元田久治 Hisaharu Motoda
展覧会出品作品《Foresight: Tokyo Skytree》2017 / 紙にリトグラフ / 76.0x49.5cm
元田は5月6日より、台湾のYUHSIU MUSEUM(毓繡美術館)にて開催されるグループ展に出品しています。日本、韓国、フィリピンのアーティスト6名により構成された本展では「The Everyday Interrupted(日常中止)」をタイトルに掲げ作品を展開しています。コロナ禍を経た私たちは、本展を通して今何を感じるのでしょうか?
■The Everyday Interrupted / 日常中止
会期:2023年5月6日(土)~9月3日(日)
会場:毓繡美術館 / YUHSIU MUSEUM
(台湾、54245 南投縣草屯鎮平林里健行路150巷26號)
参加アーティスト:猪瀨直哉、元田久治、Chihoi、小林敬生、Gregory Halili 、小瀬村真美
ウェブサイト(ENGLISH)
《Indication-Tokyo TowerⅡ》2007 / 紙にリトグラフ / 47x45.5cm [ask]
《CARS:MERCEDES BENZ GL2 》2022 / 16x26cm / 紙にリトグラフ、コラージュ(ミニカー付き) [ask]
元田は大学に在学中に版画技法の一つであるリトグラフと出会いました。絵を描く際の感情のこもった線がリトグラフを介して感情と切り離され、ドライで突き放した見え方になる点で、元田が求めていた対象への客観性をもたらしたといいます。
2004年頃から描き始めた一連の廃墟の風景は、人工的な構造物が風化し自然に帰る過程への興味や、地元から上京してきた際に感じた都市風景に対する違和感に通底しているといいます。元田作品のタイトルに頻繁に登場する3つのキーワード:「Foresight」「Indication」「Revelation」。「予知」や「兆し」、「啓示」を意味するこれらの文言は、作品が起こるかもしれない、もしくは起こるはずもない、現世界の行方を暗示させます。それはフィクショナルであるにも拘らず、大きな天災や紛争、事件などの出来事が起こる度、作品の世界観が現実味を持って捉えられてきました。
2022年の個展 「CARS」では、新展開として、実物大の古びて劣化したミニカーのリトグラフが、実物大の道路の白線の周りに無数にコラージュされ、ミニカーと白線が合わさる事で生じるスケール感の違和感や、劣化した無数のミニカーが集まる事で感じる不穏な気配が印象的な作品群を発表しました。一見、それは全く新しい展開にも思えましたが、それもまた廃墟の風景作品と同様に、現実とフィクションを絶妙に構成することで生まれた作品であり、鑑賞者に日常を問う作品のようにも感じられます。
中谷ミチコ Michiko Nakatani
展覧会出品作品
中谷は4/29(金)から5/14(日)まで、三重県にて個展「耕す人」を開催中です。《すくう、すくう、すくう》シリーズをはじめ、漆喰を使ったドローイングなど新たな試みの作品も展開しています。
■耕す人
会期:2023年4月29日(土)~5月14日(日)
会場:SEEDBED GALLERY / レストラン カルティベイト
(三重県松阪市嬉野下之庄町 1688-5)
ウェブサイト
《痕跡-8》2022 / 石膏、水彩 / 29.8x40x7cm [ask]
中谷ミチコは、1981年東京都生まれ。2012年ドレスデン造形芸術大学修了。一般的なレリーフとは異なり凹凸が反転している立体作品でよく知られています。近年は東京の銀座線虎ノ門駅のパブリック彫刻《白い虎が見ている》や、丸の内ストリートギャラリーの彫刻《小さな魚を大事そうに運ぶ女の子と金ピカの空を飛ぶ青い鳥》でも高い注目を集めているアーティストです。
そんな中谷は三重県に活動拠点を置き、アトリエ近くにある私設美術館では敬老の日のに毎年展覧会を行うなど、地域の息遣いを丁寧に感じ取り、創作活動を行っています。中谷が創り出す人々の多くはしっかりと地面を掴む力強い足を持ち、全身で生きるエネルギーを発しているような力強い魅力があります。
昨年末から今年の初めに開催したアートフロントでの個展でも、地面を踏みしめ生きている物語を感じさせる群像のモチーフで構成された作品《デコボコの舟》が印象的でした。そして、その一部から展開した作品《痕跡》シリーズは、中谷の創作した造形と部分的に壊れた自然の成すカタチにより制作され、モチーフの人々の力強い生命力と、素材の力がそのまま表れた偶然性による彫刻が力強さと繊細さを併せ持つ作品となっています。
大巻伸嗣 Shinji Ohmaki
展覧会出品作品
