プロジェクトProject
Gallery's Picks for the Month (9月)
奥能登国際芸術祭
[今月のピックアップ作品]
今月は今開催中の奥能登国際芸術祭に参加する作家からギャラリー一押しの5名の作品を紹介します。芸術祭での作品解説も対にしてお届けします。コレクション作品と空間的な作品の違いもお楽しみ下さい。作品のお問い合わせは contact@artfrontgallery.com もしくは03-3476-4868(担当:庄司・坪井)まで。
■奥能登国際芸術祭2020+:2021年9月4日(土)-10月24日(日)51日間
場所:石川県珠洲市全域
チケット(パスポート):大人(前売り)2500円、当日券 3000円、 大学生(前売り) 1000円、当日券 1200円、 小、中学生(前売り) 300円、当日 500円
『奥能登国際芸術祭2020+』の会期中(2021年9月4日(土)-10月24日(日))、作品鑑賞パスポートの提示ですべての作品(イベント除く)をご覧いただけます。
※作品会場へは、パスポートに名前を記名した本人さま1回のみ有効です。
※再発行、払い戻しはできません。
※前売は9月30日(木)までの販売価格、当日は10月1日(金)以降の販売価格
※未就学児無料
電子パスポートも購入いただけます。:https://art-ap.passes.jp/user/e/oku-noto2020plus
新型コロナウイルスの世界的に感染拡大に伴い、会期を延期していました奥能登国際芸術祭2020+ですが、2021年9月4日(土)から10月24日(日)までを会期として開催を決定いたしました。十分な感染対策のもと、安全に開催できるよう努めます。
ご来場の皆さまには大変ご不便をおかけいたしますが、何卒ご理解いただき、皆で芸術祭を成功させるようご協力いただけますようお願い申し上げます。
新型コロナウイルス感染拡大防止に向けたガイドライン
※一部の作品が現状9月12日まで石川県のまん延防止等重点措置適用期間においての公開を制限させていただいています。
公開、非公開について 詳しくはこちらからご確認ください。
金氏 徹平
金氏徹平は1978年生まれ。2003年に京都市立芸術大学大学院彫刻専攻を修了し、現在も京都を拠点に活動しています。
今回ピックアップする作品は、現在2021年9月より開催中の奥能登国際芸術祭2020+の作品とも関連性のある作品です。
日本海に突き出る能登半島の最先端に位置する珠洲市を視察する中で金氏が注目したのは、海からいくつもの違う方向の遠くを想像できる環境であるという事と、町中に巨大なキリコ倉庫(伝統的なお祭りの為の燈籠であるキリコを収納する倉庫)がたくさん点在しているという事でした。珠洲との出会いは、「いま、ここで、いま、ここではない場所や状態を想像させるこの地で、それらがすぐ隣に存在し続けていることを感じながら生きていく」という事について、思考を巡らせるきっかけになったと言います。奥能登の日常に突如現れた不思議な穴、そしてその中から現れる様々なマテリアル。これらは日常のコンテキスト(人々の理解しているあり方)から解放され、異様な存在感となって我々の前に現れます。ポップな色とキッチュな組み合わせは金氏作品の真骨頂です。
以前より2次元と3次元、内と外、嘘と本当、常時と非常時、、、対極ではあるけれど、明確な形や境界線は無いようなことが混ざり合って一つの状況や構造を作ることを想像することで、造形のチャンスとしてきた金氏が、この作品では、リコーによる最新の印刷技術である2.5次元のプリントを用いて制作しました。奥能登の最新の作品がコレクション可能な立体として登場しました。今回は写真の大理石バージョンとアルミバージョンの2つが登場しました。是非会期中に会場でご覧ください。
大岩 オスカール
