Floating Island」シリーズも、ツバメがちょっとした突起に巣を作るかように、人間が狭い土地に家を建て生活する様子を表しています。
ART SG出品作品 : 《Floating Island Circle #03》(2024) / 合板、MDFに塗装 / 430 × 430 × 90mm
角の作品は、人口密度の高い空間における自然との関わり方や、自然の再構築についての考えを促し、遊び心のある魅力的な立体作品であるというだけでなく、Art SGを訪れた人々を、持続可能性や現代都市の人工的な景観についての深い議論へと導きます。
今回、アートフロントギャラリーのブースでは、都市空間の不安定さと変容というテーマを中心に、3名のアーティストの作品を出品します。環境問題から政治的不安、社会の分断に至るまで、アートがユーモアと革新性をもって、この複雑な現状をどう解きほぐすことができるかを示します。ART SGを訪れる人々にとって、私たちの展示は、単なる視覚的な体験だけではなく、都市生活における課題と希望について考える機会となるでしょう。
■ART SG
2025年1月17日(金)~1月19日(日)
*1月16日(木)はVIPプレビュー
マリーナ・ベイ・サンズ・エキスポセンター、シンガポール
https://artsg.com/