大巻は4月15日(土)から青森県の弘前れんが倉庫美術館で個展を開催中です。本展では、近年の代表作の一つである「Liminal Air Space-Time」のシリーズをはじめとする新作インスタレーションを中心に紹介しています。同シリーズでは、一枚の薄い布が大きく波打つように有機的に動き、人々のなかに眠っている身体感覚を呼び覚まします。私たちが普段感じることができない時間や空間の境界の揺らぎや目に見えない重力について体感することで、世界の存在そのもの、生と死、崩壊と創造などの根源的な問いに静かに向き合う時空間が生まれます。弘前の土地と人々の記憶が堆積し、展示空間へと生まれ変わった美術館に大巻の紡ぐ再生と創造の物語が重なり、新たな風景が広がることでしょう。
■地平線のゆくえ
会期:2023年4月15日(土)−10月9日(月・祝)
会場:弘前れんが倉庫美術館
(青森県弘前市吉野町2-1)
ウェブサイト
《Echoes-infinity》2013 / キャンバスに顔料、アルミ板 / 65x65x6cm
大巻は、1971年岐阜県生まれ。空間全体をダイナミックに変容させ、観る人を異世界に誘うような幻想的なインスタレーション作品やパブリックアートを数多く手がけています。またアジアやヨーロッパなど世界各地でその土地の風土や記憶を反映させた作品を発表しています。
2002年から展開している《Echoes-Infinity》シリーズは、伝統柄や文様を顔料で描いた作品です。このEchoes-Infinity のシリーズは、「消滅と再生」、「時間と記憶」などをテーマにした大巻の代表的なシリーズで、様々な場を舞台に展開してきました。資生堂ギャラリー(2005)、東京都現代美術館(2010)、エルメスやシンガポール美術館(2012)等での鑑賞者の身体全体を包み込むようなインスタレーションは、作品が消滅したあとも身体的記憶とともに人々の脳裏に残され、そうした体験がひとつの閉じた空間にギュっと詰まっていたこと自体が作品といえるのではないでしょうか。
川俣正 Tadashi Kawamata
展覧会出品作品《Under the Water 八戸》
川俣は、4月29日(土)から青森県の八戸市美術館でグループ展「美しいHUG!」に参加している。「美術館での展覧会」と「地域でのアートプロジェクト」が有機的に交わるあり方や、さまざまな立場の人が作品を通じてハグをするように出会う場を生み出したいと考え企画された展覧会です。
本展では、2016年にフランスのポンピドー・メッスで発表した《Under the Water》シリーズのインスタレーションを発表。東日本大震災の津波で押し流された建具や家具を想起させる作品となっています。また、美術館の外には、巨大な鳥の巣のような作品《Nest in 八戸》も設置され、美術館の外でも鑑賞者を楽しませてくれています。
■美しいHUG!
会期:2023年4月29日(土)−8月28日(月)
会場:八戸市美術館
(青森県八戸市大字番町10-4)
参加アーティスト:川俣正、青木野枝、井川丹、きむらとしろうじんじん、黒川岳、タノタイガ
ゲストキュレーター:森司
ウェブサイト
《Tsunami No.20》 パネル、木、メタル、ペイント / W210 x D8 x H153 cm
川俣は、1953年北海道生まれ。フランス在住。1982年のヴェネチア・ビエンナーレ以降、世界各国の国際展やグループ展に参加し、2005年の横浜トリエンナーレでは総合ディレクターを務めました。東京藝術大学先端芸術表現科主任教授、パリ国立高等芸術学院教授を経て、現在もパリを拠点に活動。完成までのプロセスを作品とみなすワーク・イン・プログレスの手法を基本とし、公共空間に木材を張り巡らせるなど大規模なインスタレーションが多く、建築や都市計画、歴史学、社会学、日常のコミュニケーション、あるいは医療にまでその領域は多岐にわたります。「仙台インプログレス」(宮城県仙台市沿岸部/2017年~)や、「Reborn-Art Festival 2021-22[後期]」(宮城県石巻市/2021-22)でもプロジェクトを展開しています。
《Tsunami No.20》 も《Under the water》と同様に2011年の東日本大震災の後に発表された作品です。《Tsunami 》シリーズは パリのギャラリーKamel Mennour にて、震災後1年経たないうちに展示されました。もし川俣が日本にいたらこのような悲劇を直截的に表現するのは難しかったかもしれません。日本の外にいるからこそ違った角度からこの事象に対峙することができ、このトピックスをもっと客観的な側面から世界にむけて発信することができたといえるでしょう。地震だけでなく多くの犠牲を生み出した津波について、彼の拠点であるパリで展示することができたのは、日本人アーティストによる創造だったからではないでしょうか。