大岩オスカールは1965年生まれ。会田誠やパルコ木下らと昭和40年会のひとりとして知られており、物語性と社会風刺に満ちた世界観を、力強くキャンバスに表現するアーティストです。独特のユーモアと想像力で、サンパウロ、東京、ニューヨークと居を移しながら制作を続けています。サンパウロに生まれ、建築学科を卒業した作家は、東京の建築事務所で働きながらアーティストとしても活動。奨学金を得てニューヨークに移り住み、現在も米国を拠点としています。大岩はよく旅をし、移動しながら複数の文化に根差した自らのアイデンティティを模索しているように思われます。緻密なタッチや鳥瞰図的な構図を使い、新聞記事やネットの中に社会問題の糸口を見出し、入念なリサーチをもとに大画面をしあげる彼の作風のファンは多く、国内外の多くの美術館で作品が収蔵されています。2019年の金沢21世紀美術館での個展には15万人以上の来場者がありました。
今年2月には新型コロナウイルスによる隔離生活を題材に20枚の連作のデジタルドローイングをプリントとして発表、一部作品は完売する人気を見せました。
現在開催中の奥能登国際芸術祭2020+では、使わなくなった金属の焼酎タンクを植木鉢に見立てその中に植物を植えている新作を発表しました。線路上に起伏を大胆につけた盛り土とその中にあちこちを向いて乱立する焼酎タンクは、日本海荒波にもまれているように見えます。一方でいま世界中が新型コロナによって混乱の最中に置かれており、各国がまさしく時代の波に翻弄されています。その中においてもそこに生える植物はまっすぐ上を向いて生えており、そこにはオスカールが期待する人々の強さや未来に向かう姿と希望が反映されています。
久野 彩子
久野彩子は、ロストワックス鋳造技法を用いて作品を制作します。ロストワックスとは、ロウで作った精密なカタチを鋳物に置き換える手法で、久野の作品は硬質で重厚な金属の質感と共に、細部にまで技巧を凝らした表現も併せ持っています。主に「都市」をテーマに、様態を変えながら増殖し、構築されていく都市のうごめく姿を想起させる久野の作品は、堅牢な金属に施された高密度の造形美を表現します。奥能登国際芸術祭では、今回の肝いり企画である大蔵ざらえに関するプロジェクトにおいて、シアターミュージアムを監修する南条嘉毅さんに招聘され作品を発表しています。2020年2月にアートフロントで発表した作品からヒントを得て、大蔵ざらえによって集められた珠洲周辺の古民具を用い、その地域のかつての生活を想起させるような作品を展開。光と影の演出を加えることで、歴史を踏まえた時間的にも空間的にも奥行きのある作品へと昇華しています。今回の奥能登の中でも必見の作品と呼び声が高いです。
竹中 美幸
竹中美幸は1976年生まれ。初期では余白をいかした柔らかな色彩で描く種子のシリーズを描いていました。その後竹中の主軸をなすようになった樹脂の作品は、雫型の樹脂を数枚のアクリル板にたらしたもので、光を反射しその影を落とします。水彩絵の具で描かれた繊細なにじみとともに影が映りこみ、作品外部にある光の条件を取り込んで、様々な表情をなげかけてきます。竹中の作品は一貫してその作家性を主張しながらも空間に柔らかくとけこみ、パブリックスペース、住宅を問わず幅広い場に調和し、新たな空間を創出します。2013年にはフイルムに恣意的に光を露光することで色を与え、それを複数の層として重ねることで見えないはずの光、あるいは光によって初めて見えるようになるはずの何かをフイルムという物体を通して可視化する作品も発表しました。近年は、自身の作品の源が光の揺らぎにあるとして、平面だけにとどまらず光を用いた空間的な作品も展開中です。
竹中もまた南条によってシアターミュージアムに招聘された一人です。珠洲における竹中の作品は、板ガラスで構成された単純な幾何学による家の形をとっており、誰しもが一目で家と認識できる形をしていて象徴的な家を表しています。ガラスの奥はカーテンで閉ざされていますが、その中には、光によって照らされた影が踊っています。これらの影は、作家が珠洲で発見した一つの日記からもたらされたイメージです。その日記は、戦中から戦後にかけての珠洲の人々の暮らしが記されていました。これまで語られることのなかった小さな半島に住む人々が実際に体験した過去の歴史と地域の営みが作品を通して浮き彫りにされます。
南条 嘉毅