概要
アートフロントギャラリーは都心にしては緑の多い代官山エリアにあり、この地で長くギャラリーを営んでいます。展覧会やイベントを通じて今日のアート界の流れを汲む名の知れたアーティストだけでなく、若手アーティストの紹介を行っています。
我々のギャラリーでは特に、各地で行われる国際芸術祭との関連が強みとして挙げられ、越後妻有トリエンナーレ、瀬戸内国際芸術祭などでアーティストの制作や芸術祭の企画・運営に深く関わっています。
特に妻有は北川フラムによって構想され2000年に始められたものですが、地域の資産を再発見し、アートの力でコミュニティを活性化することで、高齢化の進む過疎地域のおじいちゃんおばあちゃんを元気にしたいとの思いをアートという表現を通じて形にしてきました。実際妻有トリエンナーレはこれまでに多くの来場者をこの地域に呼び込み、アート界のみならず一般社会にとっての地域活性化モデルの一つとして注目されてきました。今回のコロナ危機でもいわゆるグローバリゼーションが行き詰まる中、こうした取り組みの重要性は一層高まっているといえるでしょう。
従って、ギャラリーでの展覧会は、こうした芸術祭と連動して行われることがよくあります。これまでに、蔡國強、レアンドロ・エルリッヒ、エコ・ヌグロホ、ムニール・ファトゥミ、川俣正、そして今回展覧会を企画しているアデル・アブデスメッドなどをギャラリーで作品展示してきました。
蔡 國強, 1957-, 中国/アメリカ
蔡國強は妻有トリエンナーレにアーティストとしてだけでなく、ドラゴン美術館のキュレーターとしても参加してきました。2015年には中国の神仙思想に基づいた蓬莱山をキナーレの池の真ん中に創り出し、トリエンナーレのオープニングでは、そのすぐ横で火薬を爆発させたいわゆるガンパウダードローイングを制作、すぐに東京のギャラリーに運んで展覧会をオープンさせました。ドローイングのモチーフとして、地元の子供たちが描いた海の生き物などが使われており、現在でもこれらのドローイングが人気を集めています。
展示風景 :蔡國強(ツァイ・グオチャン)個展 "アート・アイランド", アートフロントギャラリー, 2015
レアンドロ・エルリッヒ, 1973-, アルゼンチン
"Palimpsest: 空の池" ,越後妻有里山現代美術館[キナーレ], 2018
レアンドロ・エルリッヒも2006年の妻有トリエンナーレに参加、地元の公園に鏡を使った作品を設置しました。2018年にはキナーレに大規模な作品を発表しましたが、これはレアンドロの得意なイリュージョンを池の周囲に現出させる作品。建物の鏡像が水面下のタイルに描かれた絵と重なることで複層化しています。意図的にずらされた二つの像は、建物の二階のある一点から見ると完全に重なり、虚像が実像に変わるのです。
レアンドロは瀬戸内国際芸術祭(2010, 2019)にも参加したほか、ギャラリーでは2回個展を行っています(2014, 2018) 。このうち、2018年の展覧会は森美術館での初めての個展「見ることのリアル」と同時開催で、多くの来場者でにぎわいました。
エコ・ヌグロホ, 1977-, インドネシア
インドネシアのアーティスト、エコ・ヌグロホは2017年に石川県で開催された第1回奥能登国際芸術祭に参加。廃線となった鉄道能登線の終着駅、旧蛸島駅を舞台に日本とインドネシアの人と鉄道を巡る物語を紡ぎました。
昨年は瀬戸内国際芸術祭2019にも参加し、空き家となっていた家に平面と立体の作品を発表し、好評を博しました。
展示風景: エコ・ヌグロホ 個展 Nowhere is My Destination, アートフロントギャラリー, 2019
東京のギャラリーでは壁一面に張られたキャンバスに直接描き、作家が瀬戸内や東京で出会った風景や人物が見る人の感性をくすぐりました。
ムニール・ファトゥミ, 1970-, モロッコ/フランス
展示風景: "過ぎ去った子供達の歌" 瀬戸内国際芸術祭2016, 2019
モロッコ / フランス人のムニール・ファトゥミは瀬戸内海の粟島にて作品を発表しています。廃校となった小学校の教室には停まったままの時計や机やいすが並べられ、校庭には脇に置かれていた子供たちの銅像が再び光をあてられることになりました。このインスタレーションはかつて小学校に通っていた地元の人や来場者の共感を呼び、2019年の芸術祭では屋上の壁に作家からのメッセージを描き加えるなど新たな形で復活しました。
展示風景: ムニール・ファトゥミ個展 "Peripheral Vision", アートフロントギャラリー, 2017
ファトゥミは東京でも「教室」のインスタレーションを完成させ、瀬戸内と都会の教室、場所は違っていても連動し、また幼少期に思うようには学校に行かれなかった作家自身の教育の場へのこだわりを感じさせる作品となりました。
また別の部屋には、アラビア文字を抜いた歯車のインスタレーション「machinery」を発表しましたが、これは「神は美を愛する」といったコーランのテキストを直接作品化したものです。それをチャップリンのモダンタイムズを連想させるような歯車に展開していったところに、モダンとは何か、近代化の波はもう十分にアラブ諸国に浸透しているのだろうか?民主化は完遂しているのか?といった質問を考えさせました。
川俣 正, 1953-, 日本/フランス
"中原佑介のコスモロジー" ,大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2012, 新潟 ,photo by Osamu Nakamura
川俣正は現在国内外で最も知られた日本人アーティストだと思われます。
アートフロントギャラリーでは1980年代、川俣がインスタレーション作品を手掛けたときからお付き合いを続けています。妻有ではこちらも廃校を使ったインスタレーションを発表しましたが、小学校全体が作品のアーカイブとしても機能し、ただ見るだけではない展示の可能性を模索しました。山型に積み上げられた本は、2000年の妻有トリエンナーレを美術評論家として新たな芸術の在り方とサポートした故・中原佑介氏の寄贈図書なども含まれています。
展示風景: 川俣正"「 工事中 」 再開", アートフロントギャラリー, 2017
2017年に久々の個展をアートフロントギャラリーで開催したときには、川俣は原点ともいうべき1984年の「工事中」のマケット一式を展示し、また舞台となったヒルサイドテラスの屋上に「工事中再開」のインスタレーションを木材で組みあげ、多くのメディアにとりあげられました。我々のギャラリーもこのインスタレーションの一部になっています。
"Project Begijnhof, Kortrijk no.14" 810 x 1220 x 100 mm, バルサ材、アクリル、合板, 1990
80年代から90年代にかけて、川俣はNYのP.S.1やルーズベルトアイランドやヨーロッパで意欲的なプロジェクトを次々と展開しており、その構想を表しているマケットを制作しています。ベルギー、スイス、日本などでの初期作品もアートフロントギャラリーにて扱っています。
さらに詳しいギャラリーの情報、アーティストの作品につきましては こちらをご覧ください。
■アデル・アブデスメッド
■蔡 國強
■レアンドロ・エルリッヒ
■エコ ヌグロホ
■ムニール・ファトゥミ
■川俣 正